一見ヒーローらしからぬ極端で濃密な個性を備えたヒーローたちが、時にすれちがい、ぶつかりあい、助け合ったりしながら、人々を脅かす敵に挑んでいくスーパー戦隊シリーズ第46作『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』が、現在好評放送中である。

日本人なら誰もが知っている昔ばなし「桃太郎」をモチーフに、ドンモモタロウ/桃井タロウ(演:樋口幸平)と4人の「お供」=サルブラザー、オニシスター、イヌブラザー、キジブラザーがそれぞれの持ち味を活かし、強烈な欲望から生まれる邪悪な「ヒトツ鬼」を退治するというスーパー戦隊の「芯」は持ちながらも、変身(アバターチェンジ)する前のドンブラザーズにそれぞれ自分の生活拠点があり、戦闘時以外で関わり合う機会のないメンバーがいたりするのが、従来のシリーズとひと味違う部分だといえる。

  • 鈴木浩文(すずき・ひろふみ)。1988年生まれ、兵庫県出身。大学卒業後、銀行員となるが2年で退職。その後俳優を目指して上京し、養成所在籍中に男5人組の演劇ユニット「CoZaTo×」を結成。2021年5月からはTikTokのドラマ制作チーム「ごっこ倶楽部」の立ち上げメンバーとなり、出演と脚本を担当。2022年『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』キジブラザー/雉野つよし役でレギュラー出演中。 撮影:大塚素久(SYASYA)

単独インタビューの今回は、メンバー最年長で普段は平凡な会社員・キジブラザー/雉野つよしを演じる鈴木浩文が登場。どんなことでも水準以上にこなしてしまう桃井タロウとは対照的に、全体的に突出したところのない「普通」さが持ち味のつよしは、愛妻みほ(演:新田桃子)との生活を何よりも大切にしているため、みほを傷つけたり怖がらせるものに対しては激しい憎悪の感情を抱くことがある。

あまりにも平凡であるがゆえに「スーパー戦隊シリーズ」の中ではむしろ超・異色のキャラクターとなったつよしを魅力たっぷりに演じている鈴木から、『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』のストーリー展開の面白さ、そして現在公開中の映画『暴太郎戦隊ドンブラザーズ THE MOVIE 新・初恋ヒーロー』の見どころを聞いた。

――当初は、妻のみほさんを愛する穏やかで平凡なサラリーマンという感じのつよしでしたが、ドン8話「ろんげのとりこ」あたりから何やら怪しい雰囲気が出てきて、ドン15話「おかえりタロウ」では自分自身が「ヒトツ鬼」に変貌するなど、みほへの愛情が強すぎるあまり意外な方向へと突き進んでいる様子ですね。

最初のころは、こんな風になるとはまったく意識していませんでした。ドン8話で初めてつよしの「やらかし」がありましたけど、あれが出てくるまでは普通に良い人というか、平凡な男というキャラで演技をしていたんです。でも「確かに、こういう人間なら何かのきっかけでああいう危険な思考になってもおかしくないな」と、納得できましたね。とにかくドン8話を契機に、つよしの人物像が変化してきたんじゃないかと思います。

――ヒーローの「闇堕ち」パターンなら他の作品でも見られますが、あそこまでストレートな怪人になってしまうのはかなり珍しい部類だと思います。

しかも、つよしがヒトツ鬼に変貌していたおかげで、消滅したタロウを復活させるたったひとつのチャンスにつながるんですよね。お話がよくできている。台本を読んで、びっくりしました。

――毎回、スーパー戦隊のフォーマットを大きく崩していながら「友情の大事さ」や「乗り越えるべき試練」「自己を貫く強い意志」などを描きあげ、結果的に「これも立派な戦隊」と思わせるようなドラマを作り出している井上敏樹先生の脚本についてどう思いますか。

井上さんが初めてメインライターを務めたという『鳥人戦隊ジェットマン』(91年)のホン(脚本)を、今改めて読んでみたいんですよね。当時、テレビで観ていたはずなのですが、幼かったので詳しい内容を覚えていないんです。『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』のホンも、毎回すごい内容で来るなあと思います。

変身ヒーローものには「素面の芝居パート」と「ヒーローアクションのパート」がありますが、『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』だとその割合が2:1くらいで、素面の役者によるドラマの分量が多めなんです。それだけドラマの占める時間が長いので、はるかの目線で進むストーリーだったり、タロウとソノイ(演:富永勇也)とのライバル関係だったり、いくつもの「縦軸」を出せるんですね。

僕に関係する縦軸だと、みほちゃん=夏美をめぐるつよしと翼の関係です。毎回のドラマ作りが本当に巧みで、面白いです。演じている立場であると同時に、『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』を楽しく観ているファンのひとりでもあります。

――つよしは放送開始以来、作品世界の「癒し」を担当するほのぼのキャラとして注目されました。人気を実感された出来事などはありますか。

SNSを拝見しますと、つよしのイラストを描いてくださる方がいらっしゃって、ありがたいなと思っています。みなさんすごく絵がお上手というのもありますが、「こんな細かい芝居をしていたところをちゃんと観てくださってるんだ」と感心することがたくさんあるんです。きっと、そこまで細かな部分まで観たいと思うくらい愛されてるんだなって、いつも感激しています。つよしのアフレコのここが面白かったとか、感想を書かれる方もいて、注目されている実感が湧いて嬉しいですね。

――キジブラザーにアバターチェンジすると、自慢の羽根を使った空中戦を得意とする上に、戦闘中でも何かといろいろおしゃべりをしているひょうきんなキャラクターになりますね。あのセリフは台本にあるのですか。

もちろん台本上のセリフとして書かれている言葉もありますが、ほとんどは現場やアフレコルームで考えて放つアドリブ的なセリフです。台本のト書きには大体「キジブラザー出てくる、戦う、やられる、合体してドンオニタイジンになる」とだけしか書かれていませんから。そこは現場で福沢博文アクション監督が演出をつけて、アクションの方が実際に動きながら発してくださる言葉を参考にしています。一方で、僕がアフレコする段階でぜんぜん違うセリフを言ったりもしますね。たとえその場で思いついたアドリブでも、監督がOKを出してくれさえすれば通りますから。

――キジブラザーになると、こんなことをしゃべろうとか、キャラをすでにつかみきっている感じなのでしょうか。

そうですね。だいたいつよしならこんなことを言うだろうなって、性格を自分のものにしていますし、キジブラザーならではの特徴を踏まえたセリフなども自然に出てきます。アフレコでのセリフは、その場で映像を観ながらしゃべらないといけないので、瞬発力とアドリブ力が重要なんです。

――ドン15話でつよしが変貌した「激走鬼」のアフレコについてはいかがでしたか。

楽しかったですよ。最初は、せっかくつよしがヒトツ鬼になったんだから、つよしの個性を出しつつワルの声を出そうと思ったんです。「うるさーい!」とか、乱暴な言葉を使ったりして。でも、渡辺勝也監督の狙いで「もっとモンスター要素を打ち出したいので、セリフではなく“唸り”っぽい声を出してほしい」と言われて、完成作品のようになっています。怪人の声なんて初めてでしたから、楽しくアフレコできました。