特にビジネスシーンにおいて、契約を取り交わすときによく見聞きするのは「契約書」ですが、「覚書」も多用される文書です。上司や取引先から、覚書を準備するよう指示されたことがある人もいるかもしれません。
この記事では、「覚書」の言葉の意味や基礎知識はもちろん、契約書や念書との違い、法的効力や収入印紙について、また具体的な書き方まで、詳しく説明します。
覚書の書き方
前述の通り、覚書は契約書と同等の効力を持ち、ビジネスシーンにおいても重要な意味を持つ書類です。ここからは実際に覚書を作成するにあたっての必須事項や具体例をご紹介します。
** 必須事項** 覚書の書式については決まったフォーマットなどはありません。基本的に、当事者双方の意思表示が合致していることが明記されていれば、たとえ手書きや独自の書き方であっても覚書として機能するとされています。
ただ双方の意思表示が合致しているとするためには、一般的に下記を盛り込む必要があります。
- 当事者双方が同意・確認・承認したということを明記
- 当事者双方が同意し承認した事項(合意内容)の詳細
- 当事者双方が覚書に合意した日付
- 当事者双方の署名捺印
その他にも必要に応じて管理番号などが付けられることもあります。
さて覚書には決まったフォーマットがないと前述しましたが、ここからは構成について、一般的な具体例を細かく見ていきましょう。
表題
まずは表題、つまり本書類のタイトルを記載します。 前述のように、表題による法的効力の違いは無いとされていますが、表題と内容があまりにかけ離れていたり、表題が分かりづらかったりするとトラブルのもととなります。「〇〇に関する覚書」など、なるべく簡潔で分かりやすい表題を付けるようにしましょう。
前文
当事者は誰なのか、この覚書によって何を定めるのかを前文として記載するのが一般的です。 例えば下記のように記載します。
委託者である○○(以下「甲」という)と、受託者である××(以下「乙」という)は、△△に関して以下の通り●●契約を締結する。
なお、先に契約書がある場合は、どちらが甲で、どちらが乙なのかをそろえると混乱を防げるでしょう。
本文:合意した場合
本文には、当事者双方が合意した内容について、詳細を記します。
記載例は以下の通りです。
- 甲、および乙は、□□することについて同意する
- 甲は乙に対して◎◎をしてはならない
- 甲は(日付)までに▲▲をするものとする
既存の契約書の内容を変更する覚書の場合は、契約書のどの部分をどう変更するのかを明記しましょう。
後文
覚書は同じものを2通作成して、当事者それぞれが1通ずつ所持するのが基本ルールです。その旨を後文に明記します。そうすることにより、覚書が何通あるのか、誰が所有しているのかが明らかになります。
下記は記載例です。
以上合意の証として、本書を2通作成し、甲乙両者の署名捺印の上、各自1通ずつ保有するものとする。
日付・署名捺印
末尾に日付の記載と、双方の署名捺印をします。署名捺印をすることで、覚書の内容が成立したとみなされます。
日付は基本的に、署名捺印をした日、つまり締結日を記載します。その日から法的効力が発生することになります。ただし、実際の契約が署名捺印をした日より後に始まる場合などは、覚書の締結日とは別途、有効期間を記入します。
覚書のテンプレートやひな形を使う方法も
勤めている会社などで指定のフォーマットが特に無ければ、インターネット上でダウンロードできるテンプレートを利用するのも一つの手です。
そうすれば、覚書を一から作るよりも、内容の精査に時間をかけられるでしょう。
覚書を作るときの注意点
最後に覚書を作る際の注意点についてご紹介します。
覚書を変更したい場合
覚書の内容を変更することは可能ですが、変更点の大小にかかわらず、自分だけで勝手に変更することはできません。覚書を変更する際は、その覚書を作成したときと同様に、「覚書を変更する覚書」を作成しましょう。
元の覚書は当事者双方が保有しているので、その内容を再度詳しく記載する必要はなく、変更する箇所と、変更後の内容のみを簡潔に記載すれば大丈夫です。新しい覚書には、当事者双方が変更内容に合意していると分かる一文を添えておくといいでしょう。
覚書の内容によっては裁判で認められない場合も
前述の通り、覚書は基本的には契約書と同等の法的を持っています。ただし、記載内容が抽象的であったり、内容が不十分だったりする場合は、法的効力を否定される可能性もあると覚えておきましょう。実際に過去、覚書の法的効力を否定した判例もあります。
不明点がある場合は、弁護士や司法書士などに相談を
繰り返しになりますが、覚書は契約書と同様に、内容によって大きな法的効力を持つ書類です。覚書によって権利が発生することもあれば、当然逆に義務が発生することもあるのです。また、その内容が有効だと思っていたのに、不備などのために無効になることもあり得るのは前述の通りです。
覚書の作成時に迷ったり、相手から提示された覚書に対し不安な点があったりした場合は、思わぬ不利益を防ぐためにも、弁護士や司法書士などに相談しましょう。
覚書とは?
ビジネスシーンにおいて、企業間ではもちろんのこと、企業と個人、または個人同士で、覚書をはじめとした書類を取り交わすというケースは少なくありません。特に近年では働き方が多様化したこともあり、フリーランスとして個人で書類を作成して取り交わす機会も増えているようです。
覚書とは本来、忘れてはならないことを書き留めておくメモ、備忘録などのことを指す言葉です。日常会話で覚書という言葉を使う場合、主に備忘録的な意味で使われます。
一方でビジネスシーンでは、双方が合意した契約の内容を記録した文書のことを指し、契約書の一種といえます。
詳しくは後述しますが、契約書とは名前は異なっているものの、法的な効力なども契約書と同様であり、ビジネスシーンにおいて非常に重要な意味を持つ書類です。作成時や署名捺印時には、慎重に内容を確認し、吟味する必要があります。
覚書の目的
覚書の作成にはさまざまな目的がありますが、もっとも一般的なのは、締結した基本契約に基づいて、より具体的な取引内容を定めたり、有効期限の延長、双方合意の上での契約内容の変更、条件の追加などを行ったりするために作成されます。
覚書のメリット
覚書を使うことによって基本契約をベースとしたまま新たな条件の追加や変更などを行うことができるので、契約書を一から作り直す手間を省けるというメリットがあります。
ビジネスシーンではさまざまな書類が取り交わされることもあって、それぞれの違いがわからなくなったり、混同してしまったりするケースも少なくありません。
ここでは特に覚書と混同されがちな契約書や念書との違いについて詳しくご紹介します。
覚書と契約書の違い
契約とは民法522条で定められた、契約者双方の意思表示が合致することで成立し、契約書はそのことを証明する書類を指します。
実はそもそも、契約そのものは双方の意思表示が一致するだけでも成立します。例えば、私たちが普段コンビニなどで行う買い物も売買契約という契約です。お店側の「××を○○円で売りたい」と、お客側の「××を○○○円で買いたい」という意思表示が合致しているため、売買契約が成立したといえるのです。
(契約の成立と方式)
第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
引用:民法522条
このように契約は双方の意思表示の合致さえあれば成立し、書面の作成が必須であるわけではありません。しかし、企業間における売買契約や、個人であっても条件が複雑であったり、長期間にわたって契約が持続したりする場合は、当事者同士が契約の内容を明確にするために契約書を作成し、取り交わします。 また、契約書には契約後のトラブルを避ける、またはトラブルが発生した際の速やかな解決に役立てるという目的もあります。
そういった意味で、覚書は契約書の一種といえますが、契約全体を包括する契約書よりも、覚書の方がより簡潔であり、部分的であることが多いのです。
覚書と念書の違い
覚書や契約書が双方の意思表示の合意を証明する書類であるのに対して、念書はどちらか一方が約束などの内容を記載し、差し入れる文書のことを指します。
基本的に念書には契約書や覚書のような強い効力はありません。しかし、トラブルになってしまった場合、念書が証拠として機能するケースもあるため、まったく無意味なものというわけでもないのです。
法的効力(法的拘束力)についての表題による違い
覚書は契約書と同様に双方の意思表示の合致を証明する書類であるため、法的な効力を持ちます。覚書に記載されている事項は成立した契約となるため、当事者双方が守る必要があるのです。もちろん、トラブルなどが発生した際には覚書に記載されている事項を基に解決できます。
なお、表題、つまり書類のタイトルによる法的効力の差は基本的には無いとされています。例えば「○○の秘密保持契約に関する覚書」でも、単に「覚書」という表題、あるいは「契約書」などでも、その効力は変わりません。書類の法的な効力は、あくまでも記載されている内容によって判断されます。
覚書、契約書、念書の使い分けのまとめ
ここまで記載したことを一覧にまとめます。
書類 | 内容 | 法的効力 |
---|---|---|
契約書 | 当事者双方の合意を証明する書類であり、主に契約全体についての内容に関する取り決めを記載 | 基本的に法的効力があり、トラブル時の解決や契約不履行の抑制に役立つ |
覚書 | 当事者双方の合意を証明する書類であり、主に契約書内容の変更時や、契約書の補佐的役割として使用 | 基本的に法的効力があり、トラブル時の解決や契約不履行の抑制に役立つ |
念書 | 当事者の一方が約束などの内容を記し、差し入れる文書 | 法的効力は弱いが、トラブルの際に証拠として提出することができる |
覚書に収入印紙は必要?
収入印紙とは、印紙税などの税金を徴収するために国が発行する証票のことです。この印紙を課税文書に貼付すると、印紙税を支払い済みの書類だと証明することができます。ここからは覚書の収入印紙について詳しくご紹介します。
課税文書になる場合は収入印紙が必要
覚書についても、損得に関係する覚書など、覚書の内容が印紙税を納めなければならない課税文書と判断されるものである場合は、収入印紙が必要です。こちらも表題ではなく、あくまで覚書の内容で判断されます。
収入印紙の金額は、収入印紙を貼付する覚書の内容の種類に応じて異なります。種類は第1号~第20号まであります。
作成した覚書が課税文書にあたるかどうかや、その金額については、国税庁の「印紙税額の一覧表(その1)」、「印紙税額の一覧表(その2)」を確認しましょう。
収入印紙を忘れると過怠税が発生する
なお、もしも課税文書である覚書に収入印紙を貼付し忘れてしまった場合は、基本的に当初の印紙税額と、その額の2倍の金額の合計額、つまり当初の印紙税額の3倍に相当する過怠税が発生します。
また収入印紙そのものは貼付してあるが消印を忘れてしまった、という場合にも、同様に過怠税が発生しますので注意しましょう。
覚書の意味を正しく知ってビジネスシーンで使いこなそう
覚書は契約書とは呼び方こそ異なりますが、同等の法的効力を持つ正式な書類です。
覚書の意味をよく知らずに、不用意に作成したり署名捺印したりしてしまうと、思わぬトラブルが発生する可能性があります。一方、口約束で済ませずに、しっかりと覚書の意味や書き方を理解した上で覚書を作成し締結することで、自らを守ってくれる存在にもなり得ます。
覚書について正しい知識を身に付け、使いこなしましょう。