これらの推定した分布が組み合わされ、20km四方のメッシュに分割した世界地図が作成され、メッシュごとのアリの種数(種の豊富さ)が推定されたほか、分布が非常に狭いアリの種数(種の希少度)を算出することにも成功。一般的に分布の狭い種は、環境の変化に特に弱い種だという。
また、問題として浮上したのが、サンプリングバイアス(標本の偏り)であったという。多様性が豊かであると予想される地域にも関わらず、地図上にそれが示されていなかったためで、これは当該地域でのアリの研究があまり進んでいなかったことが理由であったという。一方、欧米の一部など、ほかの地域ではサンプリング(標本の採取)が充実しており、この違いが世界規模の多様性の推定に影響を及ぼす可能性があったとする。
そこで研究チームは機械学習を利用し、世界中の全地域から均等に標本を採取したら、生物多様性の予測がどう変化するのかを分析することにし、その結果、標本未採取の未知の種が多数存在すると推定される地域を特定することに成功。分布の狭い新種を求め、新たに探索すべき範囲を絞るのに有用な指針になるとする。
ちなみにOISTのある沖縄県は、種の希少度が高いことが示されたという。これは、琉球列島の固有種の多くは、生息分布が北米や欧州に分布する種の約1000分の1と非常に狭いためであり、研究チームでは、生物多様性を保全するためには、沖縄のような地域の環境保全が不可欠だとしている。
研究チームではこれらの取り組みを踏まえ、アリの分布の希少度や豊富さについて、比較的研究が進んでいる両生類、鳥類、哺乳類、爬虫類など、脊椎動物との比較も実施しており、その結果、アリとこれらの脊椎動物との分布の違いは、同じ脊椎動物同士で比較した際に見られる分布の違いと、同程度であることが判明したとしている。このことは、アリが進化系統樹で脊椎動物から非常に遠いことを考えると、予想外の結果だという。
またこの結果は、脊椎動物の多様性の保全を優先的に行うべき地域では、昆虫などの無脊椎動物の多様性も高い可能性を示唆しているため、重要な手がかりとなるとするが、それと同時に、アリの多様性パターンには独自の特徴もあることを認識する必要があるともしている。たとえば、地中海や東アジアにおいては、脊椎動物よりもアリの多様が豊かであることが目立っているとしている。
なお、研究チームでは、アリの多様性が豊かな地域がどの程度保全されているのかの調査を実施した結果、国立公園や保護区など、法的に保全が行われている地域は、アリの希少度で上位10%に入る地域のうちの、15%に過ぎないことを確認。この割合は、脊椎動物の保全地域よりも低い値だったとしており、エコノモ教授は今回の成果に対し、「これらの重要な地域の保全に向けて我々がやるべきことは、非常に多いといえるでしょう」とコメントしている。