夏といえばビール! きんきんに冷えたビールは暑さを吹き飛ばし、爽快な気分にさせてくれます。近年はお店に出回るクラフトビールの数も増え、各醸造所がさまざまな個性を持ったビールを送り出しています。

  • 地下150mから汲み上げた天然水を使った石川酒造のクラフトビール「多摩の恵」

そんなわけで、今回はクラフトビールを造っている老舗酒造「石川酒造」に、ライターで東京街歩き研究家の中川マナブさんが潜入。美味しいビールに巡り合う、夏の東京散歩へ。

■国の登録有形文化財を擁する歴史ある酒蔵

拝島駅から歩くこと20分、歴史を感じさせる建物が見えてきます。

入り口には銘酒「多満自慢」の文字。福生市にある石川酒造は幕末の1863年創業、159年の歴史ある老舗の蔵元です。

日本酒「多満自慢」の味を守り続けてきましたが、明治20年にはビールの醸造も行っていました。

入り口をくぐるとまず目に飛び込んでくるのが、樹齢400年を超えるという夫婦欅(けやき)。

根元にはお米の神様である大黒天と、水の神様の弁財天が祀られています。敷地内には他にも樹齢700年の御神木があります。

右手の石碑には「熊川分水」の文字。熊川分水は、明治19年から明治23 年にかけて、玉川上水から生活用水としてひかれたもので現在は暗渠になっている部分も多く、景観重要資源に指定されています。

石川酒造の敷地では、その流れを今も垣間見ることができます。

「多満自慢」が醸造されている本蔵は明治13年の建築。梁なども当時のまま残っていて趣があります。

暑い日だったにもかかわらず、蔵の中はひんやり。空調なしでも年間を通じて一定の温度に保たれているのだとか。

※新型コロナウイルスの影響により、酒蔵の見学は一時休止中です(2022年7月現在)

お酒造りといえば、水が命といわれます。石川酒造では地下150mの上総層群・東久留米層下部層より汲み上げた天然水(中硬水)を使用しているとのこと。

日本酒だけではなく、クラフトビールにもこの水が使われています。敷地内には汲み上げた水に触れられるスポットもあります。

こちらは敷地内にある直売店「酒世羅」。石川酒造で造っている日本酒やビールの直売、おつまみや酒粕を使用した食品、オリジナルグッズの販売を行っており、お土産を購入できます。

米の甘味や華やかな香りが楽しめる「多満自慢」、夏場はやっぱり冷やでクイッといきたいですね。

■地下天然水を汲み上げて作るクラフトビール「多摩の恵」

こちらは石川酒造がビール醸造を始めた際に使用していたビール釜。

当時は冷蔵技術がなかったことなどから、ビールの製造は1年で終了してしまったそうですが、これで麦汁を煮沸していました。実はこれ、おそらく現存する最古のビール釜だといわれています。

第二次世界大戦中に政府が金属類の回収を行った際にも供出を運良く免れたそうです。というのも、敷地に長らく放置されていたため、土に埋まって池にしか見えなかったからなんだとか。

こちらが現在ビールを造っている向蔵ビール工房。

明治29年に建てられたこちらの建物も国の有形文化財です。石川酒造では明治以来、長らくビールの醸造は行ってこなかったのですが、平成10年に111年ぶりに再開しました。

現在はペールエール、ピルスナー、デュンケルの3タイプのビールに加え、明治復刻地ビールを通年で醸造しており、さらに2015年より「TOKYO BLUES」というシリーズでオリジナルレシピのビール造りに挑戦しています。

窓からビールを造っている様子を覗いてみました。

石川酒造のクラフトビール「多摩の恵」は、日本酒造りと同じ地下150mから汲み上げた天然水を使っています。石川酒造の醸造の精神は「華やかな食卓を、陰で支える酒造り」。

「多摩の恵」というネーミングには、この精神と多摩の歴史とが重ね合わされています。

敷地内を一通り散策したところで、併設されているイタリアンレストラン「福生のビール小屋」へ。

こちらはできたてクラフトビールと地元産のソーセージや釜で焼き上げるピッツァなどが楽しめます。店内40席のほか、最大50席のテラス席があり、ビアガーデンのような開放的な雰囲気です。

本日の主役「多摩の恵」です。

私が注文したのはペールエールタイプ(グラス500円税込)。キンキンに冷えたグラスに美しい黄金色ときめ細やかな泡が美しい。

敷地を歩き回って乾いた喉に「多摩の恵」を流し込みます。フルーティな柑橘系の香りが鼻に抜け、程よい苦味が絶妙。喉越しもスッキリしていて、とても飲みやすい!「ビールは苦手」という人もこれならごくごくいけちゃいそうです。

石川酒造には、他にも国の登録有形文化財になっている約250年前の長屋門や、江戸時代からの石川酒造の歴史や酒造り・ビール醸造に関する貴重な資料を展示した石川酒造史料館など、見どころがたくさん。

クラフトビールの飲み比べやランチ付きのコースもあり、好奇心も舌も満たせる、まさに「お酒好きのためのテーマパーク」といえるでしょう。

ちなみに石川酒造のある福生は、「基地の街」としても有名。周辺にはアメリカンカルチャーを感じられる雑貨店やグルメスポットも充実しているので、「ブルーシールアイス片手に国道16号沿いを散策」なんていうのもおすすめですよ。

■石川酒造

所在地:東京都福生市熊川1番地

※営業時間等につきましては、石川酒造のホームページ をご確認ください。