JR北海道は今夏、臨時列車の特急「フラノラベンダーエクスプレス」にてテレワークを実施した。キハ261系5000番代「ラベンダー編成」を使用し、6月24日から8月12日までの金曜日はテレワークを優先。観光需要に応えつつ、ビジネス利用も狙った。
特急「フラノラベンダーエクスプレス」は夏期(6~8月)に期間限定で運行される臨時列車。札幌駅を発車後、途中の岩見沢駅、滝川駅、芦別駅に停車し、終着の富良野駅へ向かう。2021年にデビューしたキハ261系5000番代「ラベンダー編成」がおもに使用される。
筆者は夏休みが始まる直前の7月下旬、札幌駅から「フラノラベンダーエクスプレス」に乗った。首都圏は連日酷暑が続いているが、朝晩の北海道はひんやりとしていて心地良い。早速、「ラベンダー編成」の待つホームへと向かう。
周囲を見回すと、観光客らしき人がほとんど。列車の先頭部付近で記念写真を撮る人も多い。前面のLED種別表示器を見ると、富良野のラベンダー畑をあしらった特別仕様となっていた。側面を見ると、ラベンダーの色にも濃淡がつけられていることがわかる。
「ラベンダー編成」は5両編成で、1号車が「ラベンダーラウンジ」(フリースペース)、2・3号車が普通車指定席、4・5号車が普通車自由席となっている。筆者は2号車の座席に着席した。自由席は少し空きがある状態に見受けられたが、指定席は7~8割ほど埋まっている。こども連れの観光客が多く、スーツ姿の人はほとんどいない。
車掌のアナウンスを聞いていると、テレワークに関する説明があった。1号車にある多目的室をテレワーク用として利用でき、1回の利用時間は30分。待っている乗客がいなければ、継続して利用できる。1号車「ラベンダーラウンジ」内にテレワーク優先席を設けており、こちらは制限時間なしで利用可能。ウェブ会議や音声通話は多目的室でのみ行える。
列車は遅れていた千歳線の普通列車との接続待ちを行った影響で、3分ほど遅れて7時56分に札幌駅を発車した。通常ダイヤの合間を縫って走るためか、スピードは少々ゆっくりしている。江別駅を通過したあたりから、加速が良好になった。
岩見沢駅が近づいてきた。観光列車らしく、車掌のアナウンスで沿線自治体の説明や名所案内が行われる。良いタイミングだと思い、テレワークを試すために1号車へ向かった。
幸い多目的室が空いており、入ってみることにした。1号車の入口付近にJR北海道の社員が待機しており、テレワークで多目的室を利用したい旨を話すと、使用方法や注意事項を説明。申込時に記入する利用簿をチェックすると、筆者の前にも2人ほど利用者がいたが、早々に退室している様子だった。
多目的室に入ると、落ち着いた木目調のインテリアが迎えてくれた。本来は体調不良時の休憩や授乳などで使用するスペースのため、仕切り扉を閉めると周囲の会話が聞こえなくなり、作業に集中できる。コンセントやフリーWi-Fiは全車両に完備されており、この多目的室も同様。コンセントカバーを開けると、スマートフォンを横にして置けるスタンド機能も有していた。ウェブ会議を行う必要があるときなど、重宝するだろう。
作業で疲れたときは、左を見れば車窓から北海道の大自然が次々と目に飛び込んでくる。気分転換しやすく、良い仕事ができそうだと感じた。Wi-Fiはトンネルに入ると圏外になり、山間部で少し遅くなるものの、通常使用の範囲ではほとんど気にならない。
筆者は多目的室を25分ほど利用した後、退出。その際、入口に立っていたJR北海道社員から利用アンケートを求められたので、回答した。「ラベンダーラウンジ」も覗いてみたが、札幌駅を発車する前から座席を確保していた乗客も多く、利用することはできなかった。落ち着いた雰囲気のラウンジで、長時間滞在したくなるのもうなずける。
函館本線を走ってきた「フラノラベンダーエクスプレス」は、滝川駅を発車するとポイントを渡り、単線非電化の根室本線に入った。空知川の雄大な風景や、合計で8kmほどトンネルが続く滝里トンネル・島ノ下トンネルなど、都会ではなかなか体験できないスケールの車窓風景が続く。札幌駅発車時の遅れも取り戻し、定刻通り9時49分、終着の富良野駅に到着した。
富良野駅のホームに降り立った乗客たちは、笑顔でそれぞれの目的地へと向かっていった。筆者も少しだけ駅周辺を散策してみたが、空気がカラッとしていて心地良く、忘れられない時間となった。
富良野市は観光だけでなく、ワーケーション事業にも力を入れているという。ホームページを見ると、洗練されたデザインの施設が多数ある様子。今回は利用できなかったが、次回、富良野に来ることがあればぜひ訪問してみたいと思った。