2つ目の宇宙に縮小生態系を移転するためのコンセプト「コアバイオーム」は、人類が月・火星への移住するのを現実とするための、生存基盤の拠り所である「自然資本」をどう移設するか、という話である。
これまでの宇宙移住計画は、人類が移住するための生存基盤である「空気」「水」「食料」「エネルギー」の確保のみに重点が置かれてきた。しかし、地球においてこれら生存基盤の拠り所である「自然資本」の移転にまでは考えが至っていなかった。実際に地球外での生活を考えたとき、その天体環境にどのような形で自然資本を存在させ、衣食住を可能にし、宇宙社会を実現するかについて、現実的な数字を踏まえた計画を検討立案する必要があるとする。
今回は、人類が21世紀後半に月や火星への移住を現実のものとするという未来が想定され、要素を抽出した地球生態系システムを「コアバイオーム複合体」と定義された。そして、まずは移住に必要な最低限のバイオーム「選定コアバイオーム」を特定するという。
それと同時に、それに必要な核心技術(コアテクノロジー)と社会基盤「コアソサエティ」の統合から、ほかの天体(移転環境)への宇宙移住の基幹学問体系として確立すること、またこの学問体系を地球環境保全や人間社会の組織形成などへフィードバックすることも目指しているとした。
今回のプロジェクトにおいては、人工重力居住施設ルナグラス・マーズグラス内において、ミニコアバイオームを確立させることを1つの目標として計画を実施するという。テラフォーミングというと、惑星を丸ごと変化させ、人類が宇宙服なしで、なおかつ宇宙放射線などの心配もなく生活できるような環境にすることをいうが、これらの人工重力居住施設内にそうした地球環境を再現することが目指されているとした。
そして3つ目の惑星間を移動する人工重力交通システム「ヘキサトラック」は、月・火星での生活が現実となり、それぞれのコロニーが経済活動を行い、多くの人々がビジネスや観光で惑星間を移動するようになる未来宇宙社会(コアソサエティ)で重要になる惑星間軌道交通システムだ。
地球-月圏~火星の移動は、現在の推進システムでは、最短でも半年もの長期間に及ぶ。その間に微小重力による健康影響を最小限とするため、ルナグラスやマーズグラスの人工重力居住施設と同様に、回転することで遠心力による疑似1Gを作り出すという仕組みだ。
ヘキサトラックの宇宙船自体は「ヘキサカプセル」と呼ばれ、六角形の形状を持つカプセル(コンテナ)となっており、中心軸部分にロケットエンジンが準備されている。地球-月の移動に利用する半径15mの小型「ミニカプセル」と、地球-火星もしくは月-火星の移動に利用する半径30mを有する「ラージカプセル」の2種類が考えられている。
なお、地球、月、火星それぞれの間の移動は、直接行き来するわけではなく、それぞれの周回軌道に拠点駅として、テラ(ISSの後継ステーションを想定)、ルナ(月周回有人拠点ルナゲートウェイを想定)、マーズ(衛星フォボス上に建設を計画)の3ステーションの設置が考えられている。テラ~マーズ間と、ルナ~マーズ間はラージカプセルで、テラ~ルナ間はミニカプセルでの移動となる。
そして、1つのルナグラスやマーズグラス内の上下方向や水平方向の移動を担う都市鉄道と、複数のルナグラス同士の間やマーズグラス同士の間をつなぐ都市間鉄道の役割を担うのが、「スペースエクスプレス」だ。
このスペースエクスプレスは、月面や火星面とそれぞれの拠点駅との間の移動手段も兼ねる。さらに、拠点駅では1両ずつ切り離され、ラージカプセルまたはミニカプセルの6つのカプセルに収用される。利用者は月面や火星面から乗り換える必要なしに、惑星間も移動できるというわけだ。
ちなみに、月と火星からそれぞれの拠点駅へ向かってスペースエクスプレスを宇宙空間へと射出するのが、レールガン技術(リニアモーターカタパルトなどでの加速技術)だ。ただし、レールガン技術だけで脱出速度まで加速させると利用者への身体的な負荷が大きいため、スペースエクスプレスの前後にロケットエンジンを備えた車両を増設し、利用者が不快にならない程度の加速度で打ち出し、あとは継続加速により月や火星の重力圏を脱出する仕組みだ。
研究チームでは、今回の研究によって、低重力の問題点を含む宇宙生活の課題とその解決方法を広く世間に知ってもらうと共に、地球環境の重要さの再認識を呼び起こすことで、地球外宇宙をも包含した持続可能な社会の構築に寄与できると考えているとしている。また、今後は、具体的な人工重力施設が装置としてどのようにあるべきか、生態系をどこまで再現するべきか、人文的、法的、制度的にどのようなものが必要であるかを検討していく予定としている。