小栗旬主演の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)の第26回(3日放送)で、大泉洋演じる源頼朝が妻・政子(小池栄子)の前で天に召された。衝撃の落馬から、命をとりとめた頼朝だったが、最後は政子に看取られる形で旅立った。脚本家の三谷幸喜氏が、頼朝の死の舞台裏を語ってくれた。
頼朝の死については歴史書『吾妻鏡』の落馬による死や暗殺節など、諸説があるが、三谷氏は準主役といえる頼朝について「ちゃんと死なせてあげたいと思いました」と思い入れを口にした。頼朝の死の間際では、妻・政子と初めて出会った日を彷彿させるやりとりも繰り広げられた。
「最初に2人が出会った時も、政子が持ってきた料理に頼朝が『これは何ですか?』と聞いたんです。当時はその台詞を頼朝が死ぬ時にも使おうなんてことは考えもしなかったです。でも、頼朝が落馬をして意識を失い、そのまま死んでいくというのは嫌だったので、今一度、彼を蘇らせたいという思いがありました。それで、頼朝が目覚めた時、政子に何を言うだろうか? と考えた時に、過去を遡ってあのシーンを思い出し、もう一度、『これは何ですか?』と言わせようと思いました」
ただ、出会いのシーンとは季節が異なるという問題が発生した。「できれば出会った時と同じ料理を政子が持ってきて、その時のことを思い出してほしいと思って脚本に書いたのですが、季節考証的に同じものが出せないという話になったんです。でも、それが物語の面白さだと思ったので、それを優先しました。僕はまだそのシーンを観てないけど、政子さんが素晴らしかったと聞いています」
頼朝の死後は、北条政子が尼将軍となって活躍していくことはよく知られたところだ。そんな政子について三谷氏は「僕は北条政子という人物がすごく悪女として名前が知り渡っていることがすごく不思議なんです。例えば織田信長ならわかるんですが、北条政子が何をしたかといえば、そんな風に言われるほどのことはしてない気がします」と政子の肩を持つ。
「実際に物語を描いていくと、いろんな局面で、政子は妻として母として当然やるべきことをやっていくだけなのに、事態はどんどん悪くなっていく。つまり、むしろ政子こそ悲劇の主人公のような気がします。たぶん政子役の小池栄子さんもそのつもりで演じていかれると思いますが、政子は決して悪女ではなく、とても真摯な1人の女性だったと思うし、そんな政子の生涯を描くことができる喜びも感じています」
また「『吾妻鏡』をいつも手元においていて、資料として読んでます」と言う三谷氏だが、『鎌倉殿の13人』は、記述にない部分が非常にドラマチックに綴られている。
「『吾妻鏡』には、御家人の誰と誰が喧嘩したとか、本当に細かいところまで書かれていますが、そのままドラマにしているわけではないです。もしかしたら、『吾妻鏡』に書かれていないことのほうが多いかもしれない。もっと『吾妻鏡』に寄せて、“鎌倉クロニクル”みたいな感じで、この日に何があったとかを淡々と描くだけでも、十分面白かった気がしますが、今回はそういうものではないです」
『吾妻鏡』から離れた部分で、脚本を書いていて面白かったエピソードの1つに、菅田将暉演じる源義経の最後のシーンを挙げる。
「義経は菅田さんが演じるという前提の下に描きました。そんな義経が最後を迎える時を、どう描けばいいだろうか? と考えた時、この義経が自ら命を絶つ瞬間は、絶対に見たくないと僕自身が思ったし、そこは視聴者のみなさんに想像させたいと思い、ああいうシーンにしました。できれば最後のシーンでは笑っていてほしいなあとも思ったので、最後に笑っている義経のイメージから逆算して書きました。実際に僕がイメージしていた義経のこれ以上にない幕の引き方になったと思います」と手応えを口にする。