毎年10月頃に保険会社から届く「生命保険料控除証明書」。年末調整や確定申告の際に必要で、税負担を軽くするための大切な書類です。「生命保険料控除証明書」を見るときに抑えておきたいポイントや、毎年年末調整のときに迷いがちな「生命保険料控除申告書」の書き方についても解説します。
■税負担が軽くなる「生命保険料控除」
【生命保険料控除の仕組み】
1年間の所得税や住民税を決定するために、年末調整や確定申告を行います。その計算過程で、それぞれの事情に合わせて税負担を軽くしてくれるのが「控除」です。そのうち、所得控除と呼ばれるものは15種類あり、生命保険料控除はそのひとつです。
生命保険料控除は一般生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料を支払ったときに対象となる控除です。ただし、支払った保険料がすべて控除の対象となるわけではありません。控除額には上限が設定されており、所得金額から最大12万円が控除されます。
注意したいのが、税負担が最大12万円減るのではなく、税金を計算するもととなる所得金額が最大12万円減るという点です。生命保険料控除の適用で、実際にどれだけ税負担が減るのかは、ご自身の所得に応じた所得税率によって決まります。
【生命保険料控除は3種類】
生命保険料控除には3種類あります。
・一般生命保険料控除
生存または死亡を理由とする一定額の保険金や給付金に係る保険料が対象
・介護医療保険料控除
入院・通院などを理由とする給付部分に係る保険料が対象
・個人年金保険料控除
個人年金保険料税制適格特約がついた個人年金保険契約などに係る保険料が対象
契約している保険がどの種類かは生命保険料控除証明書に記載されているので、確認してみましょう。
【生命保険料控除の対象とならない保険】
・身体傷害のみに起因して保険金が支払われる傷害特約や災害割増特約
・保険期間が5年未満の貯蓄保険
・財形保険契約
・少額短期保険業者との契約 など
これらの保険は生命保険料控除の対象とはなりません。そのため、実際に支払っている保険料と生命保険料控除証明書に記載されている保険料の金額が異なる場合があります。
【新/旧制度の違いに要注意】
生命保険料控除制度は、2012年(平成24年)1月1日以降に結んだ契約を対象とする制度(新制度)と、2011年(平成23年)12月31日以前に結んだ契約を対象とする制度(旧制度)があります。
新制度では、先程紹介した生命保険料控除3種類のうち「介護医療保険料控除」が新設されました。また、新制度と旧制度では控除の上限額も異なります。
参考:国税庁「No.1140 生命保険料控除」
■生命保険料控除証明書の見方
【生命保険料控除は年末調整か確定申告で申告】
「生命保険料控除証明書」は保険会社から毎年10月頃に届きます。生命保険料控除の対象となることを証明するものなので、紛失しないように保管しておきましょう。
年末調整の場合
会社員や公務員は「給与所得者の保険料控除申告書」に必要事項を記入し、「生命保険料控除証明書」を添付して勤務先に提出し、年末調整を受けます。
確定申告の場合
自営業者などは確定申告の際に「生命保険料控除証明書」を添付して申告します。
【生命保険料控除証明書でわかること】
生命保険料控除には以下のことが記載されています。
・保険契約内容
・証明書発行時までに払い込んだ保険料の証明
・年内払込予定の保険料
生命保険料控除の申告には年内に払込予定の保険料の情報が必要になります。
【保険会社のホームページで見方をチェック】
生命保険料控除証明書のフォーマットは保険会社によって異なります。保険会社のホームページに証明書の見方や申告額を試算するサポートツールが用意されている場合もあります。手元にある証明書と同じフォーマットだと見方もわかりやすいので、加入している保険会社のホームページを一度チェックしてみましょう。
■ 年末調整で迷わない保険料控除申告書の書き方
【そもそも年末調整とは】
年末調整とは所得税の過不足を精算する手続きです。会社員の場合、毎月の給与や賞与から概算で算出した所得税が天引きされます。この時点ではあくまで概算なので、その年の所得額が確定した時点で税額を再計算し、税額を確定させる必要があります。勤務先に必要な情報を提出し、正しい税額が確定します。それまでに概算徴収されていた額の過不足分が還付または追加徴収され、源泉徴収票が発行されるのが一連の流れとなります。
生命保険料控除はその年の所得額を確定させるために必要な書類のひとつで、「給与所得者の保険料控除申告書」とともに勤務先への提出が求められます。
【年末調整に必要な保険料控除申告書の書き方】
国税庁「給与所得者の保険料控除申告書 」を元に作成
「生命保険料控除」だけではなく、「地震保険料控除」「社会保険料控除」「小規模企業共済等掛金控除」の4つの控除申告にこの申告書を使います。保険会社から届いた生命保険料控除証明書を見ながら、申告書の左側に必要な情報を転記していきます。
まずは加入保険を「一般生命保険」「介護医療保険」「個人年金保険」の種別にわけ、それぞれが新旧どちらの制度に該当するかを確認しましょう。上限額を確認した上で、該当する欄に金額を転記します。申告書に転記する金額は、証明書発行時までに払い込んだ保険料ではなく、その年の1月1日~12月31日までに支払う保険料となるので注意してください。
【新/旧制度両方の適用契約がある場合】
①旧制度のみ適用、②新制度のみ適用、③新旧両制度適用(各々の控除額を算出して合算)のうちから有利なものを任意で選べます。ただし、各種生命保険料控除を合算した控除限度額は所得税で12万円、住民税7万円となります。
<所得税・住民税の保険料控除の上限額>
一般の生命保険料控除 | 個人年金保険料控除 | 介護医療保険料控除 | |
旧制度のみ | 5万円(3.5万円) | 5万円(3.5万円) | -- |
新制度のみ | 4万円(2.8万円) | 4万円(2.8万円) | 4万円(2.8万円) |
新旧両制度 | 4万円(2.8万円) | 4万円(2.8万円) | -- |
合算 | 12万円(7万円) | 12万円(7万円) | 12万円(7万円) |
※( )内は住民税の上限額
たとえば、一般の生命保険に該当する保険について、旧制度の保険料が10万円、新制度の保険料が4万円だった場合、所得税の控除額を考えてみましょう。
①旧制度のみ適用:控除額5万円(10万円×1/4+2万5,000円)
<旧制度・所得税>
年間正味払込保険料 | 控除される金額 |
2万5,000円以下 | 年間正味払込保険料の金額 |
2万5,000円超5万円以下 | 年間正味払込保険料×1/2+1万2,5000円 |
5万円超10万円以下 | 年間正味払込保険料×1/4+2万5,000円 |
10万円超 | 一律5万円 |
②新制度のみ適用:控除額3万円(4万円×1/2+1万円)
<新制度・所得税>
年間正味払込保険料 | 控除される金額 |
2万円以下 | 年間正味払込保険料の金額 |
2万円超4万円以下 | 年間正味払込保険料×1/2+1万円 |
4万円超8万円以下 | 年間正味払込保険料×1/4+2万円 |
8万円超 | 一律4万円 |
新旧両制度適用:控除額4万円(①+②=8万円→限度額4万円)
この場合、一番控除される金額が高くなる①旧制度のみ適用を選択し、5万円を一般の生命保険料控除とすることができます。
【生命保険料控除証明書の添付を忘れずに】
「給与所得者の保険料控除申告書」に記載した保険は、該当する生命保険料控除証明書を添付します。複数の保険に加入していて、上限額を超える場合、超えた分について申告書への記載や証明書の添付は必要ありません。また、勤務先を対象とする団体特約により払い込んだ生命保険料については、証明書は不要です。
■生命保険料控除証明書を紛失したら?
生命保険料控除証明書は10月頃に保険会社から届きます。そのため、年末調整の場合は1カ月程度、確定申告の場合は4カ月程度保管しておく必要があります。その間にもし紛失してしまった場合は、保険会社に再発行を依頼しましょう。
【郵送(書面)での再発行】
インターネット上での申込もしくは電話での申し込みなど、手続き方法は保険会社によって異なります。まずはホームページで証明書再発行の依頼方法を確認しましょう。再発行には1週間程度はかかるので、申告期限が近い場合は注意が必要です。
【電子ファイルでの再発行】
2019年(平成31年)1月以後、保険会社が書面により交付していた控除証明書を電子ファイルで交付することができるようになりました。e-Taxを利用の際に、添付書類としてそのまま申請手続きに利用できます。また、「QRコード付控除証明書作成システム」を利用して印刷すると、書面の控除証明書としても使用できます。
【年末調整・確定申告用のファイルを用意】
証明書を紛失しないために、年末調整・確定申告用にファイルを用意しておくことをお勧めします。生命保険料控除証明書だけではなく、ふるさと納税の寄附金受領証明書、社会保険料控除証明書など、年末調整や確定申告に必要な書類が届いたら、決めたファイルに入れることだけを徹底しておきましょう。申告時にはこのファイルを見れば、必要な書類がすべて揃っている状態にしておけると、安心な上に申告手続きの心理的ハードルも下がるはずです。
■ まとめ
「生命保険料控除証明書」は税負担を軽減するための大切な書類です。保険会社から届いたら紛失しないようにファイルにまとめて保管しておきましょう。年末調整では、保険の種類・新旧制度・金額の3点に注意して、生命保険料控除申告書に証明書の内容を転記します。難しく感じがちですが、制度の概要がわかれば、申告書への記入も負担なくできるはずです。