渡辺明名人への挑戦権を争う第81期順位戦(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)は、7月8日にB級1組の対局が一斉に行われました。前節好スタートを切った羽生善治九段は2回戦で俊英・佐々木勇気七段と対戦、121手で羽生九段が勝利を収めました。
羽生九段は昨期A級から陥落し、他の棋戦でも振るわず心配されていましたが、今期に入り6連勝中と星を伸ばしており復調気配です。先後は事前に決まっており、羽生九段の先手です。
■羽生九段、佐々木七段の誘いに乗って馬を作る
羽生九段が相掛かりを指向し、互いの飛車が中段で活躍する空中戦の展開となりました。序盤のポイントとなったのが羽生九段が角交換を行い、▲8二角と敵陣深くに打ち込んだ局面。これにより9一にある香を取って馬を作ることができます。
しかしこれは佐々木七段からすれば承知の上、香は取らせても作った馬が働きづらく、そのスキに中央で戦いを起こしてしまえば先手の馬がぼやけるという狙いです。羽生九段が佐々木七段の誘いに堂々と乗った格好です。
■戦線は中央、しかし羽生九段の手が思わぬ場所に
局面は進み、佐々木七段は先手の飛車を圧迫しながら中央で押さえ込みの態勢を作りにいきます。桂取りに△4四歩と突き出して、先手の攻めを催促しました。
先手の攻め駒の要である4五の桂が生きているうちにどうやって右辺の攻めを継続するかが羽生九段の腕の見せ所と思われたところでしたが、ここで羽生九段の手が思わぬ場所に伸びます。
▲9二馬。羽生九段はここで、僻地にいた馬をじっと活用させました。4筋方面が忙しく見える局面なだけに思いつきづらく、羽生九段らしい視野の広さと柔軟な発想が光る一着でした。
以下、4五の桂は取られてしまいましたが、その間に8筋をこじ開けて、隅で隠居していた馬を7四に引き付けることに成功。敵玉を睨む急所の駒に大昇格を果たしました。作らせた馬を働かせないようにするという佐々木七段の序盤構想を打ち砕いたことになります。
以下もこの馬は縦横無尽に大活躍し、着実に優位を広げた羽生九段が手堅くまとめ、121手で佐々木七段の投了となりました。
なお、同日行われた順位戦B級1組のその他の対局結果は下記のとおりです。
近藤誠也七段 ●-○ 山崎隆之八段
横山泰明七段 ●-○ 千田翔太七段
久保利明九段 ○-● 屋敷伸之九段
中村太地七段 ○-● 丸山忠久九段
三浦弘行九段 ○-● 郷田真隆九段
(左が先手)
大石祐輝(将棋情報局)