先日、最低賃金を31円引き上げ961円(全国加重平均)とする目安が示され、大きな話題となりました。「時給が上がるのは助かる」との声も聞こえてきますが、最低賃金で働いた場合の給与、暮らしぶりが気になる人もいるでしょう。

そこでこの記事では、最低賃金で働くと、月の手取りや年収、支払う税金や社会保険料はどのくらいになるのか計算してみました。

■22年度の最低賃金の目安は961円へ

厚生労働省の審議会は、22年度の最低賃金を31円引き上げ、961円(全国加重平均)とする目安額を決定しました。最近の物価上昇に対応したことにより、今年度の引き上げ幅は昨年度の28円アップを上回り、過去最高となりました。

目安額は、都道府県の経済情勢に応じてA~Dの4つのランクに分けられ、引き上げ幅はAとBで31円、CとDで30円でした。最終的な金額は都道府県ごとに決められ、10月から適用される予定です。

最低賃金が目安通りに引き上げられると、最も金額が高くなるのは東京都の1,072円。次に、神奈川県の1,071円が続きます。一方、最も金額が低いのは高知県と沖縄県で850円。東京都とは222円もの差が開くことになります。

■最低賃金で働く場合の手取り収入や税金、社会保険料は?

最低賃金で働くと、手取り月収や年収、税金、社会保険料はどのくらいになるのでしょうか。そこで、以下のような条件のもと、最低賃金の全国平均961円で働いた場合の給与、引かれる税金、社会保険料を計算してみました。

<計算の条件>

1日の労働時間:8時間
1ヶ月の労働日数:23日(週休2日)
年齢:40歳未満
扶養人数:0人

<1ヶ月の給与>

額面給与:17万6,824円
手取り給与:14万8,015円

最低賃金961円で1日8時間、1ヶ月で23日働くと、日給にして7,688円、額面給与は17万6,824円となりました。そこから税金や社会保険料が引かれ、手取り給与は14万8,015円です。なお、支払う税金や社会保険料の内訳は、以下の通りです。

<税金、社会保険料>

源泉所得税:2,980円
健康保険料:8,829円(事業主も同額を負担)
厚生年金保険料:1万6,470円(事業主も同額を負担)
雇用保険料:530円(事業主は1,149円を負担)

これらの税金、社会保険料を支払うと控除額合計は2万8,809円ですので、これを額面給与17万6,824円から引くと、手取りは14万8,015円となります。

年収も計算してみましょう。1ヶ月の額面給与、手取り給与を単純計算で12ヶ月分にしますと、年収は212万1,888円、手取り年収は177万6,180円です。

  • 40歳未満、1日8時間、週休2日で働いたケースでシミュレーション

■平均給与との差はどのくらい?

最低賃金で週5日、フルタイムで働くと、年収は約212万円、手取り年収は約178万円という結果が出ました。それでは、たとえば、30代の男性の平均給与と比べると、どのくらいの違いがあるのでしょうか。

国税庁の「令和2年分 民間給与実態統計調査」によると、30~34歳の男性の平均給与は458万円でした。扶養家族のいない独身の人なら、手取り年収は約360万円になります。ここではわかりやすく、ボーナスがないと仮定しますと、1ヶ月の手取り給与は約30万円となる計算です。

最低賃金で働いた時の1ヶ月の手取りは約14万8,000円ですので、30代前半の男性の平均給与は、最低賃金で働く場合の約2倍ということになります。

では、最低賃金の暮らしとはどのようなものなのでしょうか。最低賃金ですと、1ヶ月に使えるお金は15万円弱となり、独身の一人暮らしでも生活は楽とは言えません。仮に必要最低限の生活はできても、貯金が難しく、急な出費が発生した際にはお金が不足する恐れもあるでしょう。

扶養する家族がいて2人以上で生活するなら、生活費をかなり抑えなければなりません。また、時給制で働いている場合、ゴールデンウィークやシルバーウィークなど祝日が多い月には収入が減り、さらに生活水準が落ちることもあります。

それに、近頃の物価上昇は食品や日用品、家電、電気・ガス料金など多岐にわたります。最低賃金が上がっても、たった31円の引き上げでは、物価上昇による負担増が解消される状況には至らないでしょう。

■31円の引き上げでもまだまだ苦しい

今年度の最低賃金は、31円アップと過去最大の引き上げ幅となりましたが、ほとんどの都道府県で、政府が目標としていた1,000円には未到達でした。この最低賃金では、「まだまだ生活は苦しい」と言わざるを得ません。

最低賃金は、労働者が安心して暮らせる最低限の金額にすべきでしょう。コロナ禍や物価上昇など、困難なことが多い世の中だからこそ、賃金について改めて真剣に考えていきたいものです。