渡辺明棋王への挑戦権を争う第48期棋王戦コナミグループ杯(主催:共同通信社)、7月8日には挑戦者決定トーナメントの藤井聡太竜王―中川大輔八段戦が行われました。結果は116手で藤井竜王が勝ち、挑戦権獲得への一歩を踏み出しました。

八大タイトルのうち、藤井竜王が所持していないタイトルは名人・王座・棋王の3つ。名人戦の挑戦を懸けたA級順位戦に藤井竜王は今期から参加、初戦を制して幸先良いスタートを切っています。王座戦は本戦トーナメント初戦で敗退し、今期の挑戦の目はなくなっています。そしてこの棋王戦は今期初戦となる対局ですが、トーナメントのため負ければ即座に今期の挑戦はなくなります。

第48期棋王戦コナミグループ杯挑戦者決定トーナメント表

■中川流の序盤

本局は振り駒の結果、中川八段の先手で相掛かりとなります。互いに飛車先を換えた後に▲4七銀△6三銀と進めた形26手目の局面は300局近い前例があり、さらに▲5六銀△5四銀と進めばいわゆる「ガッチャン銀」と呼ばれる形になります。棋王戦では95年2月の第20期五番勝負第2局、▲羽生善治棋王―△森下卓八段(いずれも段位は当時)でも現れた形です。

ですが▲5六銀を急がず、▲6八玉と先に居玉を解消するのが最近の中川流。▲6八玉の局面は80局以上の前例がありますが、本局以前の直近10局は、全て先手を中川八段が持っています。

駒組が一段落したのは56手目△9四歩の局面でしょうか。中川八段は▲4五歩△5三角と角を追ってから▲8六銀と自らの角筋を通します。ですがこのタイミングでの△3五歩がうまい反撃。▲同歩△3六歩に▲2五桂と跳ぶしかありませんが、△2二銀と引いておけば次に△2四歩からの桂得が確実です。また3六に歩が残っているのも大きいです。実戦も桂得から馬を作った藤井竜王がペースを握りました。

■優劣不明に

ですが81手目▲5六桂から次の▲4四桂打が「つなぎ桂」の手筋で、中川八段も盛り返します。△4四同歩▲同桂が王手金取りで、△6二玉に▲3二桂成と金を取った局面は、中川陣のほうが安定しており形勢は優劣不明でしょう。

2二の銀取りにもなっており自陣には火がついていますが、藤井竜王はかまわず△3七歩成と踏み込みます。「終盤は駒の損得より速度」の格言に沿った進行です。

■マムシのと金が活躍

ここで中川八段は▲4九金と一度かわしますが、△4七と▲2二角成△5七とと、と金をにじり寄られたのが厳しい順でした。「マムシのと金」とはよくいったものです。以下▲4二銀△6七歩の進行は、後手の攻めが明らかに速くなっています。

▲4九金では▲4三金と攻めに打つ手が有力でした。対して金を取る△4八とは▲5三金△同玉▲6五飛と、守りの要の桂馬を取り切って狙われそうな飛車をさばける先手が指しやすくなります。

最後は即詰みに打ち取った藤井竜王が勝利。今期棋王戦の初陣を飾りました。次戦は久保利明九段とぶつかります。

相崎修司(将棋情報局)

今期棋王戦の初陣を飾った藤井竜王(写真は第93期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第3局のもの 提供:日本将棋連盟)
今期棋王戦の初陣を飾った藤井竜王(写真は第93期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第3局のもの 提供:日本将棋連盟)