英Nothing Technologyのスマートフォン「Nothing Phone (1)」が発表されました。日本でも同社のWebサイトなどから販売される予定で、8月には登場する見込みとされています。
日本のメディアを集めた説明会も開催されており、同社CEOのCarl Pei氏が開発の背景などを語っています。発表の際にもファーストインプレッションをお届けしましたが、今回試用機が貸し出されたので、詳細をレビューしてみたいと思います。
現時点で日本における販売チャネルは明らかにされていませんが、英国では携帯キャリアからの発売も行われるようです。日本でもキャリアとの話し合いは行われているそうで、昨今の経緯からすると、ソフトバンクが興味を持ちそうな印象はあります。今後の発表に期待したいところです。
日本ではメモリ8GB、ストレージ256GBモデルのみ価格が発表されており、69,800円。英国では8GB+128GBモデルが399ポンド、8GB+256GBモデルが449ポンド、12GB+256GBが499ポンドとなっています。
透明ボディのオリジナルデザインスマホ
Nothing Phone (1)は、デザインに特に注力したスマートフォンです。「最近のスマートフォンは退屈」と話すPei氏が、デザイン面での新鮮さを追求し、いくつかの特徴を盛り込みました。
最大の特徴はその背面です。背面カバーが透明で、スマートフォンの中身が見えるというデザイン。基板が丸見えというわけではありませんが、中央にワイヤレス充電のコイルが目立ち、細かなパーツが内部基板を覆っているのが見て取れます。
単に内部を見せるというだけでなく、デザイン性も考えているようで、ニューヨーク地下鉄の路線図をデザインしたマッシモ・ヴィネリにインスピレーションを受けているそうです。
背面のロゴやアイコンがなくても、一目でどのスマートフォンか分かります。独特の外観でインパクトもあります。Gorilla Glass 5によって傷が付きにくいようになっているそうで、フラットなボディは持った感じも滑りにくくて好印象。側面のアルミフレームの素材感や一体感も悪くありません。
表面は一般的なスマートフォンと同じ、全面ディスプレイを備えています。OLEDディスプレイのサイズは6.55型で、解像度は2,400×1,080ドット。HDR10+や10bitの色深度、500nitの輝度、1,200nitのピーク輝度、100万:1のコントラスト比、60~120Hzのアダプティブリフレッシュレート、240Hzのタッチサンプリングレートといった仕様。
スペックの高いディスプレイですが、かなり高価なデバイスを使っているそうです。外見はフラットなディスプレイなのですが、実はフレキシブルディスプレイを使っているといいます。
通常のスマートフォンは、前面の上下左右に黒いベゼルが存在しています。そのベゼル幅は均等ではなく、一般的に下部が広くなっています。これはディスプレイと基板を接続するためのコネクタが下部にあるからだ、とPei氏は説明します。
フレキシブルディスプレイを採用したのは、この部分でディスプレイを背面に向かって折り曲げることで、ディスプレイ部を広くして、ベゼル幅を狭くするためだといいます。これによって、上下左右のベゼル幅が均等になるようにしたそうです。
フラットではなくフレキシブルなディスプレイを採用したことでコストは2倍になったと、Pei氏。それでも、デザイン性を優先したそうです。それが奏功しているかどうかは、ユーザーの判断でしょう。
正面から見るとiPhone風の見た目で、あまり他との区別はできませんが、背面を見ると一発で分かるデザイン。一風変わったデザインを求めるにはいいでしょう。
シンプルなOS
OSにはAndroid 12をベースにしたNothing OSを採用しており、ほぼ「素のAndroid」という点が特徴です。Google標準アプリであるカレンダーやフォト、マップ、Gmail、YouTubeといったアプリはプリインストールされていますが、サードパーティ製アプリはインストールされていません。
Google純正スマートフォンのPixelシリーズのように、余計なアプリは最初から存在させないという考え方です。唯一、Pixelでしか使えないレコーダーアプリが異なりますが、Pixelと同様に必要なアプリだけが搭載されています(Googleアプリのインストールは避けられません)。
アプリを増やしていくと、それぞれの機能などによって通信が増えたりデータ利用が増えたりするため、バッテリー消費やパフォーマンスにも影響を及ぼします。必要なアプリは人それぞれですし、「分かっている」人なら必要なアプリを順次インストールすればいいでしょう。
デザイン面では、Android 12の「Material You」に即したカスタマイズやアイコンパックが搭載されています。面白いところではホーム画面でアプリアイコンを長押しすると「最大化」という項目が現れ、選択するとアプリアイコンが巨大化するという点。インパクトが強く、よく使うアプリを登録しておくと面白いかもしれません。
英語フォントであれば、ドットのようなフォントが搭載されています。要所で使われており、全体のイメージに即したデザインとなっています。UIを日本語表示にしていると、このフォントと日本語の標準フォントが入り混じる感じになるのは残念なところです。
Nothing OS自体は標準のAndroidに近いのですが、画面上からスワイプする通知領域にあるクイック設定がカスタマイズされています。
クイック設定では上段に通信機能が大きく2つにまとめられ、モバイル通信、Wi-Fi、テザリングをスワイプで切り替えたり、接続しているBluetooth機器をスワイプで確認したりできます。ただし、表示を切り替えられるだけで、タッチしてもオンオフや機器の切り替えができるわけではありません。
それ以外は比較的標準的ですが、同社によればこのクイック設定に様々なサービスを追加できるとしています。現在はテスラのサービスにのみ対応しており、クイック設定からテスラ車のエアコンをオンにしたり、キーをアンロックしたりできるようです。
デザイン面でのカスタマイズは一部ありますが、基本的にAndroid標準のUIで、それが特徴となっています。クイック設定の独自部分がどの程度広まるかで、使いやすさが大きく変わりそうです。
光を活用するグリフインタフェース
そして最大の特徴が「Glyph Interface(グリフインタフェース)」です。本体背面にはLEDバーが内蔵されていて多彩な光り方をしますが、これがグリフです。LEDバーはワイヤレス充電コイル周辺やカメラ周辺などに配置されており、着信時などに発光します。
前述のクイック設定にGlyphのオンオフがあります。これは、「Flip to Glyph」という機能で、本体を裏返して平面に置くと、サイレントモードになって画面には通知が表示されなくなります。その代わり、着信などの通知は背面のライトによって示されるようになります。
この着信時の通知は、連絡先によって光り分けをすることが可能。着信に応じて光り方を設定できるので、Flip to Glyph状態でも、誰からの着信か分かり、大切な着信を見逃さずに済む、というのがメリットです。
音声着信用の設定なので、それ以外の通知が個別の表示になるわけではないようです。音声着信のみの設定がどこまで効果的かは不明ですが、余計な通話に悩まされずに作業に集中できそうです。
また、グリフはカメラライトとしても活用できます。本機には通常のLEDライトもありますが、グリフをライト(グリフフィルライト)として点灯すると、グリフ全体が点灯します。
光量はLEDライトの方が強いようですが、基本的に狭い範囲に強い光を当てるスマホカメラのLEDライトは、光りが硬くなりがちそれに比べると、グリフフィルライトは光源が背面全体に分散しているので光が柔らかくなります。均等に光が拡散するわけではないのですが、バランスがよくなります。特に人物撮影時に効果がてきめんで、グリフフィルライトだとLEDライトほどまぶしくないのです。これは大きな効果です。
また、スマートフォンの持ち方によってグリフフィルライトの一部を手で押さえれば光量もコントロールできます。本体を上下にひっくり返せば、また光の当たり具合も変わります。面白い工夫ですし利便性も高いので、有効に活用できそうです。
使いやすく写りのよいカメラ
カメラ機能もチェックしてみましょう。カメラはデュアルカメラで、メインカメラは有効画素数5,000万画素1/1.56型ソニーIMX766センサーを搭載。4つの画素を1画素として使用するピクセルビニングに対応し、その場合の写真は1,250万画素で記録されます。ピクセルピッチは1μm。レンズは35mm判換算24mm F1.88。光学式手ブレ補正と電子式手ブレ補正を備えているようです。
超広角カメラは、同じく有効画素数5,000万画素1/2.76型サムスンJN1センサーを採用します。こちらもピクセルビニングで1,250万画素記録になります。レンズの画角は114度とされていますが、Exifで見ると焦点距離は14mm。F値はF2.2です。
カメラ機能は一般的で、オートモードの「写真」「動画」「ポートレート」「SLO-MO(スローモーション)」に加え、「タイムラプス」「PANO(パノラマ)」「マクロ」「エキスパート」の各モードが用意されています。
カメラの設定画面には「シャッター音」の項目はありますが、オンオフしても特に変わらず、消音にしていてもバイブとともにわずかな音が鳴ります。シャッター音というよりも、Nothing Phone (1)全体のボタンタッチ音とバイブがシャッターでも使われているようです。
ほとんど目立たない独自の電子音なので、シャッター音があっても不快感はありませんが、日本国内だからシャッター音が設定できないのかどうかは不明でした。
基本的にはシャッターボタンを押せば、シーン認識もして最適な撮影をしてくれます。ナイトモードのみ、オートモードと動画モードで画面上に現れる月のマークをタッチするとモードが切り替わります。ナイトモードは連写合成によって暗所でも明るく撮影できる機能です。
不思議なのはエキスパートモードで、シャッタースピードやホワイトバランスなどを設定できるのですが、レンズのズーム設定がオートモードの「0.6x」「1x」「2x」という表示に対し、「1x」「2x」表記と「ウルトラワイド」アイコン表示というように切り替わります。
連続したズームではなく、レンズを明確に切り替えるようなUIになるのは、何らかの意図があるのかもしれませんが、操作性が変わるという点は少し謎なところです。謎といえば、「ナイトモード」と「高度ナイトモード」の2種類があるようですが、この違いはちょっと分かりませんでした。
マクロモードもありますが、自動切り替えはしません。超広角レンズに切り替えているだけなので、必要であればオートモードでも超広角カメラに切り替えることでレンズ前4cmまで近寄ることはできます。
描写は自然で大きな問題は感じません。新興メーカーでありカメラは「初物」ですが、特に無理をした様子はなく、破綻のない描写をします。質感も良く、スナップ写真としては問題のないレベル。
通常の12.5MPと50MPの切り替えは画面上部から簡単に切り替えられます。50MPも思ったよりは優秀で、ノイズや解像感で不利になりますが、必要十分な画質です。
動画は最大4K30Pまでの撮影が可能。HDR撮影はフルHDまで、フルHD以下では60P撮影も可能です。動画撮影時も柔らかめの光になるグリフフィルライトが効果的です。
十分なパフォーマンスで幅広い人に勧められる
パフォーマンステストも実施してみました。SoCはQualcomm Snapdragon 778G+。ミドルハイのチップセットなので、通常の用途では問題は感じません。
ベンチマークソフト | テスト | スコア |
---|---|---|
3Dmark | Wild Life | 2,881 |
GeekBench | Single-Core | 808 |
Multi-Core | 2,937 | |
GFXBench | マンハッタン3.1 | 3,213 |
Aztec Ruins OpenGL High Tier | 1,432 | |
Aztec Ruins Vulkan High Tier | 1,460 | |
GeekBench ML | CPU | 381 |
GPU | 964 | |
NNAPI | 902 |
Snapdragon 600番台と比べると高速で、800番台には少し足りないという印象。よほどのことがない限りパフォーマンスが問題になることはないでしょう。
ここまで見てきたように、Nothing Phone (1)は、スマートフォンとして比較的コンサバな作りをしています。日本特有の5Gのn79やおサイフケータイは非対応なものの、やや弱めながらIP53相当の防水防塵、大画面で必要十分なスペック。カメラも実用的なレベル。3年間のAndroidアップデートと4年間のセキュリティパッチ保証も大事なポイントです。
その中で、「みんな同じでつまらない」という理由で、特に背面デザインにオリジナリティを追求したNothing Phone (1)。日本でもBALMUDA Phoneを作ったバルミューダが似たようなスタンスでした。バルミューダの場合は一部アプリを含めて独自開発をしていますし、スマートフォンとしてもBALMUDA Phoneの方が尖っています。逆に言えば、Nothing Phone (1)は「いたって普通に使えるスマホ」として幅広く勧められそうです。
その意味では、人と違うスマートフォンが欲しい人に、コンパクトなBALMUDA Phone、大画面のNothing Phone (1)といったように、紹介できるバリエーションが増えたことは歓迎すべき点でしょう。