乳酸菌などがヒトの健康機能に有益な作用をする場合、「十分量を摂取したときに宿主に有益な効果を与える生きた微生物」、いわゆるプロバイオティクスとして作用している可能性があることから、加熱または破砕したSBT2227株を食べさせたところ、死菌の状態であってもハエの睡眠を促進することも判明したとする。

また、破砕した菌体を遠心分離して細胞内容物や細胞内膜成分が多く含まれる上清画分と、細胞壁成分が多く含まれる沈殿画分に分けた上で分析を行ったところ、細胞内容物や細胞内膜成分が多く含まれる画分に、睡眠を促進する作用があることが見出されたという。これらの結果は、SBT2227株の細胞内容物や細胞内膜成分が有効成分であり、その有効成分は熱安定性が高いことを示すものだとする。

さらに、既存の腸内細菌を除去したハエにSBT2227株を食べさせてもハエの睡眠が促進されることから、既存の腸内細菌は同株の作用に影響を及ぼさないことも確認されたという。

加えてSBT2227株が、どのように睡眠を促進しているのかを確かめるため、腸の遺伝子発現の変化が網羅的に調べられたところ、神経ペプチド(細胞間での情報の伝達を担う分子群)の発現が、SBT2227株を食べることで変化していることが確認されたことから、これを糸口にして、SBT2227株の効果を介在している神経ペプチドの探索を行ったところ、「ニューロペプチドF」(NPF)がSBT2227株の効果に必須であることが突き止められたとする。

なお、NPFに類似した神経ペプチドとして、ほ乳類が有するのが「ニューロペプチドY」(NPY)だという。NPFはハエに対して、NPYはほ乳類に対して、同じように睡眠に作用することが報告されているものの、一貫した結果は得られていないと研究チームでは説明している。とはいえSBT2227株が、「夜間開始時」という限定されたタイミングの睡眠を促進し、そこにNPFが必要なことは今回の研究成果として明らかになり、現時点でNPF(NPY)の睡眠への作用は明らかにされていないが、それを解明する手掛かりにもなると考えられるともしており、今回の研究成果を踏まえると、SBT2227株はヒトにおいても睡眠を促進する可能性があるとしている。

  • 今回の研究内容の概要図

    今回の研究内容の概要図。乳酸菌SBT2227株は、夜間開始時の睡眠を促進することが明らかにされた。実験はハエで行われたが、ヒトでも同じ効果がある可能性があるという (出所:名大Webサイト)

今後については研究チームでは、今回の研究成果を土台として、ハエからヒトまでに共通する睡眠の仕組みや、そこに対する乳酸菌の作用などの解明が期待されるとしているほか、今回の産学連携により、消費者の睡眠に対するニーズに合致する商品を実用化することで社会課題の解決への貢献が期待されるとしている。