具体的には、TRPA1の活性温度が高いネッタイシマカ(Aa)と、比較的低いアカイエカ(Cp)のTRPA1のアミノ配列の一部(末端)を人為的に入れ替える実験を行ったところ、アミノ末端のみがネッタイシマカ由来で、そのほかのアミノ配列はすべてアカイエカのTRPA1(AaN)の場合、ネッタイシマカのTRPA1(AaTRPA1)のように高い温度でしか活性化しないこと、ならびにアミノ末端のみアカイエカ由来で、ほかがすべてネッタイシマカのTRPA1(CpN)の場合、アカイエカのTRPA1(CpTRPA1)のように低い温度でも活性化することが確認されたとする。
この結果を踏まえ研究チームは、アミノ末端に活性化温度しきい値の決定に重要な構造があることが示されていると判断。さらに細かく機能を調べていったところ、アミノ末端の70のアミノ酸が活性化温度しきい値の決定に重要であることが判明したという。
また、この70のアミノ酸の中でネッタイシマカとアカイエカのそれぞれのTRPA1において、異なるいくつかのアミノ酸の点変異体を作出し解析を行ったところ、ネッタイシマカのTRPA1のうち、2つの電荷を持ったアミノ酸(酸性のグルタミン酸Eと塩基性のアルギニンR)が重要であることが確認されたという。
別の熱帯の蚊であるステフェンシハマダラカも、その2つのアミノ酸はネッタイシマカと同じことがわかり、それら2つのアミノ酸をアカイエカのアミノ酸(2つともグルタミンQ)に替えると活性化温度しきい値が下がったとのことで、これらのことから、蚊のTRPA1のアミノ末端にある2つの電荷アミノ酸が熱刺激による活性化温度しきい値の決定に重要なことが示されることとなった研究チームでは説明する。この結果について研究チームでは、酸性アミノ酸と塩基性アミノ酸間の塩橋(側鎖間に働く弱いイオン性相互作用)で、タンパク質の三次元構造が安定化し、熱刺激に対して構造変化が起こりにくくなっているものと考えられるとしている。
なお、今回の結果は、温度感受性TRPチャネルが温度を感知するメカニズムの解明に役立つものと期待されるとのことで、解明に至れば、鎮痛剤などの開発にも役立つことが期待されるとしている。