具体的には、(i)成長を行う石英管内部での複数の原料を動かす簡便な機構の導入、(ii)蒸気圧が低く供給が難しい複数の遷移金属に対し、塩を添加することで融点を低下させ、かつ結晶成長に最適な温度で気化させる、などが挙げられるという。
結果として、モリブデン(Mo)、硫黄(S)、タングステン(W)、セレン(Se)の組み合わせからなる4種類の異なる組成のTMDC(MoS2、MoSe2、WS2、WSe2)を構成材料として、計6種類の異なる接合構造を発光実験のために十分なサイズと結晶性で作製できるようになったとする。
この試料に対し、電解質(イオンゲル)を用いて発光デバイス構造が作製され、TMDCに電流を流しながら発光の観測を実施したところ、6種類すべての接合構造で界面に沿った発光が観察され、さまざまなTMDCの組み合わせで発光デバイスが作製できることが実証されたという。
さらに、特定の組成のTMDCの接合構造においては、界面での発光において右巻き円偏光と左巻き円偏光の生成量が室温で10%ほど異なることが見出されたとする。この円偏光の偏りは、接合によって生じた結晶内の歪みと電場印加により、TMDC内の特定のスピンを持つ電子が優先的に発光に寄与していると解釈できると研究チームでは説明している。
なお、今回の研究で、4種類の異なるTMDCを組み合わせた計6種類の接合構造のすべてで電流を利用した発光デバイスを実現できた点は、この材料系のデバイス応用に向けた重要な指針になることが期待されるとしている。また、接合界面での歪み効果による室温での円偏光生成に関する基礎的な知見は、TMDCを利用した将来の光量子通信等の光源としての展開が期待できるとしている。