大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)で、源頼朝亡きあと、御家人たちの権力争いが勃発。そんななか、本日20日放送の歴史情報番組『歴史探偵』(NHK総合 毎週水曜22:00~)は、『鎌倉殿の13人』とスペシャルコラボをした回となる。『鎌倉殿の13人』で比企能員を演じている佐藤二朗が、同番組で探偵所長を務めていることもあり、三浦義村役の山本耕史も緊急参戦し、2人で今回のお題である「鎌倉バトルロイヤル」についてクロストーク。この回の舞台裏を、『歴史探偵』の河井雅也チーフプロデューサーと、『鎌倉殿の13人』の清水拓哉チーフプロデューサーが語ってくれた。

  • 『歴史探偵』で共演した佐藤二朗(左)と山本耕史

番組で深掘りされたのは、源頼朝の死後に、鎌倉で巻き起こった御家人たちの権力争いで、曾我兄弟の敵討ちに秘められた北条時政の野望や、比企能員の暗殺事件、北条時政VS義時の骨肉の争いなど。まさに『鎌倉殿の13人』の後半の見どころとなりそうな要素を、歴史資料と共に読み解いていく。

――今回、ゲストに山本耕史さんを迎えた理由について聞かせてください。

河合P:『鎌倉殿の13人』で源頼朝が死に、それ以降の後半戦を見ていくという流れで、やはり山本耕史さんが演じる三浦義村という役はすごく重要なキーパーソンになっていくようです。その山本さんに、僕たちが作った調査VTRを観ていただいたらどんな反応をされるのか? ということと、探偵所長の佐藤さんが比企能員役なので、そんな山本さんの反応を受けて、どんなリアクションをしてトークを盛り上げていくのかと、すごく楽しみでした。ある種、予期できない化学変化なども見せていけたらということで、キャスティングさせていただきました。

――『鎌倉殿の13人』で三浦義村役を山本さんにキャスティングされた理由も聞かせてください。

清水P:やはり三谷さんの信頼が厚いということ。僕も『新選組!』(04)、『真田丸』(16)と本作でご一緒している大好きな俳優さんです。三浦義村は、北条義時の盟友と言いつつ、二人三脚で一緒に同じ方向を向いて歩いてきたかといえばそうではない人物。元々は北条よりも、よほど勢力の強かった三浦の総領息子で、義時とは全然立場が違う人でありながら、やがて北条の隆盛を横で見ていく。そこにはたぶんすごく微妙な感情があったと思うんです。山本さんならきっと、そういう役はお得意だろうと思い、オファーしました。義村は実はすごくエゴイストなところもある人だと思うので、『新選組!』の土方歳三とも『真田丸』の石田三成とも違う新しい山本耕史が見られるんじゃないかと思います。

――この回で、一番盛り上がったのはどんなシーンでしたか?

河合P:『歴史探偵』は資料を読んだり、研究者に取材をしたりして、最新の知見を得て番組を作っていきますが、番組で紹介されたVTRと大河の内容がけっこう違っていて『あれ? こんなシーンあったっけ?』と、お二人がスタジオでお話になられて、ものすごく盛り上がったんです。この回では、鎌倉の御家人たちのバトルロイヤルを描いているので、大河の後半戦の予習として『歴史探偵』を観ていただくと、何倍も楽しくなるのではないかと思いました。

清水P:僕は正直、そんなにネタバレしないで! と思いながら、2人のやりとりを観ていましたが、佐藤さんたちが出演者だからこそ、それぞれのキャラクターに肩入れしてて、ちょっと不思議な立場だなと思いました(笑)。でもそれが、独特の味わいがあって面白い。歴史ドラマなので、ネタバレにこだわるのも変な話ですが、僕自身も、時代考証などの先生たちにいろいろなことを教えてもらって、勉強したうえで、三谷さんの脚本を読む際に「さすが三谷さんのストーリーテリングだな」といつも驚くことが多いです。

――山本さんは『歴史探偵』のVTRを観て「歴史を逆から観ているようなおかしな感覚になりました」という意見を述べられていたそうですが、河合さんご自身はこれまで『鎌倉殿の13人』を観て、どんな点に驚かれましたか?

河合P:僕自身、もともと大河ドラマの大ファンで、歴史に興味を持つきっかけとなったのも大河ドラマの『独眼竜政宗』(87)ですが、やはりどの作品でも驚くことがあります。『鎌倉殿の13人』については、北条時政(坂東彌十郎)の描き方にびっくりしました。歴史番組をやっている僕らからすれば、北条時政は、裏で暗躍した野心家みたいな感じのイメージですが、今回はある種、いいおじい、いいお父さんみたいな感じで描いていくなかで、ちょっとずつ野心を出していくという点が、すごく上手い作りだなと思っています。

――特に驚いたのはどんなシーンですか?

河合P:曽我兄弟の敵討ちのくだりが見事でした。時政が曽我兄弟の烏帽子親をやっていたので、敵討ちだけに手を貸してやるという流れでした。実はその裏で頼朝を殺そうとしていたというのは昔から言われていた説ですが、さらに頼家まで狙っていたと描かれました。そういう三谷さんの脚本には驚くというか、感動しました!

清水P:確かに時政については、研究者の間でも見解が分かれます。元々、非常に勢力の小さな豪族に過ぎなかったという旧説がある一方で、実はその京都との繋がりが深く、政治力もかなりあった人物だったのではないかという説もあります。僕たちはドラマを作っているので、より劇的だったり、皮肉がきいてたり、運命的だったりするほうを取っていくから、今回はああいうキャラクターになりました。主人公が義時なので、そのお父さんをどういう人物にすれば、義時の人生がドラマチックになるかということも含めて考えました。

例えば時政が大政治家タイプだとすると、頼朝と役割が被ってしまうし、頼朝と時政の間で揺れる義時も観てみたかった。まったくありえない解釈は取らないようにしていますが、1年間のドラマをどう盛り上げていくかというなかで、ありうるべき範囲で良いものを選んでいくのが三谷大河の作劇です。曽我兄弟の件もそうですが、三谷さんが0から話を作っているわけではなくて、実際にどういうことが起こったのかいろんなケーススタディを三谷さんと一緒に考えていくなかで、ああいう展開になりました。

――今後、『鎌倉殿の13人』では時政の腹黒い部分がどんな風に描かれますか?

清水P:大河では長い時間をかけて、その人物がどう変化していくのかを描いていくので、時政がある回から突然豹変しましたといったことには当然ならないです。でも、歴史的事実として、頼朝の死後、時政が将来、執権と言われる存在になることは間違いないので、彼自身がある覚悟を持って、その地位をつかみに行く姿は描かれます。僕からすれば、1話の頃のお父さんがこうなるんだ! ということはすごく感慨深いです。あのままずっと伊豆で暮らしていたら、あんな目に遭わなくてすんだのになと。

でも、単純に偉くなったなあ、出世されましたね、お父さん! という思いもあります(笑)。頼朝にあごで使われていた人が、御家人たちに号令をかける立場になるので。そこには何かを持ったがゆえにリスクを持ち込んでしまう人の危うさもある。彼は何かを得た一方で、何かを失ってしまったんだなと。

――今回、『歴史探偵』でも、時政を掘り下げられていた点がとても興味深かったです。

清水P:NHKなので、ドラマというエンターテイメントがある一方で、歴史番組という教養としてのエンターテイメントもあるから、両方を楽しんでいただきたいです。歴史の研究からわかる時政の側面とドラマの時政は違いますが、『歴史探偵』を観ていただくことで、ドラマの世界を何倍も深く楽しんでいただくことができる一方で、ネタバレという劇薬の一面もありますので、ぜひお覚悟のうえ服用してください!

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