先日のスーパーカーイベントで、筆者の目を釘付けにした1台を紹介しよう。「メルセデス・ベンツSLRマクラーレン」だ。近未来的な顔つきだが、地を這うような低いシルエット、長いボンネット、コンパクトなキャビンはまさに古典的なスポーツカーそのもの。蝶の羽のように上空に持ち上がる「バタフライドア」など特徴的な構造も備えている。

  • メルセデス・ベンツSLRマクラーレン

    メルセデスのエンブレムを付けたスーパーカー? 写真は「TOKYO SUPERCAR DAY」(東京・台場、5/14~5/15)で撮影

メルセデスとマクラーレンがコラボ?

このクルマはドイツが誇る高級車ブランド「メルセデス・ベンツ」と、F1などモータースポーツでの活躍で有名な「マクラーレン」のコラボレーションによって生まれたスーパースポーツだ。

マクラーレンF1チームは1995年シーズンからメルセデス製のエンジンを搭載しており、両社の関係は深かった。さらに、マクラーレンの市販車部門「マクラーレンカーズ」は、1998年までマクラーレン初のロードカー「マクラーレンF1」を生産していたが、すぐに継続モデルとなる新車はなく、スーパーカーの生産が可能な土台も整っていた。メルセデスサイドからは、高性能モデルを手掛ける「AMG」も開発に加わっていたとされる。

元ネタとなったのは、1955年に登場したメルセデスのレーシングカー「300SLR」。特徴的なバタフライドアは300SLRのクーペモデルに由来する。ちなみに名称のSLRは「スポーツ」「軽量」「レーシング」の頭文字だ。

メルセデス・ベンツSLRマクラーレンは2003年の「フランクフルトモーターショー」で世界初公開となり、その美しさと性能の高さで世界のセレブを魅了した。日本では2004年10月に発売。ベース車が5,775万円で、さらには全てがフルオーダーの受注生産という超高価な1台だった。

  • メルセデス・ベンツSLRマクラーレン

    2003年に世界初公開となった「メルセデス・ベンツSLRマクラーレン」

長いボンネットの下には、AMGが開発を手掛けた5.4LのV型8気筒OHCスーパーチャージャーエンジンを搭載。最高出力626ps/6,500rpm、最大トルク780Nm/3,250~5,000rpmの後輪駆動で、0-100km/h加速は3.8秒、最高速度は334km/hを誇った。トランスミッションは他社のスーパーカーがMT(マニュアルトランスミッション)やロボタイズドMTであったのに対し、メルセデス・ベンツSLRマクラーレンはステアリング操作に集中できて変速も滑らかな5速ATを採用。高出力な高級車を作り続けてきたメルセデスの、トランスミッション作りのノウハウによる賜物といえる。

バタフライドア以外にも、スーパーカーらしいユニークな機能として、120km/h以上になるとメカニカルなブレーキとの併用でリヤウィングを跳ね上げ、空気抵抗とダウンフォースを高めるエアブレーキ機能などを備えていた。

  • メルセデス・ベンツSLRマクラーレン

    120km/hを超えるとリヤウィングを跳ね上げるエアブレーキ機能を搭載

気になる中古車の状況は?

モデルのバリエーションは「クーペ」、オープンモデルの「ロードスター」、性能を強化した限定仕様「722エディション」(クーペ/ロードスター)などが存在する。モデル末期となる2009年には、原点となったレーシングカー「300SLR」のイメージを受け継ぎ、ルーフとフロントウィンドウを取り払って軽量化を図った「SLRスターリングモス」が台数限定で登場した。

気になる中古車の流通台数と価格だが、希少性もあってか大手中古車検索サイトに掲載されている台数はクーペとロードスターを合わせても10台に満たず、ほとんどが「価格応談(ASK)」となっている。1台だけ、ロードスターの限定車「722S」が価格を提示しているが、なんと1億6,000万円。走行距離は8,000kmと少ないものの、新車時の価格は7,300万円だったため、約2倍までプレミアがついている状態であった。ほかのモデルの価格も推して知るべしだ。

  • メルセデス・ベンツSLRマクラーレン

    エアアウトレットの上にマクラーレンのロゴが

世の中には希少なスーパーカーがほかにも存在するが、ドイツ製の少量生産で、しかも多くの人が活躍を知るビックネームのコラボモデルというのは珍しいし、両社のコラボに2度目はないだろう。それだけに、高い価値が付くのも納得といわざるを得ないのだ。

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    メルセデス・ベンツとマクラーレンのコラボ市販車はこれが最後?

メルセデス・ベンツSLRマクラーレンは発表から生産終了までわずか6年の短命に終わったが、コラボした両社はそれぞれ独自のスーパーカー生産を継続。メルセデスは2009年に「メルセデス・ベンツSLS AMG」を発表した。マクラーレンは2010年に市販車部門「マクラーレン・オートモーティブ」を設立し、2011年に「MP4-12C」を発表。現在もさまざまなスーパーカーを作り続けている。