俳優の阿部寛が22日(現地時間)、主演映画『異動辞令は音楽隊!』(8月26日公開)のワールドプレミアでニューヨーク・アジアン映画祭(NYAFF)に登場し、スター・アジア賞を受賞した。
同作は内田英治監督によるオリジナルのヒューマンドラマ。コンプライアンスを問われるこの時代で犯人検挙には手段を択ばない警部補・成瀬司(阿部寛)が、行き過ぎた捜査の結果、最前線の刑事から広報課に属す「音楽隊」への異動辞令を受ける。
ニューヨーク・アジアン映画祭(NYAFF)はアメリカ・ニューヨークで開催されており、今回が20周年の記念すべき年となる。スター・アジア賞はアジアで最も活躍する俳優に与えられ、過去にイ・ビョンホンやカン・ドンウォン、ドニー・イェンら名だたる名優が称された賞で日本人初の受賞となった。
会場では日本映画が大好きだというボランティアの20代前半のアメリカ人も「阿部さんはとにかく是枝監督の『歩いても歩いても』が素晴らしいばかりか、『海よりもまだ深く』も素晴らしく、でも『異動辞令は音楽隊!』ではまた新しい演技が発揮される気がするから観るのが待ちきれない。彼はすでにアジア映画のアイコンであり、レジェンドと言える人だから、この賞をもらって当然だと誰もが思っていると思う。自分もチャンスがあったら一緒に写真を撮ってもらいたい」と熱く語っていたという。レッドカーペットには阿部と内田英治監督が登場し、NYのファンとの貴重な交流を楽しんだ。
授賞式では、映画祭のエグゼクティブ・プロデューサーである、サミュエル・ジャミアが「私を阿部寛さんと間違えないでください」と軽くジョークを言って会場を笑わせる一幕も。阿部に賞を授与するために韓国からやって来たジーン・ノー(Jean Noh)は「この賞は、彼の多才さ、国境を越える魅力と国際性、それから彼がこの30年にも及ぶキャリアにおいて、出演して来た作品のジャンルの幅広さも、評価されて贈られます」と阿部について紹介する。
大きな拍手で迎えられた阿部は、英語で堂々とスピーチ。「どうもありがとうございます。この素晴らしい賞をいただけて本当に嬉しく思っています。また、今世界が大変な時期に、こうしてニューヨークに来られて最高です。今日ここ、ニューヨークアジア映画祭に来てくださった皆さんの顔が見られて、今ものすごく幸せに思っています。それから、この映画祭に尽力くださったスタッフの皆さんにもお礼申し上げます。また、私のこれまでの作品に手掛けてくださった、全ての監督、俳優の皆さん、スタッフの皆さんにもここで改めてお礼を言わせてください。本当にどうもありがとうございます」と挨拶をした。
内田監督も「今回は、ニューヨークに招いていただいてありがとうございます。僕は、30年くらい前にニューヨークの五番街にあった”ナニワ”という日本食レストランで、皿洗いのバイトをしていました(笑)。なので本当に懐かしい街なんです。今回、阿部さんが主演で映画を撮らせていただきました。皆さんご存知のように阿部さんは本当に特別な俳優なので、現場で撮影しながら主人公は阿部さんしかいないなあと気持ちで撮影していました。NY市警にも有名な音楽隊があるので、僕の夢は、阿部さんが、NY市警の音楽隊と対決する『パート2』を考えています。皆さんぜひこれからこの映画をお楽しみください」と上映前の観客を笑わせながら、スピーチした。
上映後のQ&A
・阿部さんに聞きます。まずドラムについて教えてください。あなたは、あまりに素晴らしいドラマーでしたが一体どのようにトレーニングしてあそこまで上手くなったのですか?
阿部「ドラムは今まで全く叩いたことがなくて、楽器自体を触ったこともなかったのです。それで最初はこの台本をいただいた時、ちょっと断りたいなあと思ったんですけど(笑)、監督も実際ドラムなどをやったことがなくて、監督と一緒に挑戦していくという、一緒に作っていくという。ぜひ一緒に仕事したかったので、それで引き受けました」
・内田監督に伺います。この作品を小説として先に書いたそうですね。そこから映画にすると決めたそうですね。小説を書いている時から阿部さんを主人公にしようと考えていたのですか?この役にあまりに阿部さんがはまっていて完璧だったと思いました。
内田監督「小説は映画とほぼ同時に、先月発売されました。脚本自体は5年以上前から書いているものがあって、オリジナルの脚本というのは日本ではなかなか作りづらいというのがあって、またドラムを叩ける俳優さんも少ないですし、なかなか進まずに5年6年かかって、そして去年阿部さんと撮影できたんですけど。やっぱりこういったタイプの役は難しいので、なかなか役者がいなかったんですけど、その中で阿部さんが目の前に現れてくれて、作品が無事完成しました。多分ドラムの練習に関しては想像以上のすごく苦労したんじゃないかなと思います」
・阿部さんはこれまで是枝監督はじめ、偉大な監督と仕事していますが、内田監督との仕事はいかがでしたか? また内田監督には阿部さんとの仕事はどうしたか?
阿部「僕は『ミッドナイトスワン』という監督の作品を観て、監督がすごく評価されていて、その時にちょうどこの作品の話をいただいたんですね。だから、非常に監督にとってもすごく挑戦する作品だと思ったんです。そういう作品で、僕を選んでくれたことを非常に光栄に思ったし、自分で脚本を書かれている作品に出るということで僕が選ばれたというのは、非常に光栄だったし、そんな監督と一緒にぜひやってみたいなあと思って、嬉しかったです」
内田監督「僕は、長くインディーズ映画をやっていまして、いつも1000万円位の映画をずっと作っていたので、阿部さんはやっぱり本当に大活躍している役者さんで、僕の中では、テレビや映画館で見る存在で、この脚本でオファーをさせていただいて、やってくれるらしいよ、みたいな(笑)、話をいただいて。最初はそう言っているけど、最終的にはやらないでしょ、みたいな(笑)、疑っていたんですけど、最終的には目の前に現れて、ちょっとびっくりしました」
・阿部さんについて、私達が信じられないようなことがあったら教えてください(笑)。
内田監督「阿部さんは、田舎で撮影したことがあって、阿部さんが休憩室で、カブトムシとか、クワガタ好きみたいで、『これ採ったよ』ってポケットから出して来たんです。クワガタも。今の日本でクワガタは珍しいので、わ、すごい、と言ったら、『これも』って言ってまた左のポケットからまた出て来たんです。ポケットの中にクワガタとかカブト虫を採ってまして。何匹も入っていたんです。その時は可愛い阿部さんを(笑)、スタッフみんなが驚きを持って見ていました。昆虫が好きだというのを初めて知りました」 阿部「あれは、夏の撮影だったので、照明に飛んできたんです。それを捕まえたのを誰にも気付かないようにしていたんですよ。でも照明さんが気付いて、その人達が僕にみんなくれたんです。それを家に持ち帰ったら30匹くらいに増えちゃいました」
・観客からの質問が多いので、聞きたいと思います。阿部さんへ。主人公と自分は似ていると思いますか?
阿部「いや、似てないと思いますよ(笑)。でも彼も50を過ぎて、新しい世界に挑戦していくという意味では共感しました。自分もだいぶ俳優をやっていますけれども、自分のステージ、色々な世界に挑戦してみたいなんて気持ちもあるので、あれだけ堅い人間が柔軟になれたというのは、すごく共感しましたね」
・成瀬と春子の2人が居酒屋に行くシーンで恋愛関係に発展するのかなと思いましたが、しませんでした。あなたの意図したことは何だったのですか?
内田監督「もともとのすごく昔の脚本では、もっとラブストーリーの部分が強かったんですね。居酒屋のシーンは、その頃からあるシーンで、だんだん対立するという脚本に変わっていった時に、ああいう形になりました。居酒屋はその関係性を強調するために使いました。ニューヨークにも居酒屋はたくさんありますけど(笑)」
・ドラムはどれくらい練習したのですか?
阿部「2ヶ月くらいですけれども、最初はスティックの叩き方から全く分からなくて、もういつになったらできるんだろうって。初めて自分が役作りで半分諦めかけたんですけど、1ヶ月半くらい過ぎてから、みんなと一緒に合同で練習して、とりあえず最後までやってみようと言って、”宝島”という曲を、最後まで無理やりやったんですね。その時にやっぱりそれぞれ下手だけど、一緒に助け合いながら、やれたんですよね。そこからなんかつかみ出して、そこからのびが早く、学びが早くなりました」
内田監督「吹替えないんですよ」
・もう時間がないですが、後1問だけ聞かせて下さい。これからの予定は?日本国外での予定は。この作品の続編もお願いします。
内田監督「そうですね。僕の撮影している頃からプロデューサーにずっと言っているんですけど、このパート2は、成瀬がニューヨーク市警の音楽隊もとても有名でよく日本にも来るので、ニューヨーク市警の音楽隊で成瀬さんが対決をするというー」
阿部「それ無理じゃないですか(笑)。相当ハードル高いですよ(笑)」
内田監督「どこに行ってもその話をしています」
阿部「でも、まあやれと言われればやります」
内田監督「NYPDに知り合いがいる人はぜひ言っておいてください」
阿部「なんでもやります。古代ローマ人も挑戦したし(笑)。なんでもやります」
・阿部さんのこれからの作品の予定は?日本以外の国での予定は?
阿部「次の作品は….今回の役は、強い男の役でしたが、次は本当に何気ない、オタク的な人間の役を今やることになっています。それは、もしかしたら海外の人も観ることができる作品になるかもしれません」
・また海外の映画にもぜひ出てください。
阿部「ありがとうございました」