そこで研究チームは、血液の代わりに、抗体などのさまざまなバイオマーカーを含む皮下の「細胞間質液」に着目。細胞間質液に存在する抗SARS-CoV-2 IgMおよびIgG抗体により、抗体検出が行えることを示すことに成功したとする。

また、生分解性のポリマーの一種であるポリ乳酸(PLA)を使用した多孔質マイクロニードルと、金コロイドナノ粒子を用いたイムノクロマトバイオセンサを組み合わせたパッチ型抗体検出デバイスも開発することに成功したという。

  • PMNIA

    (左・a)貼るだけで、皮下の細胞間質液中のIgMおよびIgGを検出するPMNIA。(左・b)PMNIAの拡大図。(右・a)新開発のエマルジョンを用いた方法で作製された生分解性多孔質マイクロニードル。毛細管現象による吸収能が最も高くなるように熱処理温度が最適化されている(180℃)。(b)熱処理後のマイクロニードル表面および断面のSEM像。(c1~3)動物実験により、多孔質マイクロニードルによる細胞間質液の採取性能が確認された。また、マイクロニードルを除去後、速やかに皮膚が元の状態に回復したことも確認された。スケールバー:5mm (出所:東大生研Webサイト)

検出デバイスの仕組みは、多孔質マイクロニードルが皮膚に刺さると毛細管現象により連続した微細孔を通して細胞間質液が採取され、センサに運ばれた後、サンプルパッドに吸収され、上部に位置するコンジュゲートパッドに垂直方向に移動。細胞間質液中にIgMおよびIgGが存在する場合、コンジュゲートパッド上のSARS-CoV-2スパイクタンパク質受容体結合ドメイン標識金コロイドナノ粒子に結合し、抗原-抗体結合体となり、ニトロセルロースメンブレンを通過する間に、IgM結合体はIgMラインに配置された抗ヒトIgM抗体によって捕捉され、IgG結合体はIgGラインに配置された抗ヒトIgG抗体によって捕捉されることとなる。それぞれの抗体が捕捉されると色のついた線で表示され、目視で読み取り、感染の有無を把握することができるようになっているという。

動物実験では、ラットの皮膚から細胞間質液を迅速に抽出できたこと、ならびにマイクロニードルを除去すると速やかに皮膚が元の状態に回復したことが確認されたとする。また、マイクロニードルとイムノクロマトアッセイを組み合わせた実験により、採取された細胞間質液がセンサに導入され、特異抗体を目視判定できることも確かめられたとするほか、IgMおよびIgGが試験管内で3分以内に同時に検出され、検出限界はそれぞれ3および7ng/mLであることが確認されたとする。

  • PMNIAの原理を示す模式図

    (a)PMNIAの原理を示す模式図。(b)PMNIAによる検出結果の表示方法 (出所:東大生研Webサイト)

なお、PMNIAは既存の検査キットに比べて小型であり、大量に使用する際に有利であると研究チームでは説明するほか、低侵襲かつシンプルであり、新型コロナ以外のさまざまな感染症の迅速なスクリーニングにも応用できる可能性を持つとしており、医療資源の乏しい国や地域で、ほかの診断検査の有効な補完手段として広く利用されることが期待できるとする。

また、今回の多孔質マイクロニードルの作製方法そのものについても、将来的にさまざまな感染症の生体モニタリングを可能にするセンサパッチを開発するにあたり、有効な要素技術となることも期待されるとしている。