1926年にイギリス人作家のA.A.ミルンが描き、いまでは子供から大人まで世代を超えて愛されている名作『クマのプーさん』(Winnie-the-Pooh)。今回クマのぬいぐるみ・プーと仲間たちが過ごす日常を、E.H.シェパードの挿画を交えて綴られた貴重な原画約100点が、日本に上陸する。

10月2日(日)までの期間、立川の「PLAY! MUSEUM」で行われる「クマのプーさん」展では、シェパードが出版社の E.P.Dutton(ダットン社)のために、1950~60年代に描いた貴重な原画とミルンのことばと挿絵で『クマのプーさん』の物語世界をじっくりとたどってゆく。

  • E. H. シェパード『絵本 クマのプーさん』原画 1965 年 E. H. Shepard, Illustration for The Pooh Story Book by A. A. Milne. Courtesy of Penguin Young Readers Group, a division of Penguin Random House, LLC. © 1965 E. P. Dutton & Co.,Inc.

■『クマのプーさん』原画約100点を展示

  • 展覧会のエントランスは、プーさんの物語に迷い込むような見開かれた本になっている

『クマのプーさん』(Winnie-the-Pooh)は、1924年から1928年にかけてイギリスとアメリカで出版された2冊の詩集と2冊の物語からなるシリーズ。詩集は『クリストファー・ロビンのうた』(When We Were Very Young、1924年)、と『クマのプーさんとぼく』(Now We Are Six、1927年)、物語は最もよく知られる『クマのプーさん』(Winnie-the-Pooh、1926年)と『プー横丁にたった家』(The House at Pooh Corner、1928年)の2冊となっている。

日本での翻訳出版は1940年の『クマのプーさん』(当初は『熊のプーさん』)が最初で、1942年の『プー横丁にたった家』(当初は『プー横丁にたつた家』)とともに石井桃子訳で岩波書店から刊行。その後『クリストファー・ロビンのうた』は1978年、『クマのプーさんとぼく』は1979年に、小田島雄志と小田島若子の訳で晶文社(現在は河出書房新社)から刊行された。

「クマのプーさん」展では、1950~60年代、アメリカのダットン社のシリーズ新装版のためにシェパードが描いた原画約100点を展示する。これらのカラー原画は、現在刊行されている岩波書店の『クマのプーさん』『プー横丁にたった家』『絵本 クマのプーさん』の表紙や口絵に使われている、おなじみのものだ。

■プーさんの魅力を26項目で解き明かす「Pooh A to Z」

プーさんの物語に入りこむかのように見開きになった本の入口をくぐると現れるのが、プーさんが世界中で愛され続ける秘密を、AからZの26項目で解き明かす「Pooh A to Z」。

それぞれの項目は、『クマのプーさん』をはじめイギリスの児童文学に造詣の深い本展監修者の安達まみ氏(聖心女子大学教授)が解説している。

知っているようで知らないプーさんにまつわる知識を、写真やパネル、ミュージシャンの坂本美雨氏による物語の朗読、スタイリストの伊東朋惠氏が選んだハチミツのつぼや古時計、雨傘などのアイテムで立体的に展示している。

お馴染みのキャラクターたちのトリビアを文章と視覚で知ることができ、より一層プーさんと仲間たちへの愛着が湧く内容だ。

■舞台となったアッシュダウンの森の映像インスタレーションも!

「Pooh A to Z」の「Z」は「Zzz... (おやすみ)」ということで、ベッドルームへ向かうクリストファー・ロビンとプーの姿が描かれたカーテンを展示。カーテンをくぐり、暗転したエリアへ進むと、作者ミルンが幼い頃に父や兄とともに徒歩旅行した場所であり、プーさんの物語の舞台となったイングランド南部のアッシュダウンの森の映像インスタレーションが現れる。

360度囲むように設置された複数のスクリーンでは、アッシュダウンの森の空や野原、草花や木々、川や空を朝から夜にかけてそれぞれ撮影した撮り下ろし映像を上映。奥のスクリーンエリアでは、アッシュダウンの森の香りも再現しており、清々しい森の匂いも感じられる。

■作家・梨木香歩氏による書き下ろし文章にも注目

映像インスタレーションを抜けたら、楕円形の展示室へ。道中現れる、「森のなかを行こう」と題した文章は、プーさんの物語の舞台となったイングランド南部のアッシュダウンの森にも訪れたことのある、作家の梨木香歩氏による書き下ろしだ。原作をオマージュしたリズミカルな言葉たちと、時節によって様々な表情を見せる森の様子を綴っている。「百町森」に迷い込んだら、どこからともなくプーが現れ一緒に歩く、そんな文とともに展示を楽しむことができる。

■楕円形の展示室が「クマのプーさん」の舞台・「百町森(100 エーカーの森)」に!

「クマのプーさん」展では、展示室を『クマのプーさん』の物語の舞台である「百町森(100 エーカーの森)」をテーマに、草木や風、水を想起させるデザインに仕上げた。空間デザインを手がけたのは、建築家・デザイナーの齋藤名穂氏、グラフィックデザインを手がけたのは展覧会のポスターや図録のデザインを担当する田部井美奈氏だ。

  • 東京・檜原村の木材を足として活用した展示ケース

「百町森」の緑、青、黄、赤色の大きな布が広がる空間には、なだらかな丘を想起させるスロープや階段があり、展示ケースや桃色、紺色の額縁に、シェパードが描いた小ぶりの原画が宝物のように収められている。木材は、持続可能な森づくりをテーマに活動する東京チェンソーズの協力を得た。

  • E. H. シェパード『クマのプーさん プー横丁にたった家』原画 1957 年 E. H. Shepard, Illustration for The World of Pooh by A. A. Milne. Courtesy of Penguin Young Readers Group, a division of Penguin Random House, LLC. © 1957 E. P. Dutton & Co., Inc.

また、今回『クマのプーさん』シリーズ4冊の中で意外と知られていない2冊の詩集『クリストファー・ロビンのうた』『クマのプーさんとぼく』の詩も展示。「百町森」では、1950~60年代に出版された2冊をまとめた本と、2冊からの抜粋集のために描かれた原画をいくつかの詩とともに展示し、ミュージシャン坂本美雨氏による朗読を通して楽しむことができる。

原画の物語や詩とともに、クリストファー・ロビンとプーや仲間たちが過ごした「夢のような時間」を体験できる展示だ。

■プーさんたちが暮らすイギリスをテーマにしたフードメニューも登場!

施設内にある「PLAY! CAFE」では、プーさんたちの暮らすイギリスをテーマにしたフードとドリンクメニューを展開。スモークサーモンを使ったイングリッシュサンドやフィッシュ&チップス、トライフル(パフェ)などを味わうことができる。

ミュージアムショップでも、会場限定のグッズをはじめ、プーさんにまつわる商品が多数販売されている。

  • PLAY! PARK「クマのプーさん」展開催記念企画「楽しい雨の日」

また、「PLAY! MUSEUM」上階にある、子どものための屋内広場「PLAY! PARK」(別料金)では本展の開催を記念した遊具やワークショップを企画。プーさんたちの暮らしを感じる「ハチミツがいっぱい」「風船をはこぼう」「おともだちをつくろう」「楽しい雨の日」の4つの遊びが展開される。

クリストファー・ロビンが大好きなプーや仲間たちと過ごした「夢のような時間」が会場に広がる「クマのプーさん」展。子供の頃の記憶の扉を開きに、または子供と一緒にひと夏の冒険へと出かけてみてはいかがだろうか。