起業をすると、どのような税金が発生するのでしょうか。税金の仕組みは複雑でわかりにくいものですが、起業を志すなら、基本的な税金の知識は身に付けておきましょう。
ここでは、起業するとかかる税金について、個人事業主と法人に分けてわかりやすく解説します。
■個人事業主として起業するとかかる税金
起業する時、個人事業主と法人どちらを選ぶかによって、発生する税金は異なります。まずは、「個人事業主として事業を始めるとかかる税金」を確認してみましょう。
<所得税>
所得税とは、個人の所得に対してかかる税金です。所得税を求めるには、まず、1年間の収入から経費を引いて「所得金額」を出し、さらにそこから所得控除を差し引いて「課税所得金額」を算出します。そして、課税所得金額に一定の税率を掛けると、納付すべき所得税が計算できます。なお、税率は所得に応じて5~45%と大きな幅があります。
また、所得には不動産所得や給与所得、雑所得など10種類があり、個人事業主の事業の儲けは「事業所得」に当たります。複数の所得がある場合、原則として全て合算しますが、分離課税といって所得の種類ごとに税率を掛けて税額を算出する所得もありますので、注意しましょう。
所得税は、毎年2月16日から3月15日までの確定申告の時期に納めます。
<個人住民税>
個人住民税は、「道府県民税(東京23区は都民税)」と「市町村民税(東京23区は特別区民税」を合わせたもので、1月1日時点で住所のある市区町村にまとめて納付します。
個人住民税には道府県民税、市町村民税のいずれにも「所得割」と「均等割」があり、所得割は前年の課税所得に10%が課されます(道府県民税4%、市町村民税6%)。一方、均等割は所得に関係なく定額です。原則として、道府県民税は1,500円、市町村民税は3,500円、合わせて5,000円となっています。
会社員の場合、住民税は給与から天引きされますが、個人事業主は自分で納める必要があります。毎年6月頃になると、住民税の決定通知書が自治体から送られてきますので、これに同封されている納付書を使って納めましょう。支払いの時期は、6月末、8月末、10月末、翌年1月末の年4回です。
<個人事業税>
個人事業税とは、地方税の一つで、都道府県に納める税金です。個人事業税は、収入金額から必要経費と事業主控除の290万円等を差し引いた金額に、税率を掛けて算出します。
個人事業税の対象となるのは70種類の法定業種のみで、この70種類に該当しない業種の場合、課税されることはありません。ただし、ほとんどの事業が法定業種に当てはまります。
法定業種は3つの区分に分けられていて、それぞれ課される税率が異なります。たとえば、第1種事業には飲食店業、保険業、広告業など37業種があり、税率は5%です。第2種事業には畜産業、水産業など3業種があり、税率は4%。第3種事業には30業種があり、医業、弁護士業、コンサルタント業などは税率5%、あんま・はり・きゅうなどは税率3%となっています。
なお、確定申告をしていれば事業税申告書は提出不要で、都道府県税事務所から納税通知書が送られてきます。個人事業税は、毎年8月31日と11月30日の年2回に分けて納めます。
<源泉所得税>
個人事業主でも、従業員を雇い給料を支払っている場合は、源泉所得税を納めなければなりません。源泉所得税は、従業員へ支払う給与から所得税、復興特別所得税を差し引き、通常、給与を支払った月の翌月10日までに納めます。また、従業員への給与以外にも、原稿料や弁護士・税理士に支払う報酬からも徴収します。
源泉所得税は毎月納付するものですが、納付特例の適用を受けている場合、1月から6月分を7月10日までに、7月から12月分を翌年1月20日までにまとめて支払うことも可能です。
なお、源泉所得税は「源泉徴収税額表」に基づき計算すると便利ですので、国税庁ホームページからダウンロードして使用しましょう。
<消費税>
さらに、個人事業主でも、条件に当てはまる場合は消費税の納付義務があります。この場合の消費税は、個人の消費者としてではなく事業者として支払う消費税です。
消費税は、顧客が商品やサービスを購入する時に支払った消費税から、材料など仕入れをした時に支払った消費税を差し引いた金額を国に納めます。
個人事業主の場合、前々年の課税対象売上高が1,000万円以下だった場合は消費税の納付が免除されます。また、開業1年目も、判断材料となる課税対象売上高が存在しないため、自動的に消費税が免除となります。
ただし、前々年の課税対象売上高が1,000万円以下でも、前年の1月1日から6月30日までの課税対象売上高が1,000万円を超える場合は、消費税の納付義務が発生します。消費税は1月1日から12月31日までが課税期間となり、翌年3月31日までに納付します。
■個人事業主が受けられる控除とは
個人事業主になると、確定申告において前年の所得を申告し、所得税を支払います。その際、各種の控除を使えば、所得税の計算のもとになる「課税所得金額」を減らし、税金の支払額を抑えることができます。
また、個人事業税を計算する際も、利用できる控除があります。以下に、個人事業主が受けられる控除をまとめましたので、忘れずに利用しましょう。
<青色申告の特別控除>
税務署に「開業届」と「青色申告承認申請書」を提出すると、青色申告の特別控除が受けられます。特別控除の金額は、10万円または65万円です。
65万円の控除を受けるには、
①複式簿記など「正規の簿記の原則」で記帳した帳簿
②記帳に基づいて作成した貸借対照表および損益計算書
の2点を確定申告書に添付し、提出しましょう。その他にも、65万の控除を受けるには、e-Taxを利用した確定申告書の提出または電子帳簿保存が必要となります。必要書類があっても、窓口または郵送での提出ですと、控除額は55万円になりますので気を付けましょう。
<所得控除>
所得控除とは、所得金額から一定の金額を差し引ける制度のことです。所得控除には、以下の15種類があります。
基礎控除
配偶者控除
配偶者特別控除
扶養控除
社会保険料控除
小規模企業共済等掛金控除
生命保険料控除
地震保険料控除
寄附金控除
ひとり親控除・寡婦控除
勤労学生控除
障害者控除
医療費控除
雑損控除
確定申告時には、自身に当てはまる所得控除を忘れずに申請しましょう。
<事業主控除>
個人事業税を計算する際、1年間事業を行っている場合は、一律で290万円の控除が受けられます。事業期間が1年に満たない場合は月額割となり、たとえば、事業期間が6ヶ月ですと145万円の控除となります。
事業主控除は、収入金額からそのまま290万円が差し引かれますので、収入が290万円に満たない場合、個人事業税は発生しません。
■法人として起業するとかかる税金
次に、法人として起業した場合にかかる税金の種類を見ていきましょう。
<法人税>
個人事業主は所得税を納めますが、法人として起業すると法人税を納めます。法人税とは、株式会社などの法人が事業によって得た収益に課される税金です。
所得税の場合、「累進課税」といって課税対象となる金額に応じて税率が変わりますが、法人税は、法人の種類と規模によって税率が決まるという特徴があります。たとえば、株式会社など普通法人を例に挙げると、
・資本金1億円以下の中小法人の税率は、年間所得800万円以下の金額は15%、年間所得800万円超の金額は23.4%(開始事業年度が2018年4月1日以後は、23.2%)
・ 中小法人以外の法人の税率は23.4%(開始事業年度が2018年4月1日以後は、23.2%)
と定められています。このほかにも税率の区分は細かく決められているため、計算の際には間違えないように気を付けましょう。
<法人住民税>
法人住民税は地方税の一つで、事業所などがある市区町村に納める税金です。法人住民税には法人税割と均等割の2つがあり、法人税割は法人税の額に住民税の税率を掛けて計算します。
法人税割の税率は、一定の基準を超えている法人には「超過税率」が適用されますが、それ以外の法人には「標準税率」が適用される自治体が多くなっています。法人税割の標準税率は、以下の通りです。
・2019年9月30日までに開始する事業年度:都道府県民税3.2%、市町村民税9.7%
・2019年10月1日以降に開始する事業年度:都道府県民税1.0%、市町村民税6.0%
一方、均等割は、資本金の金額や従業員の数に応じて課税されます。たとえ事業が赤字でも支払いが免除されることはありません。均等割の金額は各自治体によって金額が異なりますが、たとえば、東京都の特別区内に事業所がある場合は、以下の通りとなります。
・資本金1,000万円以下、従業員数50人以下…7万円
・資本金1,000万円以下、従業員数50人超…14万円
・資本金1,000万円超1億円以下、従業員数50人以下…18万円
・資本金1,000万円超1億円以下、従業員数50人超…20万円
なお、東京都では、事業所の所在地が特別区かどうかにより、均等割額が異なります。事業所のある地域の均等割額を確認しておきましょう。
<法人事業税>
法人事業税は、事業所を設けて事業を行っている法人、または、事業所を設けている人格のない社団や財団のうち、収益事業を行っている場合に課される税金です。
法人事業税は、資本金1億円以下の中小法人は、所得金額を課税標準とした所得割が課せられ、資本金1億円以上の法人は、所得割に加えて付加価値割が課せられます。
なお、法人事業税率は都道府県によって異なりますので、個別に確認しておきましょう。
<源泉所得税>
個人事業主と同じく、法人も、従業員を雇っている場合などは源泉所得税の納付義務が生じます。源泉所得税の計算方法や納付の時期などは、個人事業主と同じです。
<消費税>
法人が支払う消費税も、基本的には個人事業主の場合と変わりません。ただし、法人は、基準期間がない事業年度の開始の日における資本金の額または出資の額が1,000万円以上である場合、課税対象となります。基準期間とは、納税義務の判定の基準となる期間のことで、法人は原則として前々事業年度を指します。
なお、消費税の納付時期は、決算月から2ヶ月以内となります。
■個人事業主、法人の税金をしっかり把握しよう
個人事業主、法人、どちらで起業するにしても、それぞれいくつもの税金が発生します。知らずに納税し忘れたということがないよう、しっかり把握しておきましょう。
なお、個人事業主と比べると、法人のほうが経費にできる種類が多かったり、確定申告の控除額が大きかったりと、お得な場合があります。起業当初から利益が見込めるなら、はじめから法人を設立した方が税金が安くなるケースもありますので、そのあたりも見極めてどちらで起業するのか決めましょう。