令和2年簡易生命表によると、男性の平均寿命は 81.64 歳、女性の平均寿命は 87.74 歳となっており、女性は男性より6年ほど長生きする傾向があることはわかります。そう考えると、夫亡き後に妻が遺族厚生年金を受給できるケースは多いといえるでしょう。
そこで、遺族厚生年金の受給額や受給要件、さらに、意外と知られていない老齢厚生年金と遺族厚生年金の関係などをわかりやすくお伝えします。
■遺族年金の種類
国民年金および厚生年金の被保険者が死亡したときに、その被保険者と生計維持関係にあった遺族に支給されるのが「遺族年金」です。遺族年金には「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」があります。
「遺族基礎年金」は国民年金の被保険者が亡くなった場合に、子のある配偶者または子のどちらかに支給される年金です。
「遺族厚生年金」は厚生年金の被保険者が亡くなった場合に、条件を満たした一定の遺族に支給される年金です。「遺族基礎年金」に上乗せして支給される場合と、「遺族厚生年金」が単独で支給される場合があります。
■遺族厚生年金の受給要件
遺族厚生年金を受給するためには、次の要件のいずれかを満たす必要があります。
1.老齢厚生年金の受給資格期間(25年以上)を満たした者が死亡したとき
2.厚生年金の被保険者が死亡したとき※
3.厚生年金の被保険者期間に初診日がある病気やけがが原因で、初診日から5年以内に死亡したとき※
4.1級・2級の障害厚生年金の受給者が死亡したとき
※ 2と3については、死亡日の前日において、保険料納付済期間が加入期間の3分の2以上あることが必要です。ただし、死亡した人が65歳未満であれば、直近1年間に保険料の未納がなければよいことになっています。
年金受給者である夫が亡くなり、その妻が受け取るケースでは、夫が厚生年金に25年以上加入していないと遺族厚生年金は受給できないことになります。
■遺族厚生年金の遺族の要件
生計維持関係にあった遺族の中で、最も優先順位の高い人が受給できます。
第1順位:配偶者(夫の場合は55歳以上)、子(18歳到達年度の末日まで、障害等級1級または2級の者は20歳未満)
※条件にあてはまる配偶者と子が同時にいる場合は配偶者が優先される。
第2順位:父母(55歳以上)
第3順位:孫(18歳到達年度の末日まで、障害等級1級または2級の者は20歳未満)
第4順位:祖父母(55歳以上)
配偶者が30歳未満の子のない妻の場合は、受給期間は5年間となります。
受給者が55歳以上の夫、父母、祖父母の場合は、60歳から受給開始となります。ただし、夫の場合は遺族基礎年金を受給中であれば遺族厚生年金をあわせて受給できます。(60歳より前から受給可能)
■遺族厚生年金の受給額
死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額となります。
※最低保障として、被保険者期間が300月(25年)に満たない場合は、300月とみなして計算します。
たとえば、老齢厚生年金の報酬比例部分が160万円(年額)であれば、その4分の3である120万円を受給することができます。
■「中高齢寡婦加算」と「経過的寡婦加算」
厚生年金保険の加入期間が20年以上ある夫の死亡によって、妻に支給される遺族厚生年金には、次の二つの加算があります。
*中高齢寡婦加算
次のいずれかに該当する妻が受給する遺族厚生年金には、40歳から65歳になるまでの間、58万3400円(年額)が加算されます。
1.夫が亡くなったとき、40歳以上65歳未満で、生計を同じくしている子(※1)がいない妻。
2.遺族厚生年金と遺族基礎年金を受けていた子のある妻(※2)が、子が18歳到達年度の末日に達した(障害の状態にある場合は20歳に達した)等のため、遺族基礎年金を受給できなくなったとき
※1 18歳到達年度の末日を経過していない子、または20歳未満で障害等級1級または2級の状態にある子
※2 40歳に到達した当時、子がいるため遺族基礎年金を受けている妻。
*経過的寡婦加算
中高齢寡婦加算は妻が65歳になると加算されなくなります。そこで年金水準を維持するために、昭和31年4月1日以前に生まれた妻には、中高齢寡婦加算に代えて、経過的寡婦加算が遺族厚生年金に加算されます。
中高齢寡婦加算は遺族基礎年金の代わり、経過的寡婦加算は中高齢寡婦加算の代わりに支給されるものと考えるとわかりやすいと思います。
■「遺族厚生年金」と「老齢厚生年金」の両方を受給できる場合
遺族厚生年金を受給している人が65歳になって自分の老齢厚生年金を受給できるようになると、二つの厚生年金の受給権が発生してしまいます。この場合、自分の老齢厚生年金を受給することが優先され、遺族厚生年金が老齢厚生年金の額を上回る場合は、その差額が遺族厚生年金として支給されます。
なお、配偶者の死亡により65歳以上の人が受け取る遺族厚生年金は、「死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額」と「死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の額の2分の1の額と自身の老齢厚生年金の額の2分の1の額を合算した額」を比較して、高い方の額が遺族厚生年金の額となります。
少しわかりにくいと思いますので、具体的な例をあげて説明します。
<例>
夫(死亡):老齢厚生年金の報酬比例部分120万円
妻(受給者):老齢基礎年金70万円、老齢厚生年金18万円
まずは、この妻が受け取る遺族厚生年金の額を出します。配偶者の死亡による受給なので、下記の二つを比較します。
「死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額」
120万円×3/4=90万円「死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の額の2分の1の額と自身の老齢厚生年金の額の2分の1の額を合算した額」
120万円×1/2=60万円
18万円×1/2=9万円
60万円+9万円=69万円
高い方の金額が遺族厚生年金の額となるので90万円になります。
次に、遺族厚生年金と妻に支給される自身の老齢厚生年金の関係を見ていきましょう。二つの厚生年金がある場合は、自身の老齢厚生年金が優先されるので、遺族厚生年金のうち、自身の老齢厚生年金を引いた金額が実際に支給される遺族厚生年金の額となります。
90万円-18万円=72万円(遺族厚生年金)
■まとめ
遺族厚生年金は、遺族基礎年金に比べて、子があることが要件になっていないため、受給できる可能性が高い年金です。特に、晩年夫に先立たれた妻が受給するケースは多いでしょう。
厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況(令和2年度)」をもとに、厚生年金の報酬比例部分の平均月額を出すと約8万円なので、平均値をもとに仮定してみると、その4分の3である6万円が遺族厚生年金として受給できることになります。夫の年金をあてにして生活していた場合は、遺族厚生年金によって急激な年金減少とはならずに済むわけです。
遺族厚生年金を受給するためには、請求の手続きが必要です。お近くの年金事務所や街角の年金相談センターに相談してみましょう。