この記事では「覆水盆に返らず」の意味や由来をわかりやすく解説します。例文とともに具体的な使い方や、類語、対義語、英語表現についても紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。

  • 「覆水盆に返らず」の意味や由来、使い方などを解説します

    「覆水盆に返らず」の意味や由来、使い方などを解説します

「覆水盆に返らず」の意味や読み方とは

まずは「覆水盆に返らず」の意味や読み方について簡単に解説します。

「覆水盆に返らず」の意味は取り返しがつかないことの例え

「覆水盆に返らず」は、「取り返しがつかないこと」の例えとしてよく使われます。

このことわざにおける「盆」とは、平たい鉢形の容器のことです。「覆水」は前述したように容器からこぼれた水のことをいいます。容器からこぼれてしまった水を再び盆に戻すことはできません。こぼれた水を盆に戻すことができないのと同じように、どうやっても前の状態に戻せないものについて「覆水盆に返らず」といいます。

「覆水盆に返らず」の読み方は「ふくすいぼんにかえらず」

「覆水盆に返らず」は「ふくすいぼんにかえらず」と読みます。

「覆水」は「ふくすい」と読み、容器からこぼれた水のことです。ただし、「覆水盆に返らず」というフレーズ以外で単独で使われることはあまりないかもしれません。

「覆水盆に帰らず」は誤り

なお、音だけを聞いて漢字変換すると「覆水盆に帰らず」と書いてしまう人がいますが、これは誤りです。

  • 「覆水盆に返らず」は、元に戻らない状態をいいます

    「覆水盆に返らず」は、元に戻らない状態をいいます

「覆水盆に返らず」の由来

「覆水盆に返らず」には、由来となった故事があります。

「覆水盆に返らず」はもともと人間関係についてのことわざ

前述したように「覆水盆に返らず」は「取り返しのつかないこと」を意味しますが、本来は「復縁できない夫婦関係」を意味していました。

現代ではもっと広い意味で「一度してしまったら元には戻れないもの」の例えとして使われています。

「覆水盆に返らず」は中国・太公望夫婦の復縁にまつわる故事が由来

「覆水盆に返らず」の由来となっているのは、中国の故事です。

周の呂尚(りょしょう/別名・太公望)は貧しく、読書にふけってばかりいたため、妻が愛想をつかして家を出て行ってしまいます。しかし後に彼が出世すると、元妻は復縁を求めて再び戻ってきました。そこで呂尚は盆から水をこぼし、「この水を元通り盆に戻せるなら要求に応じよう」と答えたそうです。

この故事から、一度離縁してしまった夫婦の仲は元に戻せないこと、一度してしまったことは取り返しがつかないことをいうようになったとされています。

  • 「覆水盆に返らず」の由来は「復縁できない男女」を表す故事です

    「覆水盆に返らず」の由来は「復縁できない男女」を表す故事です

「覆水盆に返らず」の使い方と例文

「覆水盆に返らず」の使い方がわかる例文をご紹介します。実際の会話の中で使うときに意識してみてください。

「覆水盆に返らずというように、2人の関係は決して元には戻らないでしょう」

元通りにならない2人の関係を「覆水盆に返らず」の故事のようである、と表現する一文です。「覆水盆に返らず」だけでも関係が元通りにならないことを意味しますが、「2人の関係は決して元には戻らない」ことの比喩表現として「覆水盆に返らず」を活用している例文といえるでしょう。

「覆水盆に返らずといえど、可能ならやり直したい」

「一度離れてしまった関係は元に戻らない」ことを「覆水盆に返らず」で言い換えた例文です。「覆水盆に返らず」を使わずに「一度離れてしまった関係は元に戻らないといえど、可能ならやり直したい」と言い換えても意味が通じます。

「今になって悔やんでも、やってしまったことは覆水盆に返らずだから仕方ない」

取り返しがつかなくなったことを「覆水盆に返らず」と表現した一文です。「取り返しがつかない」だとやや直接的なニュアンスなので、「覆水盆に返らず」という表現で和らげているともいえるでしょう。

「失敗して初めて、覆水盆に返らずの意味を身をもって知ることになりました」

失敗したことでやり直しがきかない状況に陥り、世の中にはやり直しできないこともあると知った、という意味の一文です。「覆水盆に返らず」を使うことで、文章を短く簡潔にまとめられています。

  • 「覆水盆に返らず」はどうやっても取り戻せない時間や後悔を表現したいときに使えます

    「覆水盆に返らず」はどうやっても取り戻せない時間や後悔を表現したいときに使えます

「覆水盆に返らず」の類語・言い換え表現

「覆水盆に返らず」の類語表現をご紹介します。同じ意味でもより簡単な表現や、文脈に合わせた表現に言い換えられるようにしておくといいでしょう。

取り返しがつかない

「覆水盆に返らず」は「取り返しがつかない」状態を意味するので、そのまま類語としても使えます。「覆水盆に返らず」より状況をダイレクトに表現した言葉といえるでしょう。

後の祭り(あとのまつり)

シンプルに「祭りの翌日」を意味する言葉ですが、「祭りの後の山車(だし)のように、後から出しても意味がないこと」という意味もあります。つまり「タイミングが遅くて無駄であること」「手遅れ」となります。

臍を噛む(ほぞをかむ)

「臍(ほぞ)」は、へそのことです。自分のへそを噛もうと思っても到底及ばないことから、転じて「既にどうにもならないことを後悔すること」を意味します。

後悔先に立たず

「後悔先に立たず」は、「してしまったことを後から悔やんでもどうにもならない」という意味です。大変なことになる前によく考えて動きなさい、という戒めの言葉です。

破鏡再び照らさず(はきょうふたたびてらさず)

「破損した鏡は再び照らすことはない、つまり割れた鏡は元に戻らない」ことを意味しています。

「覆水盆に返らず」と同様に、夫婦の離縁など、一度壊れた関係は元通りにはできないという例えです。

もともとは「落花枝に帰らず(らっかえだにかえらず)、破鏡再び照らさず」といいます。

「覆水盆に返らず」の対義語

「覆水盆に返らず」の対義語で代表的なものをご紹介します。

「一度離れた関係であってもまた元に戻る」というニュアンスの言葉です。

元の鞘に収まる(もとのさやにおさまる)

使うときには鞘から出した刀も、最終的には鞘に収める必要があることから、「絶交や離縁など、一度離れてしまった関係が元に戻る」ことを意味しています。

省略して「元サヤ」ともいわれますね。

焼け木杭(やけぼっくい)に火が付く

一度焼けた木の棒(木杭)は火が付きやすくなります。同じように過去に一度あった関係は元に戻りやすい、という意味です。主に男女関係についていいます。

なお「焼けぼっくり」と覚えている人もいるようですが、「焼け木杭(ぼっくい)」が正しいです。 また、「焼け木杭には火が付き易い(やすい)」ともいいます。

縒りを戻す(よりをもどす)

「縒りを戻す」は、「よりを戻す」「ヨリを戻す」と表記されることが多いですが、漢字を見るとわかるように、「縒り合わせたものをほどいて元に戻す」が語源となっています。「物事を元の状態に戻す」、特に「男女の仲を元に戻す」ことについて使われることが多いです。

  • 「覆水盆に返らず」のように後悔してもままならないことは多々あります

    「覆水盆に返らず」のように後悔してもままならないことは多々あります

「覆水盆に返らず」の英語表現

「覆水盆に返らず」の英語表現をご紹介します。直訳すると「覆水盆に返らず」と似たような比喩であるフレーズや、英語圏独特の単語が使われているので、興味深いものです。

It is no use crying over spilt milk.

直訳すると「こぼれたミルクを見て泣いても無駄だ」となります。

「覆水盆に返らず」とほとんど同じ比喩表現ですが、水がミルクで置き換えられていますね。

What's done is done.

「覆水盆に返らず」の意味を直接言葉にした表現です。

直訳すると「済んだことは済んだこと」「やってしまったことは取り返しがつかない」といった意味になります。

同じような表現で「What is done cannot be undone.」という表現もあります。「What is done(起こったこと)」「cannot be undone(起こっていないことにはできない)」というフレーズの組み合わせで、「取り返しがつかない」「元には戻せない」を意味しています。

  • 英語だと「覆水盆に返らず」の水はミルクになります

    英語だと「覆水盆に返らず」の水はミルクになります

「覆水盆に返らず」とは、一度壊れたら二度と元に戻らないことを表す故事成語

「覆水盆に返らず」の意味や使い方についてまとめました。「覆水盆に返らず」は太公望の故事が由来とされ、「男女の関係は壊れたら戻らない」、転じて「取り返しがつかないこと」という意味があります。

情景を思い浮かべやすく、意味が伝わりやすい表現ですね。

取り返しのつかないことをして「覆水盆に返らず」の事態に陥らないよう、行動や言動には十分注意したいものです。