具体的には、負極活物質の外殻に、高強度を有することが知られるSiオキシカーバイド(SiOC)層をコーティングしたほか、SiOCの不十分な電導性を補う目的で、SiOC層にアセチレンブラック粒子が共存させられた。また、内部のマイクロサイズSiに一定の体積変化の余地を与えるため、スペーサーとしてあらかじめマイクロサイズSi表面にカーボン層のコーティングが行われ、中間層とされた。
合成手順としては、マイクロサイズSi(~1μm)表面にpH8.5においてポリドーパミン形成をさせ乾燥、焼成後にカーボンコーティングを実施。その後、SiOCの前駆体「アミノプロピルトリエトキシシラン」(APTES)にアセチレンブラックを混合した懸濁液で処理が行われ、乾燥後に焼成された。
得られた材料をTEM、HAADF-STEM、EDSマッピング、XPSなどの各測定によりキャラクタライズが行われた。カーボン層および外殻層のSiOC(ブラックグラス)層が観測され、外殻層にはアセチレンブラック粒子が埋め込まれている様子が見受けられたとする。また、XPS測定からは、SiOC(ブラックグラス)層にはSi、SiC4、SiC3O、SiC2O2、SiCO3、SiO4が混在している様子が観測されたとする。
このようなSiOCは、7.1GPaの弾性率、13MPaの曲げ強さ、11MPaの圧縮強度を有することが明らかにされており、今回の負極活物質においても外殻部分に高い力学的強度をもたらすことが期待できるという。
合成されたSi/C/ABGの評価に先立って、マイクロサイズSiとSiOC層との間にカーボン中間層を有さない材料も合成され、それを負極活物質としたアノード型ハーフセルが構築され、評価が行われた。この系においては、マイクロサイズSiの体積変化が抑制された結果、セルの充放電能は減少したとする。
一方、中間カーボン層を有するマイクロサイズSi/カーボン/SiOC型の負極活物質(Si/C/ABG)を70wt%(アセチレンブラック15wt%;CMC7.5wt%;PAA7.5wt%)用いた系では、750mA/gの充放電速度において775サイクル後に1017mAhg-1の放電容量が維持され、優れたレート特性を有することが確認されたという。また、正極をニッケル酸リチウム(NCA)とした場合のフルセルも良好に動作したとする。
さらに、充放電サイクル(65サイクル)後の負極のSEM像(断面像)より、充放電後にもクラック形成や活物質層の崩壊、層の剥離などは認められず、今回の負極活物質が極めて高い安定性を示していることも判明した。
なお、研究チームでは、今回の成果により、マイクロサイズSiの外殻層に超高強度SiOCを導入した特異的な負極活物質デザインにより、次世代型LIBへのマイクロサイズSi活用に道が拓かれると期待されるとしているほか、活物質の面積あたりの担持量を向上させつつ電池セル系のスケールアップを図ることで、産業応用への橋渡し的条件においての検討を継続していくとしている。
また、今後については、開発パートナー企業を募集し、共同研究を通して将来的な社会実装を目指すとしており、高容量充放電技術の普及を通して、社会の低炭素化に寄与する技術への展開が期待されるとしている。