現在はさまざまな自動運転技術が開発されていますが、「行き先を指定したら自動的に目的地に到着する」という公道を走るクルマは、実用化までにまだ時間がかかりそうです。もう少し身近に感じられそうな自動運転として、電動車椅子を使った「WHILL自動運転モビリティサービス」実証実験が成田空港で行われました。

自動運転の電動車椅子「WHILL」、8月10日までは成田空港の第2旅客ターミナルの国際線を使用する人なら誰でも無料で体験可能。今回、このサービスを実際に体験してきました。

  • 今回の実証実験は、「エレベーターの昇降」まで自動というのがポイント

  • 最新機器は片っ端から試したくなるマイナビニュース・デジタルの林編集長。もちろん今回も実際にWHILLで自動運転を体験しました

  • 実証実験が行われている成田空港の第2旅客ターミナル。「WHILL STATION」の看板が目印です

エレベーターと連動して異なる階にも自動移動

今回の実証実験では、出国審査後の保安検査ゲートを抜けた近くに「WHILL STATION」を設置。国際線を利用する人なら、登録などの面倒なく誰でも自由に利用できます。WHILLに座り、ひじかけ部分の端末で多少のタッチ操作を行うだけです。

  • WHILL STATIONの看板の横にWHILLが3台。8月10日までの実証実験では3台のモビリティが稼動します。ちょっとワクワクする眺めです

  • WHILLに座ると手元のディスプレイが言語選択画面に切り替わり、すぐに利用できます。日本語と英語のほか、ニーズが高いという中国語とベトナム語も選択可能

ちなみに羽田空港では、2021年から自動運転機能を搭載したWHILLの運用が始まっています。羽田空港は同一フロア移動のみですが、成田空港のWHILL自動運転モビリティサービスはエレベーターを使った階移動までも自動で行います(実証実験ということで、自動運転に対応したエレベーターは1基のみ)。

エレベーターとWHILLが専用通信モジュールで連携し、利用者がエレベーターのボタンを押さなくても、自動的にWHILLのいる階に停止して目的の階まで昇降します(目的の場所はWHILLの手元端末で入力)。もちろんエレベーターのドアも自動で開閉するため、利用者は本当に座っているだけです。

WHILLの自動走行はあらかじめ学習させたマップデータを参照しながら、WHILLのセンサー類で検知した周囲の状況に合わせて走行ルートを判断します。ビーコンやGPSなどは利用していないということです。

必要な操作は「目的地の選択」だけ、ハンズフリーで搭乗ゲートまで移動

  • 貸し出し用のWHILL。一般的な車椅子とはだいぶ違った雰囲気です

  • 特徴的なのが、前輪のオムニホイール。ホイールが横方向にも回転することで、狭いエリアでも方向転換が可能です。この仕様は施設内での移動にピッタリですね

使い方も簡単。WHILL STATIONにあるWHILLに座り、左手側のひじかけにあるディスプレイ端末で行き先を選ぶだけです。

成田空港で利用できるWHILLは、市販されている個人用の「WHILL Model C2」と基本スペックはほぼ同じ。空港での自動運転に対応するため、背中側にバスケットが取り付けているほか、自動走行用に各種センサーを追加している点が異なります。また、Model C2は最高6km/hで走行できますが、空港内を走る実証実験用WHILLは最高速度は2.5km/hです。

  • WHILL本体の後ろ側には、荷物を入れるバスケット(10kgまで)。そこまで大きなバスケットではないので、ちょっと大きめの手荷物用スーツケースは入れるのが難しいかも……

  • WHILLに座ったら、手元のディスプレイで言語と行き先を選択

WHILLに座ってみると、座り心地はなかなか良好。ちょっとしたオフィスチェアくらいクッションが効いており、安定しています。筆者はずいぶん昔に1カ月ほど車椅子で生活していたことがあるのですが、乗り心地は圧倒的にWHILLが上です。

行き先を入力したら、ディスプレイにカウントダウンが表示されたのち移動が始まります。電気で動くため駆動音はかなり静か。このため、移動中はピーンポーンパーンと音が鳴り、前方を歩いている人がこちらを認識できるようになっています。もちろん進行ルートに人がいたり物があったりする場合はセンサーが検知して自動的に停止します。

【動画】エレベーターをボタンで呼び出していないのに、自動でエレベーターが到着してドアが開き、目的の場所まで連れて行ってくれます。とにかくすべて自動(音声が流れます。ご注意ください)

  • WHILLに乗っているときは、手元のディスプレイでいつでも止まれます。荷物を入れるバスケットの左右側面には緊急停止ボタンがあるので、利用者に問題が起きた場合は周りの人がWHILLを停止させることも可能です

人が行き来する成田空港のため、WHILLの移動速度は先述の通り時速2.5km/h以内。WHILLは本来の最高速度が6km/hあるため、2.5km/hというのはかなり遅いのでは? と思っていたのですが、実際に乗ってみる意外とスピード感があります。WHILLに付き添って横を歩いていると、2.5kmというのは話ながらのんびり移動するにはピッタリのスピードでした。大人が歩く平均的な速度は4km/hといわれています。

【動画】WHILLから降りると、WHILLは自動でWHILL STATIONに帰っていきます。無人で帰還する様子には愛らしさを覚えます。目的地に到着する前に降りると、60秒のカウントダウンが始まり、その間に再乗車がなければ目的地到着前でも帰還します(音声が流れます。ご注意ください)

将来が楽しみになるモビリティ体験

空港というのは多くの旅客機が発着する関係から、同じフロアの移動距離が長くなりがちです。さらに成田や羽田のような巨大空港となれば、メインターミナルから通路を延ばして設けた「サテライト」に搭乗口があることも多いもの。飛行機に乗るまでにかなりの距離を歩かされる可能性がある場所です。

空港側もムービングロードを設置したり、無料の電動カートを用意したりするなど各種サービスで乗客を補助してくれます。足腰の悪いユーザーは、エアラインのスタッフに頼めば無料の車椅子も貸し出してくれます。

とはいえ「スタッフに頼むのも悪いし……」「歩けないわけではないからがんばって歩くか」と、サービスをためらう人もいます。とくに手動の車椅子は、スタッフが搭乗口まで押してくれることに申し訳なさを感じる人も多いといいます。空港の自動運転モビリティサービスは、今まで「人にお世話をかけたくない」と感じていた人にありがたいサービスとなりそうです。

成田空港の実証実験は8月10日でいったん終了しますが、できるだけ早い時期に本格稼動を開始するとのことでした。サービスの有効性が実証されれば、今後は大きな施設やテーマパークなどでは、当たり前のように電動モビリティサービスを提供してくれるようになるかもしれませんね。