今回の実験ではその光電子運動量顕微鏡と軟X線を用いて、グラファイトの単結晶を真空中でへき開し、清浄な表面の電子状態の調査が行われた。運動量空間での全データ取得が行われたところ、特定の光エネルギーの軟X線で計測した場合(68および100eV)に、明瞭な3回対称性の電子状態が確認されたとする。
これは、従来知られていなかった表面での電子状態の対称性の破れを見出すことに成功し、原子1層のステップの可視化に成功したということであると研究チームでは説明するほか、炭素原子がジグザグに配列する方向にステップの端部が現れることも明らかにされたとする。
具体的には、顕微機能で局所的に観察したところ、表面の積層の終端によって鏡面対称の2つのドメインAとBが存在することが判明し、グラファイトの単原子層ステップの境界が観察されたとする。
グラファイトは現在、さまざまな分野で活用が進められつつあるが、その性能を十分に発揮させるためには、表面や端部の微細な性質を知り制御する必要があるとされているほか、これまでよく研究されてきた物質でも、微視的な測定を行うことで、実用上で重要な表面や端部の特徴的な構造が観測できるようになり、物性の正確な理解が一段と進むと研究チームでは説明している。
なお、今回研究で用いられた光電子運動量顕微鏡は、実空間・運動量空間の両方で拡大して計測できるほか、試料温度を絶対温度9K(約-264℃)から400K(約127℃)まで自在に変えられる点も特徴であることから、こうした機能を活用することで、超伝導や触媒活性が発現する箇所・条件を直接観察するなど、物質の状態変化をその場観察できるようになるとしているほか、今回の技術については、表面・薄膜・配向分子・化合物結晶試料の原子レベルでの電子状態解析にも応用でき、ナノ材料科学・量子デバイス工学を展開する上で、大きな貢献につながることや、新しく開拓された分析器・分析法が測定技術革新の先端事例となることも期待されるという。