老後に一人暮らしをする人は今後ますます増えてくるでしょう。総務省の家計調査から単身者の年金額と生活費を出して、毎月の不足額はいくらになるのか、さらに、国民年金だけの人はいくら不足するのかを計算してみました。一人暮らしの老後に必要なお金をFPからご提案します。
■一人暮らしの年金受給者の年金額
厚生労働省の「厚生年金保険・国民年金事業の概況(令和2年度)」によると、厚生年金受給者の平均年金月額は14万6,145円、 国民年金受給者の平均年金月額は5万6,358円となっています。年金の種類によって、受給額は大きく違うことがわかります。
もう一つのデータとして、総務省の「家計調査/家計収支編(2021年)」からも見てみましょう。65歳以上の無職単身世帯の社会保障給付(年金など)は12万470円となっています。こちらは年金の種類によらない平均額を表しています。
このことから、一人暮らしの年金受給者の年金額は平均で約12万円といえるでしょう。
■一人暮らしの年金受給者の生活費
次に一人暮らしの生活費を見てみましょう。こちらも前出の総務省の「家計調査/家計収支編(2021年)」を参考にします。
この調査データから消費支出(生活費)は約13万円とわかりました。
年金収入が約12万円、生活費が約13万円とすると、単純に1万円の赤字と考えますが、もう少し詳細に調査データを見ていくと、非消費支出として1万2271円の支出があります。
これは所得税や住民税などの税金と国民健康保険などの保険料を合わせたものであり、生活する上で必ず支出するものとして生活費とは分けています。ただ、この非消費支出は年金からも引かれるので、これも含めて考えなければなりません。
このデータでは年金以外の収入(財産収入や特別収入)も含んで13万5345円となっており、ここから非消費支出を引いた可処分所得は12万3074円あるので、1万円程度の赤字になっています。年金以外に収入がない場合は2万円程度の赤字になります。
■国民年金だけの人は6万5000円不足する
65歳以上の年金だけで生活している単身者の場合、平均データを参考にすると、ひと月約2万円不足することがわかりました。1年にすると24万円の不足です。仮に年金が国民年金だけだった場合はどうでしょうか。
国民年金の満額(令和4年4月分から)は月額6万4,816円なので、前出データの生活費を当てはめるとおよそ6万5000円不足する計算です。(非消費支出は所得税・住民税ともに非課税であり、保険料も軽減措置があるためここでは考慮しないことにします。)1年では78万円の不足となります。
この状況で90歳まで生きると仮定すると、78万円×25年なので1950万円不足することになります。以前、老後2000万円問題(老後に2000万円不足する)が騒がれましたが、このとおりの金額となりました。
■老後資金はいくらあれば安心か
平均的な年金額を受給している65歳以上の単身者の場合、90歳まで生きると仮定すると、24万円×25年となるので、600万円の不足となります。先ほどの2000万円と比べると、意外と少ないと思うかもしれませんが、年金生活に入る前に一人で600万円を用意するのは簡単ではありません。
また、このデータに表れている生活費はあくまでも平均であって、各々の事情によるイレギュラーな出費は含まれていません。たとえば、病気をした、介護になった、施設に入ったなど、老後に起こりうる事態に対応するための出費は想定していません。何事もなく日々の生活を送れた場合の生活費から割り出した不足分と考えると、600万円では心許ないと感じる人は多いでしょう。
*介護費用に600万円必要
生命保険文化センターが行った「生命保険に関する全国実態調査(2021年度)」によると、介護に要した費用(公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)の平均は、月々8.3万円、一時的な費用(住宅改造や介護用ベッドの購入費など)の合計は74万円となっています。 また、介護を行った期間の平均は61.1カ月(5年1カ月)となっており、月々の費用をもとに試算するとトータルで507万1300円となり、一時的な費用も加えると581万1300円になります。
介護費用におよそ600万円必要になるということです。
*一人暮らしで介護になったら
介護が必要となった場合に、要介護認定を受けると介護保険サービスが利用できます。要介護認定は介護の状態によって1~5(数字が大きいほど重い)までランクがあり、要介護2までは訪問介護などの適切な介護保険サービスを利用すれば、一人暮らしは可能とされています。
要介護3になると、自立した生活は難しくなり、施設への入居を検討したほうがよい状態となります。介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)は要介護3以上であれば入居が可能であり、入居一時金などの初期費用がかからず本人の費用負担能力に応じて月々の支払額が決定されるため、費用面で安心です。そのため入居希望者が多く、なかなか入居できないのがデメリットとなっています。
そうした場合に有料老人ホームを検討するなど、入居待ちとなった場合の手立ても考えておかなければなりません。有料老人ホームに入る場合は、公的施設に比べて費用が高くなるため、老後資金が多く必要となります。
*平均的な一人暮らしでは1200万円
介護費用は、介護の度合いや期間、介護の方法(在宅介護なのか施設に入居するのか)で大きく違い、施設入居の場合は施設の種類によって費用に幅が出てきます。もちろん介護にならないケースもあるので、一概に「いくら必要か」とはいえません。
ただ、長寿社会においては、介護は誰にでも起こりうる問題なので、生命保険文化センターが行った調査を参考に600万円を目安に準備しておくといいでしょう。生活費の不足分600万円と介護費用の600万円、合わせて1200万円あれば、老後の安心につながると思います。