藤井聡太竜王への挑戦権を争う第35期竜王戦(主催:読売新聞社)の決勝トーナメント準決勝、佐藤天彦九段―広瀬章人八段戦が8月5日(金)に東京・将棋会館で行われました。結果は103手で広瀬八段が勝利し、挑戦者決定戦へ進出しました。
本局は広瀬八段の先手で、角換わりに進みます。この戦型によく見られる、水面下での腹の探り合いから、先に動いたのは佐藤九段でした。対して広瀬八段は2六に角を設置して相手の動きを牽制します。
以下の進行は後手が攻めに回る展開で、徐々に後手持ちとなっていったのですが、広瀬八段が放った81手目の▲4四桂が勝負手。一見タダで取れそうな位置に放たれた桂馬ですが、これを取ると後手の飛車が窮屈になり、飛車をいじめながら攻めを繋げることができる仕掛けです。佐藤九段はこの桂馬が見えていなかったと言います。対して広瀬八段は「消去法でしたけど、桂を打てて勝負形になったかなと思いました」と振り返っています。
運命を分けたのは92手目、直前に佐藤九段が△2八飛と王手角取りに打ち込み、広瀬八段が▲7八歩と合い駒した局面です。
ここで角を取った△2六飛成が逸機でした。手の流れからしても角を取るのは当然のように見えますが、この瞬間攻めの飛車はそっぽにそれ、先手玉はだいぶ安全になっています。次の▲4三歩が鋭い一手で、詰めろではありませんが、後手の受けが難しくなりました。以下も多少のアヤはありましたが、広瀬八段が押し切りました。
では92手目に戻って、後手はどのように指すべきだったのでしょうか。ここでは△5六馬と2九の馬で銀を取る手がまさったようです。▲同歩と取られますが、そこで△2六飛成とすれば、2九の馬がいなくなっているので、次に△2九竜と入る手が生じるのが大きいのです。
△5六馬▲同歩△2六飛成に対し「▲3二銀から寄せて勝ちたいですけどね」と広瀬八段は語りました。しかしどうもその順は危ないようです。ハッキリとした結論は出ませんでしたが「このほうがアヤはありました」と佐藤九段は語りました。
広瀬八段の竜王戦挑決進出は第31期以来、2度目となります。この4年前は深浦康市九段を2勝1敗で下して挑戦権を獲得、七番勝負では羽生善治竜王(当時)を破り、自身初の竜王を獲得しました。今期は果たしてどうなるでしょうか。山崎隆之八段との挑戦者決定戦第1局は8月9日(火)に関西将棋会館で行われます。
相崎修司(将棋情報局)