藤井聡太竜王への挑戦権を争う第35期竜王戦(主催:読売新聞社)の挑戦者決定戦第1局、山崎隆之八段―広瀬章人八段戦が8月9日(火)に関西将棋会館で行われました。結果は126手で広瀬八段が勝利し、挑戦権まであと1勝としました。
まず改めて両者の今期竜王戦を振り返ってみると、山崎八段はランキング戦1組で佐々木勇気七段に勝ち、佐藤天彦九段に敗れて出場者決定戦に回りました。こちらでは渡辺明名人と松尾歩八段を連破し、1組4位で決勝トーナメントへ進出します。決勝トーナメントでは1組5位の稲葉陽八段と1組優勝の永瀬拓矢王座を破っています。
広瀬八段はランキング戦2組で藤井猛九段、三枚堂達也七段、都成竜馬七段を破り、この時点で決勝トーナメント進出と1組昇級を決めました。2組決勝では森内俊之九段を破って優勝し、続く決勝トーナメントでは1組3位の丸山忠久九段と1組2位の佐藤天彦九段を連破しました。
本局は山崎八段の先手から相掛かりとなります。先後は違いますが、山崎八段は準決勝の対永瀬王座戦と同様に、中央へ銀を二枚並べる構想をみせました。広瀬八段は低い陣形に構えて対抗します。
優劣不明の中盤戦が長く続きますが、84手目△4四桂の両取りで飛車角交換を強要し、奪った飛車を先手陣に打ち込んだ広瀬八段が徐々にリードしていきます。山崎八段も手にした角を打ち込んで後手の飛車を奪いましたが、後手は飛車を取られる間に先手陣へ着実に迫りました。
■事件発生
ところが事件が起こります。△4八飛と王手をかけて▲5八歩の合い駒をした106手目、ここで△5七歩なら後手優勢が続いていました。▲5七同銀と取れる形ですが、対して△4五飛成▲6三馬に△7七銀と打ち込んで先手玉を寄せることが出来ます。
実戦は単に△4五飛成と銀を取りましたが、これは▲6三馬と竜取りに引いて逆転しました。7七へ一枚多く利いているので△7七銀でも先手玉は寄りません。馬引きに△4九竜と入れば先手玉は詰めろですが、それは▲4一飛△3三玉に▲4九飛成と要の竜を抜かれてしまいます。広瀬八段はこの順をうっかりしていたそうです。▲6三馬には△5六桂から先手玉に迫り、土俵際まで追い詰めますが最後のひと押しが足りません。山崎八段に攻める手番が回ってきました。
■時間切迫、そして再逆転
ですが山崎八段は持ち時間が切迫しています。そのような状況で迎えた117手目、実戦は▲6三飛と王手に打ちましたが、ここでは▲6二飛と一マスずらして打つ順がまさったのです。△9六歩で詰めろがかかりますが、そこで▲3四金△同玉▲3二飛成と迫れば、△4五玉(他の応手は詰み)に▲2七角と打ち、盤上にある3枚の大駒を駆使して後手玉を追い込めば先手勝ち筋だったようです。とはいえ王手竜取りになる▲2七角は、次にすぐ▲4九角と後手の竜を取ると先手玉が詰んでしまうので、この順を選びにくいのは仕方がないかもしれません。
本譜の▲6三飛に広瀬八段は△5三金と飛車に当てて受けました。山崎八段は秒に追われて▲6二飛成と逃げましたが、ここで再逆転します。後手玉に寄りがないので、△7七歩成が厳しく入り、ここからは広瀬八段が押し切りました。▲6二飛成では▲6四馬と銀を取り、△6三金に▲3四歩と玉頭をたたけば先手に分があったようです。
いよいよ大詰めを迎えた今期竜王戦、挑戦者決定戦第2局は8月23日(火)に東京の将棋会館で行われます。広瀬八段がこのまま押し切るか、山崎八段が不屈の闘志を見せるか、注目です。
相崎修司(将棋情報局)