家族や友人など、大切な人を招いて行う結婚式。晴れて夫婦になることを誓う大切な一日だが、ここ数年は新型コロナウイルス感染症の影響によりキャンセルや延期を余儀なくされたカップルも少なくない。しかし、そんな新郎新婦が抱える不安や悩みを少しでも解消するために、ウエディング業界も変化しつつあるようだ。
東京駅から徒歩5分ほどにある「ラグナヴェールTOKYO」は、都心とは思えないほど広々としたゲストハウスを完備。正統派の披露宴だけでなく、少人数の会食やオリジナルウエディングなど、多様なスタイルに対応可能なところが特徴だ。そんな「ラグナヴェールTOKYO」の支配人・江原浩朗さんに、コロナ禍における結婚式事情や式場側のリアルな声、また、コロナ禍だからこそ生まれた最新の取り組みなどを聞いた。
■アイデアを体現化するべく飛び込んだウエディング業界
──まずは、江原さんがウエディング業界に携わるきっかけを教えてください。
今から20年ほど前、私はもともとはホテル業界で働いていました。当時は画一的なホテルウエディングが主流でしたが、一方でハウスウエディング(一軒家などを貸し切りにして行うスタイル)が始まった頃でもあります。ハウスウエディングのスタイルを知り、「もし自分がプランナーだったら」「自分ならこんな結婚式を作ってみたい」と考えるようになったんです。そのアイデアを実際に体現したくなり、ウエディング業界に転職をしました。今は支配人として、式場運営すべてを担っています。
──江原さんがこれまでに携わってきた結婚式の中で、もっとも印象深かったものを教えてください。
本当に数多くの結婚式に携わってきたので、選ぶのは難しいのですが……。新婦のお父様が結婚式の数日前に倒れられて、当日出席できなくなってしまったことがあったんです。そのことがどうしても心残りだと話す新婦様を見て、担当プランナーが「病院でお父様にドレス姿を見せてあげたい」と私にお願いしてきたんですね。エスクリでは、ドレスショップを内製化しているので、私からドレスショップの店長にすぐ事情を伝えました。そこから病院の許可を取り、式を挙げた日の夜にドレスを持って病室に行けることになったんです。
──内製化しているからこそのスピーディーな対応ですね。新婦様も、そこまで思いをくみ取って動いてくださるみなさんに感銘を受けたのではないでしょうか。
多くの方の理解と協力があってこそ実現できたことです。実際、病室にドレスを着て行って、お父様にお見せすることができました。さらにそのとき、立てなかったお父様が立ち上がって、花嫁姿の新婦様と病室を歩いたのです。その光景は今でも一番記憶に残っていますし、ずっと忘れられません。
■都心であることを忘れる「ラグナヴェールTOKYO」
──では江原さんが勤める「ラグナヴェールTOKYO」はどんなところですか?
最大の特徴は、東京駅から徒歩圏内でアクセスが便利というところと、2階層吹き抜けのチャペルですね。天井高が7メートル、バージンロードが10メートルあります。自然光が入って明るく、ガラス張りのバージンロードにはお花が敷き詰められているところもポイントです。このエリアではあまりない大規模のチャペルで、可愛らしい雰囲気が好きなご新婦様には喜んでいただけると思います。
──すごく素敵な珍しいバージンロードですね。では、サービス面での特徴はいかがでしょうか?
フロア貸し切りできる会場が2つあり、プライベート感をしっかり守る空間になっていることです。キッチンもそれぞれの階にあるので、できたお料理をすぐ運ぶことができますし、お客様の食べるスピードに合わせて食事を作れる点が特徴です。満足度も、お料理の面で高い評価をいただいています。
あとは、新郎新婦様と会場側をつなげるウェブサービスです。例えば、"この方は左利き"といった情報を入力していただくと、ナイフとフォークを逆にセッティングするなどの対応をし、2人が当日できないおもてなしを弊社のスタッフがカバーできるようにしています。
■新型コロナウイルスが結婚式に及ぼした影響とは
──ここ2〜3年はコロナ禍ですが、どのような影響があったのでしょうか?
そうですね、2年ほど前は結婚式を挙げること自体を躊躇する方が増えていました。すでにご予約いただいてる方でも、延期や規模を縮小するスタイルを選ぶ方がすごく多かったですね。新型コロナウイルスが騒がれ始めた当時は、マスク不足の問題もあったので、スタッフ全員分のマスクをそろえるのも大変でした。
──アクリル板の用意や換気などにも気を遣われたのではないでしょうか。
はい、それに加えて検温や消毒の徹底です。ゲストの方からも「会場としてはどのような取り組みをしていますか?」といった、感染症対策についての問い合わせが増えたことも印象深いです。中でも一番変わったなと思うのは、テーブルの装飾です。席札と一緒にマスクケースや除菌スプレーをご用意する新郎新婦様がすごく増えました。
──結婚式を挙げてもいいのだろうかと悩み、中止を選んだカップルもいらっしゃいましたか?
そうですね。コロナを理由に諦めてしまう新郎新婦様もいらっしゃいました。当日、ゲストの方が新型コロナウイルスを起因とした理由で急きょ参加できなくなるといったトラブルも少なくなかったので、その方の飲食料金は返金するなどの対応をさせていただきました。
──式場としても痛みを伴う出来事だったかと思います。
国からの指示と、お客様の思いと……板挟みになるプランナーはつらいものがあったと思います。ですが、一番不安なのは新郎新婦様です。新郎新婦様に寄り添って、できることを最大限お伝えしながらお2人と共に乗り越えてきました。
──実際に式を挙げられたお客様の声は、どんなものが届いているのでしょうか。
弊社では式を挙げられた方にアンケートを実施しているのですが、やっぱり一番多いのは「やってよかった」というお声。「心配もありましたが、記憶に残る一日になりました」という声が圧倒的に多いです。私たちも、一番気をつけなくてはいけないと思っているのはクラスターを起こさないことです。スタッフの健康管理を徹底したうえで、感染対策もしっかりしなくてはいけない。演出などの制限もある中で、お2人が描いているものをどれだけ実現できるかというところを大切にしています。
■コロナ禍で生まれた画期的な取り組み
──コロナ禍で新たに生まれた取り組みはありましたか?
オンライン中継をゲストの方につないで見てもらうというのは、コロナ禍で生まれたものだと思いますね。遠方の方でも参加しやすくなったので、その点はよかったのかなと思っています。また、ラグナヴェールTOKYOを運営するエスクリでは新しいスタイルの結婚式として、リアル参列×オンライン参列が共存する"Dimensional-link-Wedding"という商品をリリースしました。「変わりゆく世界で、変わらない"想い"をつなぐ」をコンセプトに、新郎新婦様がゲストにとって最適な招待方法を選び、招待されるゲストも出席スタイルを選べるというサービスです。ゲストはご自宅での参加も可能で、その場合は、臨場感を感じられるようにお料理をチルドでお送りして、式場と同じタイミングで一緒に楽しんでいただけます。
──大変な時期でしたでしょうが、画期的なおもてなしが生まれたのですね!
そうですね。またオンラインでご祝儀の受け渡しができるサービスも生まれました。受付時に手渡しする際の感染リスク軽減としても取り組んでいるので、これはコロナ禍に生まれた新しい取り組みなのではないでしょうか。私たちもできる限りの感染症対策を徹底して、みなさまが安心できる環境を整えております。お客様も大変な思いをされている、その気持ちを理解し、各スタッフで話し合って細かいことでも共有するようにしています。
──これまで多くの結婚式に携わってきた江原さんから、コロナ禍で結婚式をどうするか悩んでる方々にメッセージをお願いします。
『やっておけばよかった』という後悔だけはしてほしくないと思います。人生には、自分が生まれたとき、亡くなるとき、そして結婚式という、3つの大きな節目があると言われています。その節目の中で唯一、自分で考えてできるのが結婚式。ご両親や今までお世話になった方への感謝を伝える場として、何かしらの形で結婚式を挙げることを選んでいただけたらうれしいです。お2人のイメージ通りに仕上げることが私たちの役目なので、どんな規模であっても、どんな形であっても結婚式をしてほしいと一番に思っています。
(写真/曳野 若菜)