今回レビューする「VAIO S13」は、13.3型ディスプレイを搭載したクラムシェルスタイルのノートPCだ。同社モバイルノートPCラインアップの「VAIO SX12」や「VAIO SX14」が“パフォーマンスで突き抜ける選択肢(VAIO説明資料より)”という位置づけなのに対して、VAIO S13は“コストパフォーマンスにも優れた選択肢”というすみ分けになっている。
システム構成としては、上位モデルにあたる「VAIO SX」シリーズが処理能力を重視したTDP 28Wの第12世代Intel Core“P”シリーズを採用していたのに対して、VAIO S13では同じ第12世代ながらTDP 15Wで価格も低く抑えた“U”シリーズを採用している点がポイントだ。
ディスプレイ解像度やLTE対応など一部の仕様を変えてコストを抑えながらも、本体搭載インタフェースやVAIO User Sensingへの対応、堅牢性、キーボードにタッチパッドなどではVAIO SXシリーズと同等の機能も持たせている。
この記事では、そのようなVAIO S13の処理能力から実装された機能を検証して、先日評価したVAIO SX12と“何が同じで何が異なるのか”を考えていく。
スッキリしたシルバーの外観からチェック!
今回評価する試用機のボディサイズは、W305.8×D215.1×H14.4(前端)~18.4(後端)mmで、12.5型サイズのVAIO SX12(W287.8×D205×H15.0~17.9mm)と比べてわずかに大きいものの、同世代で同サイズのモバイルノートPCと大きく変わらない。
重さは最軽量構成で1.05kgとなっており、こちらもVAIO SX12と比べると100gちょっと重いが、同じようなモバイルノートPCと比べても目立って重いモデルではない(とはいえ、今では1kgを切る13.3型ディスプレイ搭載モバイルノートPCも珍しくなくなったが)。ちなみに、VAIO SX14の最軽量構成ではVAIO S13よりも軽くなる。
無線インタフェースとしてはWi-Fi 6に対応するほか、オプションにはnanoSIMスロット搭載モデルを用意してLTEによるデータ通信も利用できる。一方、VAIO SX12ではWi-Fi 6Eをサポートするほか、上位モデル「VAIO SX12 ALL BLACK EDITION」では5G対応モデルもラインナップしている。
とはいえ、Wi-Fi 6Eは総務省の認可がまだ出ていないため、どちらにせよ利用できない(記事制作時点)。さらにWi-Fi 6Eに対応する無線LAN周辺機器も揃えないことには利点を享受できないので、2022年の夏に購入するモバイルノートPCとして大きな弱点にはならないだろう。
本体に搭載するインタフェースには2基のThunderbolt 4(USB 3.1 Type-C、DisplayPort Alt Modeによる映像出力にも対応)、2基のUSB 3.0 Type-Aを搭載するだけではなく、最近の薄型軽量モバイルノートPCでは廃止されつつあるHDMI出力に加え、有線LAN用のRJ-45を用意しているのはVAIO SX12と同様だ。
セキュリティ機能でも、顔認証と指紋認証に加えて、人感センサーを組み合わせた「VAIO User Sensing」による認証システムにも対応する。ユーザーがVAIO S13から離れたことを検知し、自動的にロックをかける「離席オートロック」機能を利用できるのはVAIO SX12と変わらない。
前世代ハイエンドプロセッサ級の高性能を実現
CPUには、上述の通り第12世代Intel CoreシリーズのTDP 15WのPシリーズを採用。今回評価する機材では、VAIO S13のオプションとしては最上位CPU「Core i7-1255U」を搭載している。カスタマイズではCore i5-1235UやCore i3-1215U、Celeron 7305も選択可能だ。
Intel Core i7-1255Uは処理能力優先のPerformance-cores(P-core)を2基、省電力を重視したEfficient-cores(E-core)を8基組み込んでいる。P-coreはハイパースレッディングに対応しているので、CPU全体としては12スレッドを処理できる。
動作クロックはベースクロックでP-coreが1.7GHz、E-Coreが1.2GHz。ターボ・ブースト利用時の最大周波数はP-coreで4.7GHz、E-Coreで3.5GHzまで上昇する。Intel Smart Cache容量は合計で12MB。TDPはベースで15W、最大で55Wとなる。グラフィックスにはCPU統合のIris Xe Graphicsを利用する。
メモリはLPDDR4x 16GBをオンボード搭載し、ユーザーによる増設はできない。ストレージは容量256GBのSSDで、試用機にはSamsung製のMZVLQ256HBJDを搭載していた。接続バスはNVM Express 1.4(PCI Express 3.0 x4)。
Core i7-1255Uを搭載したVAIO S13の処理能力を検証するため、ベンチマークテストのPCMark 10、3DMark Time Spy、CINEBENCH R23、CrystalDiskMark 8.0.4 x64、そしてファイナルファンタジー XIV:漆黒のヴィランズを実施した。
なお、比較対象としてCPUにCore i7-1165G7(4コア8スレッド、動作クロック2.8GHz/4.7GHz、L3キャッシュ容量12MB、統合グラフィックスコア Iris Xe Graphics)を搭載し、ディスプレイ解像度が1920×1080ドット、システムメモリがDDR4-3200 8GB、ストレージがSSD 512GB(PCI Express 3.0 x4接続)のノートPCで測定したスコアを併記する。
ベンチマークテスト | VAIO S13 | 比較対象ノートPC(Core i7-1165G7) |
---|---|---|
PCMark 10 | 4877 | 4615 |
PCMark 10 Essential | 10326 | 9645 |
PCMark 10 Productivity | 5730 | 6081 |
PCMark 10 Digital Content Creation | 5322 | 4549 |
CINEBENCH R23 CPU | 5602 | 4119 |
CINEBENCH R23 CPU(single) | 1406 | 1380 |
CrystalDiskMark 8.0.4 x64 Seq1M Q8T1 Read | 3152.75 | 3249.66 |
CrystalDiskMark 8.0.4 x64 Seq1M Q8T1 Write | 1224.74 | 2679.52 |
3DMark Night Raid | 13334 | 10635 |
FFXIV:漆黒のヴィランズ(最高品質) | 3274「やや快適」 | 2348「普通」 |
比較対象機が搭載するCore i7-1165G7は、前世代ながら処理能力を重視したTDP 28Wのプロセッサだ。これを省電力重視の“U”タイプCPUが互角以上のスコアをたたき出すあたり、第12世代Intel Coreプロセッサの進化がよく分かる結果となった。
ただし、PCMark 10 Productivityのスコアが比較対象より下回っているあたりで、オフィスアプリケーションと多用するビジネスユーザーとしては評価に迷うところかもしれない。
また、ストレージデバイスの転送速度を評価するCrystalDiskMark 8.0.4 x64でも比較対象ノートPCのスコアを若干下回っている。ストレージの転送速度はアプリケーションの起動やファイルの読み書き処理などで差がつく点でもあるが、とはいえ1,200MB/秒以上の高速な書き込みが必要なシーンは普段使いにおいてそうないだろう。
バッテリー駆動時間について、VAIOの仕様表によると約20.5~24.2時間(JEITA 2.0測定条件)となっている。PCMark 10 Battery Life benchmarkで実際に測定したところ、Modern Officeのスコアは9時間14分(Performance 7145)となった(ディスプレイ輝度は10段階の下から6レベル、電源プランはパフォーマンス寄りのバランスにそれぞれ設定)。容量をPCMark 10で検出したところ、53,020mAhと表示されており、これはこれはVAIO SX12と同じ値だった。
モード変更で性能も大きく変化。ボディはちょっと熱くなる
なお、VAIO SX12と同様にVAIO S13でもCPUとクーラーファンの動作モードを「パフォーマンス優先」「標準」「静かさ優先」の3種類から変更できる。ただし、VAIO S13ではVAIOが開発した独自機能「VAIO True Performance」を利用できない。では、それぞれのモードで処理能力とクーラーユニットの発生音量とボディの表面温度はどのように変わるのだろうか。CINEBENCH R23と3DMark Night Raidを実行したときのスコア3DMark Night Raid実行時に測定した表面温度は以下のようになった。
動作モード | 静音 | 標準 | パフォーマンス優先 |
---|---|---|---|
CINEBENCH R23 Multi | 4709 | 5368 | 6717 |
3DMark Night Raid | 10407 | 12889 | 16116 |
発生音量(暗騒音36.4dBA) | 36.6dBA | 45.2dBA | 49.1dBA |
表面温度:Fキー | 40.5度 | 37.0度 | 39.5度 |
表面温度:Jキー | 37.0度 | 35.3度 | 36.8度 |
表面温度:パームレスト左 | 30.0度 | 31.3度 | 32.5度 |
表面温度:パームレスト右 | 30.0度 | 29.0度 | 30.3度 |
底面 | 57.4度 | 54.5度 | 63.3度 |
上述したように、VAIO S13は独自の性能優先モード「VAIO True Performance」には対応していない。しかし動作モードの変更で挙動も明確に変化し、ベンチマークテストのスコアが上昇。ファンの回転数も高まり、排熱が大きくなって表面温度も高まっている。
これだけベンチマークテストのスコアが異なるのであれば、処理能力を優先したいときは「パフォーマンス」を選択するべきだろう。しかし、ファンの発する音は「標準」でもあまり小さくなく、「パフォーマンス」では輪をかけて大きくなる。
表面温度に関しては、パフォーマンス優先モードでもキートップがちょっと熱いかな、と思う程度に収まっている一方で、底面の温度は「ちょっとこれシャレになりませんね」と感じるレベルに達していた。ディスプレイを開くと本体奥側が持ち上がる機構を採用しており、膝には直接触れないことを想定しているのかもしれないが、高負荷時はくれぐれも底面に触れない姿勢で使いたいところだ。
上位モデル同等の多彩な設定項目を用意。キーアサイン変更も
標準ユーティリティの「VAIOの設定」では、CPUやファン動作以外にもさまざまな設定項目を用意している。入力デバイスの設定では、ファンクションキーに「マイクAIノイズキャンセリング」「スピーカーAIノイズキャンセリング」のオンオフなど各種機能を割り付けられる他、CtrlキーやCapsLockキーのマッピングも入れ替えることが可能だ。
そのため、「Caps Lockキーに左Ctrlキーを割り当てる」といった玄人向けキーアサインも利用できるになる。また、マイク入力ではマイクの指向性も仮想的に変更でき、プライベートモードでは正面方向以外の音声を低減する。さらにユーザー検知機能「VAIO User Sensing」の一環として、ユーザーの在席状態を検知して画面を暗くしたりロックしたりするまでの時間を設定できるようにしている。
上位機種とほぼ同等。ボディ素材やプロセッサが異なりやや低価格
VAIO S13は、価格を抑えるためにCPUを“U”タイプにしたりボディ素材をVAIO SXシリーズの立体成型炭素繊維プラスチックからマグネシウム合金にしたりと変更しているものの、本体サイズと重さはほわずかに増えたもののほぼ同等を維持し、VAIO User Sensingなどの先進機能の搭載や充実したインタフェースはVAIO SX12と変わらない。
それでいて、価格は同等構成(Windows 11 Home 64ビット版、システムメモリ16GB、スタンダードSSD256GB、4G LTE、Core i7-1260PもしくはCore i7-1255U)のVAIO SX12で27万5000円(VAIOストア税込み)に対して25万7000円にとどまる。この価格差と仕様の違いに納得できるなら、VAIO S13はモバイルノートPCの有力な購入候補となるだろう。