藤井聡太棋聖へ永瀬拓矢王座が挑戦する、第93期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負(主催:産経新聞社、日本将棋連盟)の第3局が7月4日(月)に千葉県木更津市の「龍宮城スパホテル三日月」で行われました。結果は145手で藤井棋聖が勝利し、五番勝負の成績を2勝1敗として、防衛まであと1勝に迫りました。
本局は藤井棋聖の先手番から角換わりに。第1局での千日手指し直しの2局目と同様の進行となりました。44手目の△4四銀で、指し直し局とは違う進行となりましたが、まだまだ前例はある形です。56手目に永瀬王座が△8六歩と玉頭を突っかけたのに対し、▲同歩と取ったことで前例が無くなりました。
■どこまで網羅しているのか
すでにあちこちで駒がぶつかり合い、どこで火が点いてもおかしくない状況ですが、前例から離れてもしばらく、ハイペースな両者の指し手が続きます。どこまで網羅しているのか、トッププロの研究の深さがうかがえます。
藤井棋聖が73手目に▲2二歩を打った局面で、両者の消費時間はいずれも30分を超えていません。藤井棋聖は局後のインタビューで▲2二歩までは用意があったと話しています。ここで永瀬王座が大長考に入りました。
この歩は桂取りに歩を打ち捨て、△2二同金と取れば形を乱すことができるという手筋の一着。しかしここでは△同金と取る以外にも、手抜きで攻め合う手がいろいろと見えるので、相手からのさまざまな攻め筋を受け止める覚悟がないと指せない手です。
永瀬王座は84分の長考で△3三桂と桂を逃げました。この手は攻め合いではなく、先手の攻めを受け止めようとする手です。こう進めば藤井棋聖の攻め、永瀬王座の受けという構図になります。
■いったん攻めを緩めたのが好判断
しばらく藤井棋聖の攻勢が続き、一直線に攻め合っても戦えそうに見えるところ、藤井棋聖は▲6二銀打ち~▲7三銀不成と、後手陣を攻めながら自玉の上部を押さえている後手の攻め駒を刈り取りに行きました。後手玉を手順に逃がすようで指しにくい手ですが、これが冷静な判断でした。
以下永瀬王座が反撃に出ますが、藤井棋聖は手順に玉を上部に脱出させて安全を確保しました。気がつけば先ほど相手の攻め駒を刈り取った7三の銀が上部を守る駒として輝いています。最後は永瀬玉を即詰みに打ち取り、タイトル防衛に王手をかけました。
本局は藤井棋聖の序盤研究の深さにまず目が行くところですが、そのあとのまとめ方にひときわ強さを感じられます。リードした局面から勝ちに持っていくまでの道のりは、トッププロといえど容易に辿れるものではありません。それを難なくこなしているように見える藤井棋聖の中終盤力に脱帽する一局でした。
第4局は7月17日(日)に愛知県名古屋市の「亀岳林 万松寺」で行われます。藤井棋聖が連勝の勢いで防衛を決めるか、永瀬王座が先手番の利を生かしてタイに持ち込むか、後半戦を迎えた五番勝負に注目です。
相崎修司(将棋情報局)