将棋界のトップ棋士12名が参加する選抜棋戦、第43回将棋日本シリーズ JTプロ公式戦(協賛:日本たばこ産業株式会社)、7月30日は1回戦の羽生善治九段―菅井竜也八段戦が行われました。結果は128手で羽生九段が勝ち、2回戦へ進出しました。

第43回将棋日本シリーズ JTプロ公式戦のトーナメント

本局は先手の菅井八段が初手から▲5六歩△3四歩▲5八飛と、得意の中飛車を明示します。対する羽生九段も△5四歩~△5二飛と、相中飛車に進めました。相中飛車はプロ同士の対局としては珍しく、羽生九段の相中飛車は1995年のNHK杯、対丸山忠久九段戦まで遡ります。なおこの時は先手の羽生九段が先に中飛車に振ったのに対し、丸山九段が相中飛車で対抗したものです。

相中飛車が確定してからの進行は菅井八段が振り飛車党らしく、右辺に玉を囲ったのに対し、羽生九段も盤の右辺(羽生九段から見たら左辺)に玉を囲います。対抗形に類似していますが、飛車が5筋でにらみ合っているのが珍しいのです。そして先手の銀が4六と6六にいますが、後手の銀も4四と6四におり、中央での勢力が完全に拮抗しています。往年の人気将棋漫画「5五の龍」(つのだじろう氏著)で「見せ槍銀」と紹介された形を思い出す方もいるかもしれません。

以下、菅井八段は穴熊のように玉を1九へ潜り、さらに飛車を2八へ戻して玉頭攻めを狙います。対して羽生九段は薄くなった中央突破を目指します。どちらの攻めが速いのか。先に敵陣に火をつけたのは菅井八段ですが、その代償として銀損となりました。攻めが続けば菅井よし、逆に切れてしまうと羽生九段の反撃が待っているという展開です。

徐々に先手の攻めが切れ模様の様相を呈してきました。先手にとっては歩が少ないのもマイナスで、細かい手段が使えないのです。決め手となったのは106手目の△6一金でしょうか。これで先手の7一角が助からなくなっています。菅井八段は角を取られる間に手段を尽くして後手の飛車を入手しますが、6一から7一に動いた金が受けに絶大な威力を発揮し、先手が飛車を打ち込むスキがありません。

最後まで丁寧に攻めの面倒を見た羽生九段が勝利し、2回戦進出。次戦の相手は藤井聡太竜王です。藤井―羽生戦は昨年11月の王将リーグ以来となります。トップ棋士が集まる日本シリーズから、ますます目が離せません。

相崎修司(将棋情報局)

意表の作戦を採用して快勝した羽生九段(写真は第81期順位戦B級1組1回戦のもの 提供:日本将棋連盟)
意表の作戦を採用して快勝した羽生九段(写真は第81期順位戦B級1組1回戦のもの 提供:日本将棋連盟)