NTT東日本が地方自治体向けに提供し、全国240自治体以上が現在導入する「被災者生活再建支援システム」。本システムを導入する自治体職員向けのセミナーを、NTT東日本 ビジネスイノベーション本部 ソリューションビジネス部の太田裕介氏と、八木原督真氏にて企画、6月10日に開催された。

  • 写真は同日セミナーを企画した、太田裕介氏(左)と八木原督真氏(右)

本稿では、災害時の地方自体職員が行う被災者生活再建支援業務をDX化し、被災した住民への適切な支援を実現する本システムについて、NTT東日本 ビジネスイノベーション本部 ソリューションビジネス部 担当課長 伴野淳志氏と濱本佳子氏に話を伺った。

公正公平かつ迅速にり災証明書を発行

火災・風水害・地震などで被災し、被災者生活再建支援金や災害復興住宅融資などの申請、損害保険の請求などを行う場合、全壊・大規模半壊・中規模半壊・半壊・準半壊・一部損壊などの区分で被害の程度を認定するり災証明書が必要となる場合がある。

り災証明書は自治体から発行され、被災した家屋などの被害の程度を証明する書類で、その発行に際しては建物の被害状況の調査が実施される。だが、大規模災害などではスピード感を持って多くの建物を調査しなければならず、被災者支援にあたる担当職員の大きな負担となっていた。

今回紹介する「被災者生活再建支援システム」は、被災地の自治体でり災証明書の発行、被災者台帳作成・管理が行える自治体向けのサービス。京都大学防災研究所 巨大災害研究センターと新潟大学危機管理室災害・復興科学研究所が中心となり、開発を進めていた被災者生活再建支援業務システムをNTT東日本が2012年に事業化した。

調査計画からり災証明書の発行、その後の長期的な一連の支援へつなげるデータベース管理まで、被災者支援業務のソリューションをパッケージ化して提供している。

  • 被災者生活再建支援システムの提供機能

「もともとの研究版システムは2004年の新潟県中越地震、2007年の能登半島地震、新潟中越沖地震、2011年の東日本大震災の被災地でも一部実証導入されていました。本システムの特徴は建物の被害状況と住民基本台帳に基づく住民情報、家屋課税台帳に基づく家屋情報という3つの情報を地図上にプロットし、空間的に結合することでり災証明書の迅速な発行を可能なこと。それぞれのデータが別々のシステムで管理されているため、り災証明書の発行手続きが煩雑で、対応にあたる自治体職員の方々は非常に苦労されていたんです」(伴野氏)

2014年のクラウドサービスリリース以降は2016年の熊本地震、台風10号(岩手県域)、2018年の北海道胆振東部地震、西日本豪雨災害、大阪北部地震、台風21号、2019年の台風15号、19号等における被災地で本システムが活用された。

「デジカメと紙の調査表による従来の調査方法では、エクセルに打ち込み整理する作業が発生していました。本サービスはモバイル端末で写真の撮影や、データ入力・整理を行え、現場で調査業務が完結するので調査業務を大幅に効率化できます。本システムを導入していたある県で8~9割のり災証明書の発行が完了していたときに、同規模の被害を受けた導入前の隣接県では3割ほどしか終わっていなかったという話もありますね」(伴野氏)

とりこぼしのない被災者の生活再建支援が可能に

本システムでは必要な建物被害認定調査票を出力し、フローチャート化した調査票を使って、建物の被害状況を公正に判定できる仕組みでり災証明書を発行する。「隣の建物の被害状況に基づき、誤ったり災証明書を発行してしまう」「建物の住民でない方にり災証明書を発行してしまう」といった人的ミスも防ぎやすくなる。

「災害対策基本法に定められた各種被災者の生活再建支援業務を標準化できるので、建物被害を判定する職員の人数も確保しやすくなります。また、従来の調査では“再調査”が実施されることも実は多いんですが、自治体職員と被災者がひとつのシステムを参照するため、住民との合意形成や説明責任を果たしやすくなります」(濱本氏)

また、仮設住宅の手配状況や支援金の給付、税や公共料金の減免など、り災証明書の内容に応じて横断的に実施される被災者支援の状況をデータベース化。被災者台帳の作成・管理によって支援履歴の管理や状況認識の統一を図れ、支援が行き届いていない被災者やり災証明書の申請を行っていない被災者へ、自治体からアプローチしやすくなる。

自治体職員の負担を大きく軽減されることで、被災者にとっても住民サービスの向上という大きなメリットがあるわけだが、リリース当初はシステム導入を訴求していく上で何かと苦労もあったようだ。

「そもそも2012年当時はり災証明書の法的な位置付けも曖昧で、システム化以前に、そもそもり災証明の発行業務のイメージが自治体職員さんにもないということがわりと普通でしたね」(伴野氏)

しかし、2013年には災害対策基本法が一部改正され、迅速なり災証明書発行や被災者台帳作成のシステム導入が努力義務に。いざ災害が起きないと必要性を感じにくいサービスという性質はあるようだが、毎年のように地震や水害など大きな災害が起きる近年の状況もあり、地方自治体の意識も変化して導入に前向きな自治体が多いと語る。

「東京全域や横浜・川崎など既存の導入自治体だけで総人口の1/3ほどをカバーしています。大きな災害では県外からも応援が来られるので、そこで我々のシステムに触れていただくことで、口コミのようにして評判が徐々に広まっていったという感じですね」(伴野氏)

共通システムの導入で自治体間の連携も

伴野氏と濱本氏も実際に被災現場へ赴き、泊まり込みで自治体職員とともに被災者支援にあたってきたそうで、現場職員からさまざまなシステムの改修材料をもらいシステムに反映。バージョンアップを重ねてきたという。

昨年から無償サポートの一環としてオンライン研修セミナーを開始。秋には活用事例を発表するユーザーカンファレンスも予定している。

「毎年6月半ばの出水期(川が増水しやすい時期)前のタイミングで、災害発生時に速やかにシステムを使えること目的に『システム準備セミナー』を開催しています。今年で2回目ですが、自治体職員は担当者の入れ替わりも多く、災害が起きないとあまり使われないシステムなので、なかなかシステムに習熟されていないという事情もあります」(濱本氏)

平時から物資情報や避難所情報を地図上に登録して可視化・集計し、発災前の物資や避難所の準備に利用できる機能などもある。

「毎年のようにバージョンアップしていて、今後も損保会社さんとのデータ連携やマイナポータルと連携した電子申請の対応、避難行動要支援者の把握するための福祉関連データとの連携などを予定しています」(濱本氏)

損保会社と自治体が協定を結び、損保会社の調査結果に基づいて罹災判定する試みもあり、住民にとっても一度の調査で済むといったメリットがある。

「現状では人間による現地調査の建物被害判定がメインとなりますが、将来的にはAIやドローンといった新技術による調査結果を本システムで活用する仕組みも構想しています。基本的には調査から台帳までつくれる全国共通のシステムで、導入自治体が増えるほど災害時に自治体間の応援・受援がしやすくなるというメリットも享受しやすくなります。災害支援業務の統一化というのは、ある意味、NTTという会社にしかできないことだとも思うので、全国にこのシステムを広めていきたいです」(伴野氏)

最後に、同システムを導入した、浜松市危機管理監危機管理課 総務管理グループ (主幹)グループ長の藤田智久氏からコメントをもらった。

導入後感じたことについて、「災害発生後の建物被害認定調査、り災証明書発行、被災者台帳による被災者支援情報の一元管理までの一連の生活再建業務に関して、災害時における職員の業務負担を軽減するとともに、被災者に対する迅速な生活再建業務のためのシステム構築をすることができました。被災地より派遣要請があった際には、標準化されたシステムというメリットにより、派遣職員でも支援システム一連の操作が容易に行え、迅速な支援につながると考えています」と話す。

  • 浜松市危機管理監危機管理課 総務管理グループ (主幹)グループ長 藤田智久氏

また、NTT 東日本の対応に対しては「マイナポータルのぴったりサービスとの連携やコンビニによる証明書の発行にかかる調整など、災害事象を重ねるごとにシステムにフィートバックすべくバージョンアップ対応や導入済み自治体数などからみても『被災者支援のためのシステム』という位置づけを確固としつつあると思います」とコメントした。