実際に樹立されたナノボディ抗体をクライオ電子顕微鏡にて解析したところ、ヒトの抗体と比べておよそ10分の1と小型で、SARS-CoV-2の表面に存在するSタンパク質の深い溝をエピトープ(抗体が結合する生体分子のある特定の部位)にしていることが示されたとする。このエピトープはヒトの抗体が到達できない部分であり(論文中では、「クレバス」または「隠された裂け目」と呼称)、ウイルスの変異がほとんど見られない領域だという。

また、オミクロン株は、ワクチンによって誘導された中和抗体や治療用抗体製剤から逃避する特徴も有しているが、今回の研究で創られた抗体は、変異がほとんど見られない領域に結合することから、これまでに報告されたいずれの中和抗体よりも高い有効性が示されたとする。

  • Sタンパク質にナノボディ抗体が結合した構造

    Sタンパク質にナノボディ抗体が結合した構造。ナノボディ抗体(P86)が結合している深い溝(Hidden cleft)には、オミクロン株(BA.2)における変異箇所(赤色で示されている部分)が存在しない (出所:京大プレスリリースPDF)

さらに、ナノボディ抗体は環境耐性が高く、全SARS-CoV-2変異株を検出することが可能であるため、下水など環境中のウイルスの濃縮やモニタリングにも利用することができるという。

加えて、ナノボディ抗体は遺伝子工学による改変がしやすいことから、ヒト抗体よりも数千倍安価に生産することが可能であることから、京大の高折教授らは、今回の研究で得られた知見に基づき、より中和活性の高い改変ナノボディ抗体を作成し、臨床応用を目指すとしている。

なお、京大、阪大、コグナノでは、さまざまな感染症について、ウイルス学的な解析や、中和抗体やナノボディ抗体の構造解析についての研究に取り組んでいるとしており、具体的には新型コロナ以外に、エイズウイルス(HIV)、ネコエイズウイルス、サル痘などとしているほか、がん免疫を明らかにするための研究も推進しているとしている。