フィンランドのNokiaは20日、同社の5G関連技術を紹介するイベント「Connected Future 2022」を日本で開催しました。スペイン・バルセロナで開催されたMWC 2022の展示を一部再現したということで、同社の最新技術だけでなく目指す方向性もアピールされていました。

  • Cloud RAN用装置

    NokiaのCloud RAN用装置。Cloud RANでは、基地局におけるCU(Centralized Unit)とDU(Distributed Unit)を分離して仮想化。CUを増設することで容量を増大し、来るべき5G SAの用途拡大に対応します

Nokiaは、携帯基地局などのワイヤレスネットワークの分野で高いシェアを持ち、日本ではトップシェアを確保しています。これを継続するために研究開発を強化しており、独自チップセット「ReefShark」を投入して市場をリードしようと目論んでいます。

L1層ではこれまでIntel系のSoCを使った開発が続けられてきたのですが、Intelからの脱却が進んできているとのことで、Nokiaでも独自シリコンの開発に着手し、Cloud RANに最適化されたチップセット「Nokia L1 NIC」を今後投入するといいます。

  • SoCのラインナップ

    NokiaのReefSharkは様々な製品で活用されています。今後L1でも独自SoCを採用。今後の6G向けも開発していくそうです

こうした独自チップによってパフォーマンスの改善だけでなく、エネルギー効率も改善しているそうです。なお、同社でも半導体不足の影響はあるものの、準備を進めて影響を最小限に抑えているそうです。

そんなNokiaですが、最新の「AirScale」シリーズのベースバンドをはじめとした多くの基地局やアンテナなどの260種類以上の無線装置を展開しているそうです。すでに500万台以上の装置が5Gに対応しているとしています。

  • 製品ポートフォリオ

    多彩な製品を用意して幅広いニーズに対応するNokia

5Gのネットワークは、大容量のミリ波を使ったネットワークと、Sub6帯を使ったネットワークが主流ですが、今後はさらに600MHz~2.5GHz帯のローバンドを使ってカバレッジを拡大するようになります。日本ではすでにKDDIやソフトバンクが4Gネットワークを5Gに転用しています。

米国では、Sprintを買収したT-Mobileが2.5GHz帯のTDDネットワークによってAT&TやVerisonのスループットを抜き去ったそうです。さらに、600MHz帯のFDDネットワークを導入したことで、米国全土でのカバレッジも急速に拡大させているそうです。

  • T-Mobileのスループット向上の事例

    米国での事例。T-Mobileが2.5GHz帯の5Gによってスループットが向上しました。さらに600MHz帯のFDDによって、5Gカバレッジは30%向上したそうです

こうしたローバンドの5G転用はエリア拡大にとって有効ですが、速度面では100~200Mbps程度で4Gと大差ありません。そこでTDDとFDDのバンドを集約するキャリアアグリゲーション(CA)によって、TDDとFDDのスループットを集約する形でのスループット向上が図られることになります。

仮にTDDで1Gbps、FDDで100Mbpsのネットワークだった場合、CAで1.1Gbpsになるだけで、「あまり意味がないと思われるかもしれない」とNokiaの製品管理部門責任者でモバイルネットワーク、RAN製品ラインマネジメントのブライアン・チョー氏は言いつつ、「本当のメリットはスループットの集約ではない」と付け加えます。

  • ブライアン・チョー氏

    Nokiaの製品管理部門責任者 モバイルネットワーク、RAN製品ラインマネジメントのブライアン・チョー氏

チョー氏は、「TDDがメインバンドとなると、アップリンクよりもダウンリンクの方がカバレッジが大きくなる」と指摘。そのため、ダウンリンクのカバレッジ内にいたとしても、アップリンクがない場合があるそうです。この場合、結果的にダウンリンクも使えなくなるためにカバレッジが狭くなる――と言います。

ここでCAを使うと、FDDネットワークのアップリンクが利用できるため、結果としてTDDのダウンリンクも使えるようになり、カバレッジが広くなるとしています。実際、T-Mobileのデータでは、CAによってTDDネットワークのカバレッジが30%広くなったそうです。

「TDDで容量を稼いで、FDDでカバレッジを拡大して、CAによってTDDを強化拡大する」(チョー氏)。それが5Gの進化のステップだと言います。

  • ミリ波/TDD/FDDからなる階層型レイヤアーキテクチャ

    ミリ波で容量を、ミッドバンドでそのバランスを取りながら、ローバンドでカバレッジを稼ぐのが5Gネットワークだと説明

Nokiaは、こうした5Gの進化に向け、2021年3月には世界で初めて3CC CAを、22年2月には4CC CAを実現。同社の装置を使ったT-Mobileは、6月3日に米国の一部地域でVoNR(Voice over NR=5Gを使った音声通信)を開始しています。

こうした無線装置のハードウェアだけでなく、ソフトウェアも重要なポイントで、既存のハードウェアでもソフトウェアのアップデートで電力効率を改善したり、機能を追加を検討したりしていると言います。加えて、AIや機械学習などを活用し、ネットワークの運用を効率化する取り組みも進めているそうです。

  • ソフトウェアリリースサイクル

    Nokiaではソフトウェアでの改善も続けており、当初はスケジュール通りに進まなかったソフトウェア配信が、現在では「日本の鉄道のように正確に」(同)配信されるようになったそうです

展示でも紹介されていたリキッドクーリング技術も開発しています。これまで、ベースバンドユニットの冷却には空冷を使っており、ファンによって内部にエアフローを作って冷却していました。水冷を使うことで、より効率よく冷却できるとしています。展示では、CO2排出量が30%、エネルギー消費が28%改善していました。

  • 水冷Baseband Unit

    水冷Baseband Unit。展示では、左に置いてある精製水を冷却液として使っていました

  • 水冷ユニットと従来の空冷ユニット

    左が水冷のユニット。右が従来のものです

水冷には冷却装置が必要で、十分に冷却した冷却液(展示では精製水を使用)を循環させることで装置の冷却を行います。空冷の場合はエアコンで周辺の空気を冷却してエアフローで冷却するため、全体としてエネルギー効率が向上するそうです。

  • 冷却装置

    冷却装置は大きめですが、これで確実に冷やして循環させています

このファンをなくす動きは、同社の他の製品でも進められています。基地局に設置するベースステーション「AirScale Base Station」にはファンを装備しているのですが、それと一緒に使われる分配器や整流器といった装置は、斜めに入った多くのスリット(フィン)で効果的にエアフローを作ることで冷却するデザインを採用。ファンがなくなったことで故障リスクも減少し、エネルギー効率の向上なども期待できます。今年末にも商用化する予定だそうです。

  • 整流器・分配器

    AirScaleシリーズの整流器(左)や分配器(中央)、右がコミュニケーションモジュール

  • 冷却用のフィン

    このフィンによって効率的に冷却するそうです

  • 設置例

    実際の設置例

  • レールにはめ込んで設置

    ベースステーションや整流器、分配器などをレールにはめ込んで設置する方式。この方式だとコンパクトに設置できるといいます

今後、5G SAは大容量化などによって消費電力が増大し、装置のパワーも必要になります。Cloud RANによって容量増大に柔軟に対応しつつ、消費電力の削減などのサステナビリティ対応も追求するNokia。5G-Advanced、6Gといった今後のネットワークの進化に向けた研究開発にも注力していく考えを示しています。