住宅ローンを利用する際、借入期間の決め方や繰り上げ返済を含めた返済計画に悩む方は多いと思います。「早く返したほうがお得」という考え方もありますが、住宅ローン比較サービス「モゲチェック」の塩澤崇COOは「住宅ローンを長く借りるメリットはもっと知られるべき」と語ります。一体それはなぜでしょうか? 塩澤COOにインタビューしてみました。

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■大半が「65歳までに返済を終えたい」

――そもそもなのですが、住宅ローンの返済期間は最長何年までですか?

返済期間を最長35年間としている住宅ローンが大半です。中には50年ローンもありますが、まだ一般的ではないと思います。

――一般的には、何年で返済を終えたいと考えている方が多いのでしょうか?

返済期間について、モゲチェック利用者331名(2022年4月22日~25日回答)にアンケート調査を実施した結果、30年以上かけて返済したいユーザーとそうでないユーザーがほぼ半数ずつと意見が分かれました。

不動産価格が高騰しているため、毎月の家計に無理のないよう、長期返済を続けたいと考える人がいる一方で、できるだけ早く返済を終えたいと考える人も多くいらっしゃるのだと思います。

  • アンケート「何年で住宅ローンの返済を終えたいですか?」

また、多くの方が返済を終える目安として考えているのは65歳付近のようです。同じ調査で、65歳までに返済を終えたい人は全体の3分の2を占めました。「60歳の定年退職までに返済を終えるのは大変そうだけど、頑張って繰り上げ返済して、その後数年で完済したい」というのが、多くのユーザーの気持ちと思われます。

  • アンケート「何歳までに住宅ローンの返済を終えたいですか?」

――返済期間の違いで、総返済額はどれくらい変わるものなのでしょうか?

例として、「元本3,000万円で金利0.45%の住宅ローン」を、「35年で返済するケース」と「25年で返済するケース」で比較し、下記の表にまとめました。

当然のことではありますが、返済期間が短い「25年で返済するケース」のほうが、毎月の返済額は約3万円増える一方、総返済額は約70万円減ります。つまり、このケースでの繰り上げ返済効果は約70万円となります。

  35年返済 25年返済 差額(35年返済-25年返済)
毎月返済額 7.7万円 10.6万円 +2.9万円
総返済額 3,303万円 3,232万円 ▲71万円

※総返済額は元本+金利+事務手数料(元本の2%)で計算

■総返済額が増えても返済期間を長くとるべき理由

――総返済額が増えてしまうのに「返済期間は長くとったほうがいい」と主張されているのはなぜですか?

理由は2つあります。「住宅ローンは無料の生命保険」と「Cash is king」です。

つまり「住宅ローンは非常にお得な商品なので繰り上げ返済せずにキープしておきましょう」ということと、「現金は家計を守るための生命線なので借金の返済に使うのはあまりにももったいない」ということです。

■借りていながら実はお金がもらえているのと同じ効果がある

――まず、「住宅ローンは無料の生命保険」というのは、どういう意味なのでしょうか?

「借入額3,000万円、住宅ローン金利0.45%、返済期間35年」の住宅ローンを例にとり、考えてみましょう。

まず、13年間の住宅ローン控除額の合計はおよそ250万円(※元本の0.7%の税控除、詳しい適用条件は国税庁のwebサイト参照)、つまり元本の約8%分のメリットを得ることができます。

一方、金利と借入時に支払う事務手数料(元本の2%)を合計すると310万円、元本の約10%分のコストがかかります。

つまり、この場合の実質的なコストは、差し引き、元本の2%程度(およそ60万円)であり、毎月にならすと月間1,400円程度です。

わずか元本の約2%分のコストで私たちは何を得られると思いますか? 時間を買うこと(本来、何十年も貯金しなければ手に入れることができないマイホームにすぐ住むことができる)ができるうえ、生命保険にも入れるのです。

住宅ローンには団信(団体信用生命保険)という生命保険が無料でついており、返済中に死亡したり、高度障害になったりすると、住宅ローン残高に相当する保険金がおりてローン残高が0円になります。

この団信の価値はいくらくらいかというと、結論、約260万円です。今回のケースの団信とほぼ同様の効果を得られる生命保険として、40歳で1,500万円の死亡保険に入ることを想定した場合、男性だと毎月6,300円の保険料、つまり35年で約260万円を支払う必要があるからです※。

(※住宅ローン残高は返済により減少していくため、3,000万円分の半分、1,500万円の死亡保険で計算。保険料はライフネット生命のシミュレーション結果を参照。)

保険料は年齢によって異なりますが、団信の価値はおおよそこの程度あると考えていいでしょう。

つまり、3,000万円の住宅ローンを借りることで元本の約2%分(およそ60万円)のコストを支払い、一般に販売されている生命保険換算で約260万円相当の保険に入れるということになります。差し引き200万円もお得になる計算です。この200万円は金利に換算するとマイナス0.4%となります。これが「住宅ローンは無料の生命保険」とお伝えした理由です。

――お話を聞いていると、住宅ローンに入ったほうが逆に得をするという気にさえなってきました。

住宅ローンに対するイメージとあまりにもかけ離れた結果に戸惑う方も多いと思いますが、住宅ローンという金融商品は借りていながら実はお金がもらえているのと同じ効果があるのです。

再度整理すると、今回例として挙げた住宅ローンの場合「金利や事務手数料などの支払い」<「税控除と団信の保障内容のメリット」となり「毎年0.4%のリターン」が得られる商品と言うことができます。

よって、できるだけ長く借りたほうが良いです。繰り上げ返済してはいけません。返済期間は35年間目一杯とり、約定通り返済する。ただし、繰り上げ返済しないからと言ってその分を散財しても良いという意味合いではありません。家計はしっかりと管理しつつ、さらに住宅ローンから得られるメリットを最大限受け続けるべきだと考えています。

■住宅ローンがお得すぎる金融商品になっている背景

――住宅ローンがこんなにもお得な商品になっている背景には、何があるのでしょうか?

住宅ローン減税による税控除が非常に大きい点に加えて、銀行が激しい融資競争を行っているので、金利がかなり低く抑えられていることが挙げられます。

例えば都銀の預貸率(預金のうち、何%を融資に回せているか)は、この10年間、ずっと下がり続けています。

つまり、預金を集めても貸し出す先を見つけられないジレンマの状態です。そうなると、多少金利を削ってでも貸し出そうというプレッシャーが銀行にかかりますので、住宅ローンの金利低下が止まらないのです。

  • 都銀の預貸率の推移※日本銀行のデータをMFSが分析

また、住宅ローンは他の金融商品を販売するための手がかりと位置づけている銀行も数多くあります。住宅ローン単体の採算性が多少厳しくても低金利にして集客を強化するケースが多いのが実態です。


次回は、住宅ローンの返済期間を長くとったほうがいいと考えるもう一つの理由、「Cash is king」について解説していただきます。

塩澤崇(しおざわ・たかし)/株式会社MFS 取締役COO

2006年に東京大学大学院情報理工学系研究科修了後、モルガン・スタンレー証券株式会社にて住宅ローン証券化ビジネスに参画。モーゲージバンクの設立やマーケティング戦略立案、当局対応を担当。2009年、ボストン・コンサルティング・グループで、メガバンク・証券・生保の国内営業戦略・アジア進出ロードマップ等の経営コンサルティングに従事した後、2015年9月より現職。