アストロバイオロジーセンター(ABC)と国立天文台(NAOJ)は8月1日、すばる望遠鏡に搭載された新型の赤外線ドップラー装置「IRD」を用いて、小型かつ低温の晩期赤色矮星を戦略的に観測して系外惑星を探査するプロジェクト「IRD-SSP」において、同プロジェクト発見第1号となる系外惑星を、地球から約37光年離れた位置にある太陽の約1/5の質量の「ロス508」の周囲に発見したと発表した。
また今回発見された「ロス508b」は、星系内のハビタブルゾーン内縁を楕円軌道で公転していること、そして公転赤外線分光器を用いた系統的探査で発見された系外惑星としては、世界初となることも併せて発表された。
同成果は、NAOJ ハワイ観測所の原川紘季研究員、東京工業大学の佐藤文衛教授らの国際共同研究チーム(IRD-SSP)によるもの。詳細は、「日本天文学会欧文研究報告」に掲載された。
天の川銀河には1000億とも2000億とも呼ばれる恒星があるとされ、そのおよそ4分の3を占めると考えられているのが、太陽よりも小型の赤色矮星(M型)とされている。赤色矮星は、太陽にもっとも近い恒星であるプロキシマ・ケンタウリをはじめ、太陽系近傍にも数多く存在するため、近年の系外惑星探査では、これら赤色矮星に注目が集まっているという。近距離にあることから、それらの星系に惑星を発見できた場合、大気の表層の詳細な観測をできる可能性もあるからためだという。
ただし赤色矮星は表面温度が4000度以下と低温のため、可視光では非常に暗いことが課題となっている。従来の可視光分光器を用いた惑星探査では、プロキシマ・ケンタウリを周回する惑星など、限られたごく近傍に位置する赤色矮星の周囲にしか発見されていない。とりわけ、表面温度が3000度以下の「晩期赤色矮星」は、系統的な惑星探査が行われておらず、この可視光での分光観測の困難さを解決するため、赤色矮星では比較的明るい赤外線での、高精度分光器による惑星探査が待たれていたという。
そうした中、ABCが8メートル級望遠鏡用としては世界で初めて開発に成功したのが、すばる望遠鏡用の高精度赤外線分光器(赤外線ドップラー装置)「IRD」であり、ドップラー法を用いて、人が歩く程度のほんのわずかな速度であっても恒星のふらつきを検出でき、その星を惑星が回っているかどうかを確かめることが可能とされている。
そしてこのIRDを用いて、2019年よりスタートしたのが、晩期赤色矮星を戦略的に観測し惑星を探査するプロジェクトであるIRD-SSPであり、晩期赤色矮星の周囲の系統的な惑星探査を行う世界初の国際プロジェクトで、国内外の研究者約100名が参加している。
最初の2年間は、小型の惑星も検出可能な、雑音の少ない「安定した」赤色矮星を発見するためのスクリーニング観測が行われた。現在は、スクリーニングによって精選された、50個程度の有望な晩期赤色矮星を、集中的に観測する段階に入っているという。