2021年に上演され好評を博したミュージカル『ダブル・トラブル』が、ミュージカル『ダブル・トラブル』~2022 夏 SeasonA・B・C〜として新たに上演される。ボブ&ジムのウォルトン兄弟によって書かれたミュージカルコメディで、作詞家のボビー・マーティンと、作曲家のジミー・マーティンの兄弟2人が、ハリウッドのメジャームービーの曲を書くという大チャンスをつかみ、恋に仕事に大奮闘することとなる。出演者は2名のみ、演奏はピアノだけという同作では、キャストは歌って踊って曲を書くボビー&ジミー兄弟を演じながら、映画会社の社長や秘書、演出家、司会者、スター女優など次から次へと現れる登場人物、およそ10人もの人物を演じることになる。

2022夏Season A(浜中文一・相葉裕樹・日野真一郎・横山賀三 7月28日~8月14日 オルタナティブシアター)、Season B(林翔太・寺西拓人 8月16日~8月30日 有楽町よみうりホール)、Season C(林翔太・寺西拓人/原田優一・太田基裕 9月5日~9月13日 自由劇場)と3形態でのロングラン公演となるが、今回はスタートを切るSeason Aで兄のジミーを演じる相葉裕樹にインタビュー。作品の難しさや、俳優としての思いについても話を聞いた。

  • 相葉裕樹 撮影:友野雄

    相葉裕樹 撮影:友野雄

■最終的にはもう、心

――今回は兄のジミーとして、浜中さん、横山さんと2人の弟と舞台に立つことになると思います。違いは感じていますか?

お二人と稽古をしていて賀三くんはまだ十代で、リアルな弟感、フレッシュさがあって「かわいいな」と思います。浜中さんは飄々とした雰囲気を持ってらっしゃるので、佇まいにしても全然違いますし、演じる以前の本質と言うのか、役者としての武器や個性が違うということを実感しています。もう、存在しているだけで違うなあと思って。

――Season A〜Cまであるということで、他のシーズンについて意識することや、雰囲気の違いを感じることなどはありますか?

正直、他の方たちのことを考える余裕がないです。本当に今、自分との戦いです。ある程度余裕が出てきたら違いも感じられたりするかもしれないですが……。皆さんセリフも歌もダンスも覚えるのが早いので、僕は覚えることに苦戦しています。Season Aで同じジミー役の日野さんはすごくフランクな方なので、話しやすく、励まし合いながらやっています(笑)。互いに「頑張ろうね」という感じです。

――それだけやることもたくさんあるのでしょうか。

曲も難しいし、ダンスも今までやったことのないシアター系のもので、ステッキを使ったりタップを踏んだりと特殊なものが入ってくるので、その辺は日々練習してブラッシュアップしていかないと、と思っています。

――Season Cの原田さん、太田さんについては共演経験もあるかと思いますが、話をされたりもしていますか?

Cのお二人はまだ稽古に合流されてないのですが、今もずっと家でお二人の映像を見ているので、めちゃくちゃ存在を感じています(笑)。先輩の背中を追っている感覚なので、なんだか会うのも緊張しますね。会ったら「あ〜! ずっと見てた人だ!」と思ってしまうかも。この演目に関してはお二人が経験者ですので、「ふっ」(苦笑)と思われないように頑張らないと。

――6月に上演されていた『CROSS ROAD~悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ~』では中川晃教さんとW主演を務められ、曲数が多かったり激しく踊りながら歌われたりと、より安定感が増しているのではないかとも感じました。何かご自身の中で変化などはあるんでしょうか?

もちろん定期的にレッスンに行ってはいますが、今までと変わった特殊な練習などは特にしていないです。やっぱり、千本ノックかな……『CROSS ROAD』はあまりこれまで触れてこないような音楽だったので、すごく苦戦したんですけど、練習の数が大事だということは改めて実感しています。自分の平均点を徐々に高めていくしかない、という感覚で。

舞台に立っていると、自分の能力以上のことはできないということを、強く感じるんです。当然全力で向かっているんですけど、できることできないことは明確に出てきます。ただ、その時に必要以上に自分ができないと思わないようにして、努力して自分のアベレージを上げていく以外ないんです。そこまでやって、僕の全力に対してどう思っていただくかは、最終的にお客様次第なので。

――『CROSS ROAD』の時もたくさん練習をされていたんですか?

めっちゃくちゃやってました! 睡眠を削るくらい。僕は決して歌が得意だとは言えないので、とにかくたくさんやらないとできないんです。最終的にはもう、心。そして身を委ねる。自分の体も全部その役に預けちゃうような感覚で、特にパガニーニを演じている時はそうでした。もはや自分でどうこうする段階じゃないので、全部委ねようと思いました。中川さんと対峙して、互いに影響を与えあい、その時生まれるものが必ずあるので、あれこれ考えずに身を委ねて舞台に立った方がいいなという気持ちでした。

――最後に改めて今作の大変なところや、注目ポイントを教えてください。

とにかく2人で約10役を演じます。僕が演じる役で言うと、クイックリー・モリスという兄弟のエージェントは早口でまくしたて、ビックスという音響エンジニアは耳が遠いという設定で、個性の強いキャラクターがどんどん出てきます。ラップが入ってくるような感覚もあるし、それからやっぱりタップを踊るのも大変です。2人、もしくはソロで踏む場面もあるので、本当に挑戦になります。

また、レベッカという女優を演じるのは難しいと思いながら稽古しています。女性の声を意識して歌う経験は初めてかもしれません。焦りたくないけど、焦りますね。あとプラス2週間は稽古期間がほしい!「なんで俺、Season Aなんだろう!?」と思います(笑)。それくらい大変ですけど、観てる方には絶対に楽しんでいただける作品になっています。

■相葉裕樹
1987年10月1日生まれ、千葉県出身。2004年映画デビュー、ミュージカル『テニスの王子様』(05年~08年)で初舞台デビュー。以来映像・舞台・アニメと様々な作品で活躍し、『侍戦隊シンケンジャー』(09年)、『戦国鍋TV ~なんとなく歴史が学べる映像~』(10年〜12年)出演も話題となる。近年の主な出演作に『レ・ミゼラブル』(17年・19年・21年)、『ダンス オブ ヴァンパイア』(19年)、『アナスタシア』(20年)、『CROSS ROAD~悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ~』(22年)といったミュージカルのほか、海外ドラマ『S.W.A.T.』シリーズ日本語吹替、ゲーム『ディズニー ツイステッドワンダーランド』(20年〜/ボイスキャスト)など。12月にはミュージカル『スクルージ ~クリスマス・キャロル~』に出演。