キティインターナショナルスクールは、2022年4月より「オンライン」と「eスポーツ」を活用した幼児・子ども向けの英会話・英語教育サービスを開始している。海外姉妹校や自治体と連携したこの新サービスのカリキュラムと魅力について伺ってみたい。
約40年の歴史があるキティインターナショナルスクール
近年、子どもに英語力と国際的な価値観を学ばせるためにインターナショナルスクールの需要が増している。その中でも1983年に設立され、パイオニアとして長く地域に愛されているのがキティインターナショナルスクールだ。運営元のキティクラブは、国際理解と幼児教育を2大テーマとし、東京都内5カ所、横浜市1カ所で運営。フランチャイズ契約などを行わずにすべて直営であることも大きな特徴といえる。
そんなキティクラブが、東京都世田谷区に「ICT&プログラム専門棟・二子玉川キャンパスWEST」を新設。NTT東日本の全面的な協力のもと、2022年4月から「eスポーツを活用した新たな英会話教育サービス事業」と「幼稚園・保育園向けオンライン英会話教育サービス事業」という2つの事業を開始しているという。
「eスポーツ」と「オンライン」を活用した新たな英会話・英語教育サービスの特徴と魅力について、キティクラブの代表取締役社長で一般社団法人日本幼児英語協会代表理事を務める斉藤和樹氏と、同スクール 二子玉川WEST HCO兼ICT&プログラミング教育長のカリン・モーガン氏に伺ってみたい。
完全な英語環境でゲームやプログラミングを体験
ICTを活用した事業を始めようと思ったきっかけは、斉藤氏が2020年に訪れたNTT東日本のセミナーだったという。
「二子玉川キャンパスWESTの土地はもともと取得済みで、事業の拡大は大前提でした。日本は世界に比べ、ICT教育で後れを取っています。民間のスクールである我々こそ、公立にはできない学びを提供しなければならないと考えました」(斉藤氏)
NTT東日本が提案した新規事業の中にeスポーツがあり、そこから生まれたのが「eスポーツ/オンライン×幼児英会話」という取り組みだ。
この授業の中で行われるのは、いってみれば普通のeスポーツ体験にすぎない。子どもたちは、オンラインを通じて「フォートナイト(FORTNITE)」や「マインクラフト(MINECRAFT)」を自由に楽しむ。ただしゲームやソフト内でのコミュニケーションはすべて英語で行われ、PCの言語設定もすべて英語になっている。
「eスポーツは今や一種の競技、一種の習い事として認められる世の中になっていると思うんですね。僕らの世代は『ゲームは一時間だけ』と言われつつもゲームに没頭していたじゃないですか。単純にその楽しいことをまるっと英語でやったら、これほど英語を学習するにおいて良い環境はないんじゃないかと思ったわけです」(斉藤氏)
完全に日本語環境から離れ、英語環境に浸す「イマージョン教育」こそ、「eスポーツ/オンライン×幼児英会話」の本質といえるだろう。モーガン氏は、実際に授業を担当した感想を次のように話す。
「子どもとはいえ、生徒たちはみなひとつの人格とかけがえのない個性を持った一人の人間であり、『学べ』と言えば学ぶわけではありません。ですが、人と共同して何かを成し遂げたいと思えば自然に会話が生まれます。自ら楽しみたい、学びたいと思うeスポーツが子どもたちのモチベーションになっていて、みな授業を楽しみにしてくれています」(モーガン氏)
やはりゲームは、子どもたちが前向きに取り組むきっかけになるのだろう。ある年長の女の子は、授業が終わった後に「ボタンを押したら前に進むんだよ!」「これはマウスといって、この操作は右クリックっていうんだよ!」と父親に熱心に話していたという。
「『次はこのゲームを始めますよ』とポスターを貼ると、子どもたちから『知ってる!』と反応があります。先日は生徒の中に誕生日の子がいて、『MineCraft for Education』の中で誕生日パーティ開いてましたね。みんなですごいケーキを作ったり、ゲーム内でプレゼントを用意したりという感じで、とても盛り上がっていました。なによりも大切なのは子どもたちが楽しみ、ハッピーな気分でいること。そのなかで英語を提供していきたいと思います』(モーガン氏)
苦労したのは英語とゲームを教えられる人材の獲得
国内ではまだまだ事例の少ない「eスポーツ/オンライン×幼児英会話」。もともとインターナショナルスクールであり、英語教育の基礎は十分にあったとはいえ、事業を始めるにあたっては多くの苦労があったそうだ。
「NTT東日本さんにご協力いただいたので、機材に対する不安はありませんでした。コロナ禍や紛争の影響を受けて半導体が不足するなかで設備を整えていただきましたし、講師の補助もしていただき、とても助かりました。やっぱり一番大変だったのは人材です。我々は『なにを教わるか』と同じくらい、『だれに教わるか』がすごく大事だと考えています」(斉藤氏)
しかし、英語ができる人、ゲームができる人はたくさんいても、英語とゲームができて指導もこなせる人は日本には少ない。そこでキティクラブは海外から講師を招き、リアルなゲーム体験と英語教育を行っている。
「我々はSNSのフォロワー数が7万人ほどいるアメリカの女性ゲーム配信者をスタッフとして招へいしました。また『オーバーウォッチ(Overwatch)』において全米8位の選手も同じく招致し、我々のカリキュラムの中で教えてもらっています」(斉藤氏)
その他、eスポーツを教育に取り入れるという新しい取り組みゆえに、保護者の理解やカリキュラム作りなど、これまでにはない多くの課題があったと斉藤氏は述べた。
「これは僕の実体験でもありますが、親に言われてやる活動は身につきにくいものです。しかし自分で興味を持ち、本当に汗をかいてやったことはその人をずっと支えてくれます。eスポーツもあくまでそんな選択肢のひとつに過ぎません。当スクールでは他にも体操だったり、バレエだったり、さまざまな先生に来ていただいています。好きなことを見つけ、とことん熱中できる形を作って行きたいと思います」(斉藤氏)
日本のICT教育を世界水準に
日本でも2019年の茨城国体でeスポーツ大会が行われ、競技人口は増すばかりだ。世界に目を向けると、将来的にオリンピックの種目にという話も上がっている。もちろんeスポーツに限らず、ICT教育はこれからさらに注目されていく分野だろう。
だが、世界と比較するとまだまだ日本のICT教育は発展途上だ。その遅れを取り戻すべく、キティクラブもさらなる挑戦を目指しているという。
「ロンドンの姉妹校では、スクリーンに映ったリンゴを指でつまんで動かし、生徒たちの目の前にリンゴを置く、といったデジタルとリアルが融合した授業が行われています。日本ではコロナ禍でようやくオンライン化が進みましたが、欧米ではオンライン前提の設備が整っています。こういった設備のある環境を子どものうちから体験できるようにしてあげたいと思っています」(斉藤氏)
そのためには、大風呂敷を広げるだけでなく、地に足をつけた地道なアップデートも必要と斉藤氏は述べる。現段階で最先端の機器がそろっていても、5年後には必ず古くなるのがICT教育の常だからだ。
「新規事業に対しては、東京都内だけでなく全国から問い合わせがきています。先日も山口県から『オンラインで授業を受けてみたい』という連絡がありました。今後の方向性としてはオンラインも対面もあり得るでしょう。一方で、教育者としては対面の重要性も無視できません。いまや子どもたちもオンラインで世界に繋がれる時代ですが、子どもたちが実際に生きる世界は地元です。やっぱり集まれる場所があって、そこに通うことも幼児教育に関しては必要不可欠だと感じています。そのためにも地域の方々に愛されるスクールでなくてはならないと考えています」(斉藤氏)
新しい英語教育の先駆者となったキティインターナショナルスクール。そして同スクールを陰から支えるNTT東日本。両社が目指す次世代のICT教育の動向に、今後も注目したい。