「のぞかないで」と言われたら、気になってしまうのが人間の心理。そんな人の心を突いたお話が鶴の恩返しです。

本記事では、鶴の恩返しのあらすじや教訓について解説しています。鶴の恩返しは、全国各地で語り継がれているお話で、「鶴女房」など、内容が少し違うバージョンもあります。これを読めば、鶴の恩返しがさらに面白く感じるでしょう。

鶴の恩返しのあらすじを簡単に解説

  • おなじみの昔話である鶴の恩返しのあらすじを紹介します

    おなじみの昔話である鶴の恩返しのあらすじを紹介します

鶴の恩返しの登場人物とあらすじを簡単に解説します。地域などによって細かい違いはありますが、ここでは一般的な登場人物とあらすじをまとめました。

登場人物

■鶴
猟師の罠(わな)にかかっていたところをおじいさんに助けてもらう。人間の姿になっておじいさんたちと一緒に暮らす。

■おじいさん
おばあさんと2人で貧しく暮らしている。罠にかかった鶴を助ける優しい心の持ち主。

■おばあさん
おじいさんの妻。おじいさんと一緒に暮らしている。

簡単なあらすじ

ある日、おじいさんは猟師の罠にかかった1羽の鶴を助けます。鶴を助けた日の晩、1人の娘がおじいさんたちの家を尋ねたのがきっかけとなり、3人で暮らすことに。

娘は「絶対にのぞかないでください」と言って部屋にこもり、美しい布を織ります。しかし次第にやつれていく娘の様子が気になったおじいさんたちは、部屋をのぞいてしまうのです。

そこには布を織っている鶴の姿が。娘の正体は、おじいさんが助けた鶴だったのです。「姿を見られたので、もうここにはいられません」と言って、鶴は空へ飛び立っていきました。

鶴の恩返しの詳しいあらすじ、結末

鶴の恩返しの、より詳しいあらすじを解説します。

鶴を助けたおじいさんと1人の娘

あるところに、貧しいけれど心の優しいおじいさんがいました。ある日、おじいさんは猟師の罠にかかった1羽の鶴を助けます。鶴を助けた日の晩、おじいさんがおばあさんに鶴の話をしていると、扉をたたく音が。

扉を開けると1人の娘が立っていたのです。娘は、「この雪の中、道に迷ってしまいました。どうか一晩泊めてください」と、おじいさんたちにお願いします。そのお願いをおじいさんたちは快く受け入れ、娘を家に招き入れました。

雪は何日も降り続け、その間、娘は家の手伝いをしながらおじいさんとおばあさんと過ごしました。そしてある日娘は、「お二人の娘にしてくれませんか」と言うのです。おじいさんとおばあさんは大変喜び、3人で仲良く暮らしはじめました。

部屋にこもって機織り(はたおり)をする娘

そんなある日、娘は「今から布を織ります。布を織っている間は、決して部屋をのぞかないでください」とお願いをします。おじいさんとおばあさんが約束すると、娘は部屋にこもってしまいました。

3日たって、布を織る部屋から娘が出てきました。娘は布をおじいさんに渡し「これを町で売ってきてください」と言います。娘が織った布はとても美しく、おじいさんが町で売り歩くと高く売れました。おじいさんは食べ物をたくさん買って家へ帰ります。こうして日々、娘が織った布を、おじいさんが町で売り歩くようになったのです。

部屋をのぞいてしまった老夫婦

しかし日に日に、娘はやつれていきました。それでも、娘は布を織るため部屋にこもります。おじいさんたちは娘の体調を心配しました。ある夜おじいさんたちは、戸の向こうから聞こえる機織りの音で、娘の布を織る力が弱くなっていることに気付きます。

どうしても娘の様子が気になるおじいさんとおばあさん。そしてとうとう娘の部屋をのぞいてしまうのです。部屋の中には、自分の羽を引き抜いて布を織っている鶴の姿が。鶴は羽がほとんど抜けて、ボロボロの姿になっていました。

鶴は、部屋をのぞいているおじいさんとおばあさんに気付き、「私はあの時に助けてもらった鶴です」と告げます。なんと娘の正体は、おじいさんがかつて助けた鶴だったのです。

鶴は「ご恩を返すためにやってきました。しかし姿を見られたので、もうここにはいられません」と言って、空へ飛び立っていきました。

鶴の恩返しからわかる教訓

  • 鶴の恩返しのお話には、現代にも通じる教訓が詰まっています

    鶴の恩返しのお話には、現代にも通じる教訓が詰まっています

鶴の恩返しには、3つの教訓があります。

人に優しくすると自分に返ってくる

鶴の恩返しでは、猟師の罠にかかった鶴を、おじいさんが助けてあげました。助けてもらった鶴は、おじいさんに恩返しをするために現れたのです。

貧しい暮らしをしていたおじいさんたちは、鶴のおかげで食べものをたくさん買えるようになります。困っている人がいたらおじいさんのように手を差し伸べてあげると、善い行いが自分に返ってくるかもしれません。

約束したことを破ってはいけない

鶴の恩返しでは、布を織っている間は部屋をのぞかないことを約束するシーンがあります。しかし、結果的におじいさんとおばあさんは部屋をのぞいてしまうのです。

娘の身を案じた行動だとしても、自分で交わした約束には責任を持たなければいけません。結局、約束を破ってしまったことで、鶴はおじいさんたちのもとを去ってしまいます。鶴の恩返しでは、約束を守ることの大切さについて教えてくれます。

無理をしても長くは続かない

おじいさんに恩を返すため、自分の体を犠牲にしていた鶴。おじいさんたちにのぞかれていなくても、このまま無理をしていたら後々には倒れていた可能性が高いでしょう。

自分を犠牲にして行う物事は長続きしません。どんなに善い行いでも、また相手のためを思ってのことでも、無理は禁物です。

鶴の恩返しの原作と発祥の地

多くの人が聞いたことのある昔話、鶴の恩返し。その原作と発祥の地について解説していきます。

鶴の恩返しの原作

鶴の恩返しは江戸時代ごろから語り継がれてきた民話といわれており、作者は不明です。日本各地で語り継がれているため、原作については諸説あります。

また鶴の恩返しには、主に「鶴女房」と呼ばれるバージョンもあります。明治から昭和にかけて活躍した民俗学者の柳田国男がまとめた『全国昔話記録』シリーズにある『佐渡島昔話集』には、鶴の恩返しと鶴女房、どちらのお話も掲載されています。

昭和から平成に活躍した劇作家である、木下順二の代表作『夕鶴』は、この鶴女房を題材にしていることで有名です。

鶴の恩返しと鶴女房の違い

では鶴女房のストーリーについても見ていきましょう。鶴女房も鶴の恩返し同様、助けてもらった鶴が人間の姿になって恩を返すお話です。違いとしては、鶴女房では鶴は若い男性に助けられます。そして娘の姿で現れた鶴と男性は結婚するのです。

人間と、人間と異なる種類の存在が結婚する説話、つまり異類婚姻譚(いるいこんいんたん)と呼ばれるカテゴリーの物語が鶴女房です。

鶴の恩返し発祥の地

鶴の恩返しに似たお話は日本各地で語り継がれていますが、発祥の地の候補として有名なのは山形県南陽市です。ここには、鶴布山珍蔵寺(かくふざんちんぞうじ)という歴史あるお寺があります。

鶴布山珍蔵寺の「鶴布」とは、鶴が恩返しのために織った布のこと。このお寺のはじまりは、「金蔵」という男性が鶴を助け、その鶴が姿を変えた女性を妻としますが、その妻が去ってしまったため出家したことといわれています。鶴の羽で織ったとされる織物を寺の宝物としていたとされ、釣り鐘には鶴の恩返しのお話が描かれています。

また、鶴布山珍蔵寺の周辺には鶴にまつわる以下の地名が残っていることも、発祥の地といわれる理由の一つです。

  • 鶴巻田

  • 織機川

  • 羽付 など

その他、新潟県の佐渡なども発祥の地といわれています。

鶴を助けたのは、若者とおじいさんのどっちが本当?

鶴を助けたのは、前述のように若者のバージョンとおじいさんのバージョンがありますが、どちらも正しいお話といっていいでしょう。鶴の恩返しは全国各地で語り継がれており、ストーリーがそれぞれ少しずつ異なるのです。

鶴の恩返しは、助けてもらった恩を返す昔話

鶴の恩返しは、人間に助けてもらった鶴が恩を返すお話です。「のぞかないで」と言われたのに部屋をのぞいてしまい、鶴が空へ帰ってしまう結末となっています。

困っている人を助けると自分に善い行いが返ってくることや、約束を破ってはいけないといった教訓が含まれています。

全国各地で語り継がれているため、原作には諸説あります。また地域などによって、登場人物や、お話の細部が異なります。いろいろなバージョンの鶴の恩返しを探してみるのも、また新しい発見があるかもしれません。