藤井聡太竜王への挑戦権を争う第35期竜王戦(主催:読売新聞社)の決勝トーナメント準々決勝、山崎隆之八段―稲葉陽八段戦が7月19日(火)に関西将棋会館で行われました。結果は86手で山崎八段が勝利し、準決勝へ進出しました。
■山崎ワールドの序盤作戦
本局は稲葉八段の先手で相居飛車の力戦型となります。山崎八段が6三の銀を7四~8五に繰り出したのが序盤の注目点でしょう。銀が五段目まで進めば、棒銀ならば成功とされる形ですが、棒銀と異なり、山崎八段の飛車先の歩は一マスも動いていません。飛車や歩の援護がない銀の単騎駆けは異様な姿です。そしてこの銀を早々に△9六銀と捨てました。
▲同香で銀損ですが、△9五歩と歩を突き出して香を取り返せる形です。香がいなくなったことで、先手の9筋が薄くなったことも後手の利点の一つと言えるでしょう。もっとも、銀香交換の損も小さくはないので、形勢はまだまだ難しそうです。天衣無縫な山崎八段らしい独創的な序盤作戦でした。
山崎八段は以下も端攻めを継続し、先手陣にと金を作ることに成功しました。ただその代わりに稲葉八段は馬を作り、さらに後手の飛車を追う形で、逆に9筋から反撃に出ます。
■鮮烈な決め手
56手目、山崎八段は△4五角。自分の角をガツンと相手の銀にぶつけました。▲同銀と取れば、△同飛と取り返した手が馬と金の両取りになる十字飛車になる仕掛けで、先手は単純に角を取ることは出来ません。稲葉八段は▲9四馬と十字飛車の筋を消しますが、ここで山崎八段に大技が出ました。
△2七角成! タダのところに角を押し売りしたのが鮮烈な一手でした。先手は▲同飛と取るしかありませんが、△3八銀の割打ちが痛打です。▲3六角と受けますが、飛車の方を取るのではなく、△4七銀成と金を取るのが継続手。▲同角に△4六飛で後手の飛車がさばけました。
一連の手順で駒割は角金交換となり先手の得なのですが、なんといっても玉の安全度が全く違います。先手の攻め駒は後手玉から遠いのに対して、後手は8九にあると金が先手玉の逃げ道を塞いでいます。そして4筋からの攻めは切れることがありません。この挟撃を受けてはさしもの稲葉八段も受け切れず、最後は山崎八段が先手玉を即詰みに打ち取りました。
山崎八段の準決勝進出は、挑戦者決定戦まで勝ち進んだ第25期以来、2度目となります。準決勝で待ち受けるのは1組優勝の永瀬拓矢王座です。佳境を迎えた竜王戦決勝トーナメントから目が離せません。
相崎修司(将棋情報局)