「住宅ローンの固定金利が上昇している」というニュースを見かけた方もいらっしゃるのではないでしょうか。固定金利が上がると変動金利も上がってしまうのではないのかと不安に思われる人は少なくありません。
ここで知っておきたいのが、固定金利と変動金利は違う指標をもとに決められているということ。よって固定金利が上昇したからといって、変動金利まで上昇するとは限りません。
今回は、固定金利が上がっているのに変動金利が低いままである理由を解説します。
■2022年8月現在の住宅ローン金利
住宅ローンの固定金利は、2022年7月までは上昇傾向が続いていましたが、8月になると大手5行で引き下げられました。 しかし、変動金利とのあいだには依然として大きな金利差があります。
民間金融機関と住宅金融支援機構が提供する住宅ローン「フラット35」の借入金利は、7月から0.02%上昇し1.53%となりました。※融資率9割以下、新機構団信付きの金利
一方の変動金利については、近年は低水準で推移しています。金融機関によっては金利を引き下げるキャンペーンを実施しており、金利上昇の気配はみられません。
例えば、auじぶん銀行は2022年9月30日(金)まで変動金利を0.41%から0.389%に引き下げるキャンペーンを実施しています。
また、新生銀行は2022年12月15日(金)までに借り換えを申し込み、適用条件を満たすと変動金利を0.45%から0.35%に引き下げるキャンペーンを実施しています。
このように固定金利は上昇傾向であるのに対し、変動金利は引き続き低水準となっています。
■固定金利だけが上昇している理由
住宅ローンの固定金利は「新発10年物国債」の利回りをもとに決まります。「日本の金利はいずれ上がるだろう」と投資家が考えて取引をし、新発10年物国債の利回りが上昇したことで、固定金利も上昇しました。
<固定金利が上昇した主な要因は日本とアメリカの金利差>
将来的に日本の金利が上がると予想されたのは、アメリカとのあいだに大きな金利差があるためです。
アメリカでは、急激な物価上昇(インフレ)が起きており、それを抑えるために金融政策の最高意思決定機関であるFRBは、政策金利を引き上げている状況です。金利が引き上げられることで、住宅ローンや企業向け融資などの利息負担が上がり、個人や企業は消費や設備投資がしにくくなることで、景気の過熱が抑えられます。
一方の日本では、景気がいまだ回復しないため、中央銀行である日銀(日本銀行)は、アメリカとは逆に政策金利を引き下げています。そのため、日本とアメリカのあいだで大きな金利差が生じて「円安」を招く結果となりました。
銀行にお金を預けたり金融商品を購入したりするとき、一般的には金利が高いものが選ばれます。それと同じ理由で、日本円を売って米ドルを買う動きが強まったために、円の価値が下がって円安となったのです。
そのため「日本は円安を解消するために、金融緩和政策を止めて金利を引き上げてくるだろう」と考え、新発10年物国債を売却する投資家が増えたことで利回りが上昇しました。
<変動金利は金融政策が変更されない限り上昇しない>
変動金利の指標となっている「無担保コールレート(オーバーナイト物)」という金利は、日銀の金融緩和政策によって低く抑えられています。そのため、固定金利が上昇しても日銀が金融緩和政策を止めない限り変動金利は上昇しません。
仮に、日銀が円安を解消するために金融緩和政策を止めた場合、金利が上がって消費や設備投資が鈍りさらに不景気になる可能性があります。
たとえアメリカの金利が上がろうとも、日本の景気が良くなっていないのであれば、日銀が金融緩和政策を止めるとは考えにくいでしょう。直近の2022年7月22日に開催された金融政策決定会合においても、引き続き金融緩和政策をすることが決まっています。
また、固定金利が今後も上がり続けるとは限りません。下のグラフにある通り、新発10年物国債の利回りは7月の下旬ごろから下がりはじめています。
さらには、1ドル140円台に突入するといわれていた為替レートは、8月1日現在で1ドル132円となっており円高が進んでいる状況です。
この傾向が続けば、変動金利が上がる前に固定金利が下がる可能性も考えられるでしょう。
金融や経済のリテラシーがあるといわれる人でも、将来の予測は非常に困難です。「固定金利が上がったから変動金利も上がる」「アメリカが高金利だから変動金利が上がる」といった単純な話ではないため、情報に振り回されないように充分な注意が必要でしょう。