そこで今回の研究では、げっ歯類の脳から前脳基底核を含むスライス標本を作製し、CNから電気生理学的手法を用いて記録される、興奮性シナプス電流に対するセロトニンの作用を検討することにしたという。

その結果、前脳基底核CNから興奮性シナプス電流を記録する際に細胞外にセロトニンを与えると、興奮性シナプス電流が抑制されることが判明したほか、セロトニンがどのようなメカニズムにより興奮性シナプス伝達を調節するのか、セロトニン受容体の各サブタイプ特異的な阻害薬を用いた検討の結果、セロトニン5-HT1B受容体はシナプス前細胞からの神経伝達物質(グルタミン酸)の放出を抑制し、5-HT1A受容体はシナプス後細胞に発現するグルタミン酸受容体(AMPA受容体とNMDA受容体)に作用することが確認されたとする。これは、1種類の神経伝達物質による調節作用が、2つの異なる受容体を介し、またそれぞれ異なるメカニズムにより生じることを意味するものだという。

  • セロトニンは興奮性シナプス電流を抑制する

    セロトニンは興奮性シナプス電流を抑制する。(A)電気生理学的手法の模式図。(B)コリン作動性ニューロンから記録された電流例 (出所:慈恵医大Webサイト)

なお、研究チームでは、前脳基底核CNは脳全体にアセチルコリンを広く放出する重要な神経細胞であり、ADとの関連が指摘されているほか、AD患者では、うつ病の併発も知られていることから、ADとうつ病との関連性を明らかにすることは、AD患者の生活の質(QOL)を支える上で重要となると説明しており、このようなアセチルコリンとセロトニンの関係性に関する理解が進むことで、今後、AD患者におけるうつ病併発のメカニズムの解明や、新たな治療法開発に関する研究が進むことが期待されるとしている。

  • 前脳基底核コリン作動性ニューロンへの興奮性シナプス伝達が、セロトニンにより抑制されるメカニズム

    前脳基底核コリン作動性ニューロンへの興奮性シナプス伝達が、セロトニンにより抑制されるメカニズム (出所:慈恵医大Webサイト)