2022年7月2月に発生したKDDIの大規模通信障害が社会的に大きな影響をもたらしましたが、携帯電話会社が大規模な通信障害を起こす可能性は今後もゼロではありません。そうした事態に備えて用意しておきたいのがバックアップ回線ですが、出費を最小限に抑え、なおかつスマートフォンの2台持ちをせずにバックアップ回線を持つにはどうすればよいか、「eSIM」の利用を中心に考えてみましょう。
安価なサービスとeSIMで通信障害に備える
KDDIが2022年7月に起こした通信障害は、その影響が非常に多岐にわたったことで社会的に大きな影響を与えましたが、実は大規模な通信障害は他の携帯電話会社でも起きています。2018年12月にはソフトバンクが、2021年10月にはNTTドコモが長時間にわたる大規模通信障害を発生させ、やはり社会的に大きな影響を与えました。
そうした事態を受けて行政側でも、大規模通信障害の発生に備えて他社へのローミングをするなどの検討を進める方針を示していますが、実現にはまだ時間がかかるでしょう。それだけに現状、通信障害が発生した時にも緊急の通話や通信ができる手段を確保するならば、みずからバックアップの回線を用意する必要があるといえます。
「2回線も契約すると料金が高くなるのでは……」と思っている人も多いかもしれませんが、2021年に携帯電話の料金が大幅に下がり、月額数百円以下で利用できる非常に安い通信サービスが増えています。安価なサービスは通信量が少ないものの、緊急時はとにかく“つながる”ことが重要ですので、それでも十分役立ちます。
「2つの異なる回線を利用するには、スマートフォンを2つ持ち歩く必要があるのでは?」と思っている人も多いでしょう。ですが、実は最近のスマートフォンの中には、2つの回線を同時に利用できる「デュアルSIM」に対応しているものが多くあります。そうした端末を利用すれば、1台で2つのモバイル回線を同時に利用できるので、荷物を増やす必要はありません。
特に最近増えているのが、デュアルSIM対応ながらSIMスロットは1つしかなく、もう1つは「eSIM」、要は端末内蔵型のSIMを搭載しているスマートフォンです。eSIMに対応したサービスは基本的に、契約からSIMの発行、そして開通までの手続きがすべてオンラインで完結するので、ショップに行く必要なくスマートフォン上の操作だけで利用を始められるのがメリットです。
eSIMに対応している代表的な機種の1つがアップルの「iPhone」シリーズで、2018年発売の「iPhone XS/XS Max」「iPhone XR」以降の機種であれば、eSIMと物理SIMのデュアルSIMに対応しています。もう1つがグーグルの「Pixel」シリーズで、国内で発売されたものであれば2019年発売の「Pixel 4」シリーズ以降がeSIMと物理SIMのデュアルSIM対応となっています。
最近発売された新機種の中にはeSIMを搭載したものが増えているのですが、販売する携帯電話会社によってeSIMが搭載されていたり、いなかったりする場合があるので注意が必要です。例えば、2022年7月に発売されたソニーの「Xperia 10 IV」の場合、NTTドコモ以外から販売されるモデルはeSIM搭載のデュアルSIM仕様ですが、NTTドコモ版だけはeSIM非搭載のシングルSIM仕様となっています。
また2021年10月より前に販売されたスマートフォンで、携帯電話会社(キャリア)から購入した端末の場合、SIMロックがかかっている場合があります。SIMロックがかかっているとデュアルSIMの仕組みを生かせないので、利用する際には必ずSIMロックを解除しておいて下さい。
eSIMをサブ回線にするのにベストなサービスは?
では具体的に、eSIM対応スマートフォンでバックアップ用のサブ回線を持つならば、どのようなサービスを選ぶべきかを考えてみましょう。ここでは、日本で利用者が多いiPhone(iPhone 12、iPhone 13シリーズなど)のeSIM対応機種利用者が、SIMスロットにメイン回線のSIMを挿入して利用しており、これからeSIMでサブ回線を追加で契約する……というケースを想定して話を進めたいと思います。
まずサブ回線として必須条件なのは、いま使っているメイン回線とは異なる携帯電話会社の回線を使ったサービスを選ぶことです。KDDIの通信障害では「au」だけでなく「UQ mobile」「povo」にも影響が及びましたが、それはいずれのサービスもKDDIの回線を利用しているため。それゆえ、auユーザーがサブ回線を選ぶ場合は、NTTドコモやソフトバンク、楽天モバイルの回線を使ったサービスを選ぶ必要があります。
また、eSIMに対応するサービスはかなり限定されていることにも注意が必要です。携帯4社のサービスはメイン・サブブランド含めほぼeSIMに対応していますが、MVNOでコンシューマー向けにeSIM対応のサービスを提供しているのはインターネットイニシアティブの「IIJmio」と日本通信のみ。しかも、IIJmioのeSIM向けサービスはデータ通信のみの対応となっています。
そしてもう1つ注意が必要なのは、機種変更したり、誤ってeSIMを削除してしまったりした場合に、eSIMを再発行するための手続きが必要になることです。eSIMは手動で抜き差しできないことから再発行してもらう必要があるのですが、実はサービスによってその再発行に手数料がかかるケースもあり、その金額もまちまちだったりします。
また、NTTドコモのサービス(ahamo含む)の場合、既存契約者がeSIMの発行・再発行をするには、現状オンラインショップでの手続きができず、ドコモショップに行って手続きをする必要があります。これは、2021年10月25日から現在に至るまで、オンラインショップで非常に長期間にわたる“臨時メンテナンス”が続いているため。eSIMの利便性を考慮するならば、このメンテナンスが終わらない限り、NTTドコモのサービスでeSIMを利用することはあまりお勧めできません。
これらの要素を考慮し、メイン回線毎にどのサービスをサブ回線としてeSIMに登録するサービスの候補を筆者なりに考えてみましたので、サブ回線選びの参考にしてもらえればと思います。
メイン回線が「NTTドコモ」の場合
- サブ回線候補1:「povo 2.0」(KDDI回線、月額0円)
- サブ回線候補2:「LINEMO ミニプラン」(ソフトバンク回線、月額990円)
povo 2.0はeSIM対応で、なおかつ月額料金が基本的には0円で済むことから、KDDI回線を使っていないサービス利用者のバックアップ回線には最適です。ただ、180日以内に有料トッピングするなどの条件を満たさなければ自動解約の可能性がある点には注意してください。
KDDI以外の回線を選ぶのであれば、eSIMで利用できる低価格のサービスは現在のところLINEMOのミニプラン一択でしょう。楽天モバイルの「Rakuten UN-LIMIT VII」もあるのですが、ミニプランよりやや高額で(3GBまで1,078円)、しかも一部エリアをKDDI回線でカバーしていることから、そちらの影響を受けてしまう点が弱みです。
メイン回線が「au/楽天モバイル」の場合
- サブ回線候補1:「IIJmio ギガプラン」(NTTドコモ回線、月額440円)
- サブ回線候補2:「日本通信 合理的シンプル290プラン」(NTTドコモ回線、月額290円から)
auユーザーはもちろんですが、先に触れた通り楽天モバイルも一部エリアをKDDI回線でカバーしているため、バックアップ回線にpovo 2.0を用いるのはあまりお勧めできません。その代替として低価格で利用できるのはMVNOのサービスでしょう。
IIJmioのギガプランはeSIM向けですとデータ通信専用になりますが、オンラインで契約しやすく、eSIM再発行手数料も220円と比較的安く抑えられています。日本通信のサービスは通話も可能でより安価に回線を持てますが、契約時に住所確認コードが郵送されるまで開通を待つ必要があるのと、eSIM再発行手数料が1,100円と高めに設定されている点に注意が必要です。
メイン回線が「ソフトバンク」の場合
- サブ回線候補1:「povo 2.0」(KDDI回線、月額0円)
- サブ回線候補2:「IIJmio ギガプラン」(NTTドコモ回線、月額440円)
ソフトバンクユーザーの場合も、バックアップ回線の有力な選択肢はpovo 2.0ですが、KDDI回線以外を選ぶのであれば、やはり価格を抑えられるMVNOのサービスを選ぶのがベストでしょう。
メイン回線が「MVNO」の場合
MVNOのサービスは現状、楽天モバイルを除く3社いずれかの回線を使用していることから、メイン回線とは違う携帯電話会社のサービスを選びましょう。基本的な選択の基準は上記と共通しているので、それぞれの事例を参考にして選んでみてください。