名古屋大学(名大)、東京大学(東大)、すばる望遠鏡(国立天文台)は8月2日、約120億年前の遠方宇宙の銀河周辺におけるダークマターの存在を検出することに成功したことを発表した。
同成果は、名大 素粒子宇宙起源研究所の宮武広直准教授、東大 宇宙線研究所の播金優一助教、同・大内正己教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する機関学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。
目に見えない正体不明な物質であるダークマター。近年の研究から、我々の宇宙の構造形成や、銀河形成などの重力源として不可欠なことがわかってきた。そんなダークマターは、直接観測は不可能であるものの、重力レンズ効果を利用することで、その分布を測定することは可能だとされている。ダークマターは銀河の中心部に多く存在しているとされるが、その周辺にも存在していることも知られている。銀河周辺の重力レンズ効果は微弱なため、多数の銀河を重ね合わせることで、それらの銀河を取り巻くダークマターにおける平均的な分布を測定することができるという。
これまでの研究では、銀河を背景光源にした重力レンズ効果を利用することで、現在から約80億年前までの銀河周辺におけるダークマターの分布が測定されてきた。ところが、それより遠方の宇宙では(1)観測できる遠方銀河の数が少ない、(2)背景光源として使える銀河がない、という2つの大きな問題から銀河周辺のダークマター分布が測定されていなかった。
すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「HyperSuprime-Cam(HSC)」を用いた「可視光撮像銀河サーベイ(HSCサーベイ)」は、330夜かけて全天の約30分の1の天域を観測する大型計画であり、非常に遠方の銀河まで観測することが可能とされている。
そこで研究チームは今回、この性能を活用し、HSCサーベイが3分の1の天域を観測した時点のおよそ150万個ほどの120億年前の銀河を検出し、大規模な遠方銀河サンプルを作成することで、観測可能な遠方銀河の数を増やすことにしたとする。
また、背景光源として使える銀河がないという問題に対しては、ビッグバン直後の38万年後の“宇宙の晴れ上がり”イベントが生じた際の、まだ今よりも非常に熱い宇宙から届く、最古の光である「宇宙マイクロ波背景放射」(CMB)を背景光源として用いることで解決を図ったとする。このCMBのデータについては、欧州宇宙機関のプランク衛星のマイクロ波による観測データが用いられたという。
研究チームでは、こうした可視光とマイクロ波のデータを組み合わせることにより、約120億年前の銀河周辺のダークマターを検出することに成功したとする。