日産自動車「サクラ」と三菱自動車工業「eKクロスEV」。全く同じタイミングで発売となった2台の軽EV(軽自動車の電気自動車)は似ているどころか、外見以外はほぼ同じのようにも思えるが、あえていうならどこが違うのか。2台を公道で試乗して探ってみた。
日産は縦軸、三菱は横軸の商品戦略
サクラとeKクロスEVの発表は5月20日、発売は6月16日。7月初旬に試乗した時点で受注台数はサクラが約1.7万台、eKクロスEVが約4,600台という人気ぶりだった。
2台は日産と三菱の共同開発だが、基本的には日産が開発を主導し、三菱が生産を担当している。ただ、実際に公道を試乗したり、両社の担当者の話を聞いたりすると、ベースは同一ながらこの2台には意外に大きな違いがあることに気が付いた。
話を聞いたのは、日産自動車側が車両実験部の永井暁主管とマーケティング本部の柳信秀チーフマネージャー、三菱自動車側が商品企画本部の厚海貴裕氏と国内営業本部の吉川省吾マネージャーだ。
日産のお2人に聞くと、サクラは同社が誇るEVの縦並びラインアップ(「アリア」「リーフ」「サクラ」)のボトムレンジを担う特別なクルマとして開発されたようだ。
ベース車の軽モデル「デイズ」とは大きく異なり、エクステリアでは日産の軽として初採用の3眼薄型ヘッドライトや光るエンブレム、日本の「水引」をイメージした和テイストのデザインを盛り込んだ前後バンパーやアルミホイール(充電口にも同じモチーフがあしらってある)などを採用。インテリアは「モノリス」と呼ぶ7インチ+9インチの一体型ディスプレイが目を引き、外観同様に和テイストのデザインがドア下部やコンソールのポケットなどに見られる。サクラはEVのトップモデルである「アリア」のデザインを引き継ぎ、コンパクトに再現したスペシャル感満載のクルマなのだ。
一方、三菱のお2人の話では、eKクロスEVはあくまで同社の軽モデルの1車種であり、「eKクロスシリーズ」のラインアップを横方向に伸ばしたようなイメージだ。
確かにエクステリアを見てみると、eKクロスと異なるのはクロムメッキを施したグリルや小型LEDフォグランプ、サイドとリアの小さな「EV」ロゴくらいで、少し離れてみると見分けがつかないほど似ている。インテリアも同様で、メーターとコンソール周りのデザインがEV専用になってはいるものの、ガソリンモデルと大きく変わったという印象がない。
日産としては、EVの初代リーフであれだけ販売で苦労したので、今度こそは「日本の自動車市場の常識を変えるゲームチェンジャーとなり、さらにEVを代表するクルマに育ってほしい」との願いを込めて、日本を象徴する花の名前である「サクラ」を車名に採用するなど、全力で攻める姿勢を示しているわけだ。
三菱もEV「i-MiEV」(アイミーブ)で苦労しただけに、雪辱を果たしたいという思いは日産と同じであるはずなのだが、話を聞いてみると「eKクロスEVは軽自動車の一員として、ユーザーに気軽に自由に選んでいただける選択肢のひとつと考えています」とのこと。ことさらに特別感を演出せず、横方向の展開であることを強調している。顔つきも、プラグインハイブリッド車(PHEV)の「アウトランダー」をはじめ三菱のクルマが採用しているフロントデザイン「ダイナミックシールド」を採用。ユーザーから好評を得ているので、あえて内外装を変える必要はないとの判断もあったようだ。
公道走行では静粛性にわずかな差が
2台を公道上に連れ出してみた。サクラは横浜市内の一般道と高速道路の環状線、eKクロスEVは東京ディズニーランド周辺の一般道と高速道路の首都高湾岸線と、走行環境はロケーションの違いこそあるもののほとんど似たような感じ。EVらしい静粛性や普通車並みの見事な加速性能、高速巡行性能、それぞれが「プロパイロット」「マイパイロット」と呼ぶ運転支援システムなど、軽自動車の枠をはるかに超える走りの実力は、どちらに乗っても感動レベルだった。
ただし、静粛性には多少の差がある。eKクロスEVは荒れた路面を通過する際、ロードノイズが結構室内に侵入してくるのだけれども、サクラはどんなシチュエーションでもノイズレベルを低く保っていた。道路の継ぎ目などでの「ドンッ」というショックの音も小さいので、サクラの方がワンランク上の乗り心地を提供しているように思えたのだ。
試乗後に感想を伝えると、「よくぞわかってくれました!」と日産のお2人。サクラはEV化によりただでさえ静粛性が向上しているのだが、日産EVラインの一員として認めてもらうべく、ノイズの伝達経路を塞いだり狭めたりと、もうひと手間の対策を施したそうだ。一方の三菱は、そのままでもEVによる静かさがしっかりと提供できているので、さらなる対策は不要であるとの判断だ。
地方に広がる軽EVの販売
面白かったのは、両社がサンプリングした軽自動車ユーザーの1日の平均走行距離。日産は30km/日、三菱は50km/日というから、両メーカーのユーザーには使い方や走り方、また地域性の違いがあるのかもしれない。いずれにしてもバッテリー満タンで180km(実質は140~150km程度と思われる)走れるのだから、安価な夜間電力でフル充電にしておけば、数日は充電なしで過ごせるわけだ。もちろん、ガソリンスタンドに立ち寄る必要もない。
サクラは補助金の効果もあり、東京や名古屋などの大都市圏で最初に売れ、現在では岐阜、滋賀、香川、徳島など、軽自動車の需要が多い地方がついてきている状況だという。また鹿児島など離島が多い地域では、島にガソリンスタンドがないので給油のためにフェリーに乗るという状況を解決する方法として、軽EVに注目が集まっているそうだ。
eKクロスEVも同様で、大都市圏以外では群馬、茨城、西では岡山(2台を製作している水島工場がある)、鳥取、島根、高知、宮崎、鹿児島などで引き合いが増えているそう。ガソリン価格の高騰を背景に、自宅で充電できる軽EVの手軽さがじわりじわりと地方に浸透しつつある感じが見て取れる。
国内自動車市場の約4割を占める軽自動車の世界に登場したサクラとeKクロスEVには、ゲームチェンジャーとしての能力がしっかりと備わっているようだ。