dynabook Gシリーズは、13.3型ディスプレイを搭載したクラムシェルスタイルのノートPCだ。

その最上位モデル「G9/V」は、CPUに第12世代CoreプロセッサのCore i7-1260Pを搭載(他のdynabook Gシリーズは第11世代Coreプロセッサを採用)して処理能力を大幅に向上。にもかかわらず、dynabookのラインナップで最軽量のノートPC(デタッチャブル「dynabook K1」でタブレット本体のみの状態を除く)として、高い携行性能をユーザーに提供してくれる。

この記事では、一見地味ながらもなにげに使い勝手がよろしいdynabook G9/Vの処理能力と高い機動力、そして、ちょっと意外な“留意事項”について検証する。

  • dynabookラインナップで最軽量構成のGシリーズで唯一の第12世代Coreプロセッサ搭載モデルとなる「dynabook G9/V」

  • ボディーカラーは落ち着いた青系のオニキスブルーを採用する

軽量&長時間駆動の13.3型モバイルPC

DynabookモバイルノートPCのラインナップには、14型ディスプレイを搭載するdynabook Rシリーズと、今回評価する13.3型ディスプレイ搭載のdynabook Gシリーズ、そして同じ13.3型ディスプレイ搭載のdynabook GSシリーズ、dynabook Sシリーズがある。

このなかで、dynabook Rシリーズ ミドルレンジのR8/Vと、エントリークラスのR6/Vが950gを切り、dynabook Gシリーズは900gを切る。

特にG9/Vは約875gとdynabook Gシリーズでも最軽量。システムメモリ容量やストレージ容量が最多となる最上位モデルが最軽量構成というのは珍しい。

  • 評価機材の重さは実測で832gだった

サイズは標準的、豊富なインタフェースを搭載

本体サイズは幅306.0×奥行210.0×厚さ17.9mmと、13.3型ディスプレイ搭載モデルとしては特別コンパクトというわけではない。が、それでも14型ディスプレイを搭載して軽量化のためにボディを薄く小型にしたというdynabook Rシリーズ(幅312.4×奥行き224.0×厚さ15.9mm)と比べても小さくまとまっている。

このボディに最新規格のThunderbolt 4(USB 4 Type-C)を2基用意。加えて、海外PCの薄型軽量ノートPCでは載せなくなってきた、しかし日本のビジネスシーンで依然として必要とされているインタフェースとして、USB 3.1 Gen1 Type-Aを2基に映像出力としてHDMI出力、さらに、有線LANで利用するRJ-45まで備えている。

USB 3.1 Gen1 Type-Aは左右に1基ずつ用意しているので、左利き右利きいずれのユーザーにもなにげに使いやすい。無線接続インタフェースは2.4GHz対応IEEE802.11axを含むWi-Fi 6に、Bluetooth 5.2を利用できる。なお、現時点においてLTEなどが利用できるSIMスロットを備えた構成は用意していない。

  • 左側面には、2基のThunderbolt 4(USB4 Type-C)にHDMI出力、USB 3.2 Gen1 Type-A、ヘッドフォン&マイクコンボ端子を備える

  • 右側面には、microSDスロットにUSB 3.2 Gen1 Type-A、有線LAN用RJ-45を用意する

  • 正面

  • ACアダプタは右側面中央に位置するThunderbolt 4に接続する。標準付属のACアダプタのサイズは60×60×27ミリ。重さはコード込みで実測246g。出力は20Vで3.25Aだ

軽くてもMIL規格の頑丈性を確保

本体にはディスプレイ上側にカメラを内蔵。720p対応で有効画素数が約92万画素で、AIが背景ぼかしなどをしてくれる「AIカメラエフェクター」を利用できる。また、カメラとともにテレワークで需要が増えているリモート会議向けに、周囲の雑音を抑える「ノイズサプレッサー」を備えている。

  • ディスプレイ上部に配置した有効画素数約92万画素のカメラ

  • ハードウェアでレンズシャッターを用意している

800g台の重さはさすがに持ち歩いても苦にならない(筆者が常用している1.4kg・14型ディスプレイ搭載ノートPCと比べて明らかに疲労度が違う)。軽量ノートPCを持ち歩いているとやわなボディが心配で気になることが多いが、dynabook Gシリーズは軽量かつ堅牢なボディを両立させて、携行利用におけるユーザーの不安を軽減している。

G9/Vは堅牢性を確保するためにボディ素材にマグネシウム合金を採用しながらも、物理シミュレーションでボディ内部にかかる力を検証。負荷が集中する箇所にリブを設けたり、素材を肉厚にしたり、といった局所的な工夫を施すことで、本体の重さを最軽量構成で875gに抑えながら、米軍調達基準MIL-STD-810Gに準拠した耐久テストを実施予定だ(dynabook Gシリーズを開発していた時点ではMIL-STD-810Gが最新規格だった)。

なお、一口にMIL-STD-810Gといっても、そのレギュレーションの内容は細かく規定されている。dynabook Gシリーズでは、9項目においてMIL-STD-810G準拠のテストを実施しているが、その具体的なレベルは、落下試験では26方向における高さ76センチからの落下であったり、6時間にわたる粉塵吹付(粒子サイズと噴霧圧の情報はなし)であったりする。

なお、堅牢性とともに多くのユーザーが注目する防水防滴テストについて、MIL-STD-810Gでも規定はあるがDynabookによるテスト実施項目には含まれていない(湿度95%の環境で10日間置くテストは実施している)。

ディスプレイはIGZO液晶、鮮やかで見やすい表示

ディスプレイのサイズは13.3型で解像度は1,920×1,080ドットと、現在のモバイルノートPCとしては最も普遍的な仕様だ。

ただ、dynabook Rシリーズの1,920×1,200ドットと見比べると、やっぱり縦方向の解像度が少なく、Webの閲覧や文章を扱う作業では見通しが悪いな、と思ってしまうのは正直なところだ(ただ、この評価作業直前にdynabook R6/Vを評価していたのはdynabook G9/Vにとって不幸であった)。

ただし、ディスプレイパネルにIGZO液晶を採用しているおかげで、画面が明るくて見やすく色彩も鮮やかに感じた(これは、現時点でIGZO液晶を採用していないdynabook R6/Vの評価直後だったことが幸いしているのかもしれない)。

  • IGZO液晶を採用して高輝度高明細表示を利用できるディスプレイ

キーボードはピッチを19ミリ(キートップサイズは標準で15.5ミリ)、ストロークを1.5ミリ確保している。タイプすると軽い力でキーを最下部までストン! と押し下げられ、ぐらつきはないがやや華奢な感じだ(ぐっと押し下げると本体が少したわむ)。

音はキャシャキャシャとやや大きい。カーソルキーは縦方向のサイズが通常キートップの半分しかなく、上カーソルキーと下カーソルキーは1つのキートップ穴を上下に分割して同居しているのでちょっと窮屈だ。使用頻度が高いだけにストレスを感じるかもしれない(実際、評価期間中も上下スクロールは普段は使わないスクロールバーを多用した)。

  • 軽めタッチだがタイプした力を確実に支えるキーボード。タッチパッドのサイズは100×69ミリを確保している

  • ストロークは1.5ミリを確保している

  • ディスプレイの最大開度は180度で対面の人と画面を共有できる

ベンチマークはさすがの処理能力を見せつける

冒頭でも述べたように、G9/Vはdynabook Gシリーズで唯一第12世代Intel Coreプロセッサを採用した点が大きな特徴だ。

個人向けモデルでは省電力・高性能なTDP28Wの“P”シリーズを採用し、今回評価する構成ではCore i7-1260Pを搭載している。なお、システム構成をカスタマイズできるWeb直販モデル(dynabook GZのGZ/HV)でもCPUはCore i7-1260Pのみとなっている。

Core i7-1260Pは処理能力優先のPerformance-cores(P-core)を4基、省電力を重視したEfficient-cores(E-core)を8基組み込んでいる。

P-coreはハイパースレッディングに対応しているので、CPU全体としては16スレッドを処理できる。動作クロックはベースクロックでP-coreが2.1GHz、E-Coreが1.5GHz、ターボ・ブースト利用時の最大周波数はP-coreで4.7GHz、E-Coreで3.3GHzまで上昇。Intel Smart Cache容量は合計で18MB。

TDPはベースで45W、最大で64Wとなる。G9/Vはグラフィックス処理にCPU統合のIris Xe Graphicsを利用する。演算ユニットは96基で動作クロックは1.4GHz。グラフィックスメモリはシステムメモリ共有。

  • CPU-ZでCore i7-1260Pの仕様情報を確認する

  • GPU-ZでIris Xe Graphicsの仕様情報を確認する

G9/Vの処理能力に影響するシステム構成を見ていくと、試用機のシステムメモリはLPDDR5-4800を採用していた。容量は32GBでユーザーによる増設はできない。ストレージは容量512GBのSSDで試用機にはSamsungのMZVLQ512HBLUを搭載していた。接続バスはNVM Express 1.4(PCI Express 3.0 x4)だ。

dynabook G9/V(試用機)の概要

製品名 dynabook G9/V
CPU Core i7-1260P (P-core4基E-core8基8+8スレッド、動作クロックP-core2.1GHz/4.7GHz、E-core1.5GHz/3.3GHz、L3キャッシュ容量18MB)
メモリ 32GB (LPDDR5-4800を4GB×8スロットで実装)
ストレージ SSD 512GB(PCIe 3.0 x4 NVMe、MZVLQ512HBLU Samsung)
光学ドライブ なし
グラフィックス Iris Xe Graphics(CPU統合)
ディスプレイ 13.3型 (1,920×1,080ドット)非光沢
ネットワーク IEEE802.11a/b/g/n/ac/ax対応無線LAN、Bluetooth 5.2
サイズ / 重量 W306.0×D210.0×H17.9mm / 約875g
OS Windows 11 Home 64bit

Core i7-1260Pを搭載したdynabook G9/Vの処理能力を検証するため、ベンチマークテストのPCMark 10、3DMark Time Spy、CINEBENCH R23、CrystalDiskMark 8.0.4 x64、そしてファイナルファンタジー XIV:漆黒のヴィランズを実施した。

なお、比較対象としてCPUにCore i7-1165G7(4コア8スレッド、動作クロック2.8GHz/4.7GHz、L3キャッシュ容量12MB、統合グラフィックスコア Iris Xe Graphics)を搭載し、ディスプレイ解像度が1,920×1,080ドット、システムメモリがDDR4-3200 8GB、ストレージがSSD 512GB(PCI Express 3.0 x4接続)のノートPCで測定したスコアを併記する。

ベンチマークテスト dynabook G9/V 比較対象ノートPC
PCMark 10 5305 4615
PCMark 10 Essential 9641 9645
PCMark 10 Productivity 6980 6081
PCMark 10 Digital Content Creation 6020 4549
CINEBENCH R23 CPU 6973 4119
CINEBENCH R23 CPU(single) 1586 1380
CrystalDiskMark 8.0.4 x64 Seq1M Q8T1 Read 3114.19 3249.66
CrystalDiskMark 8.0.4 x64 Seq1M Q8T1 Write 1542.08 2679.52
3DMark Night Raid 15358 10635
FFXIV:漆黒のヴィランズ(最高品質) 3954「快適」 2348「普通」

先日レビューを掲載したdynabook R6/VのCore i5-1240Pと同じく、第12世代Coreプロセッサのおかげで、G9/Vでもほとんどのベンチマークテストで比較対象を上回るスコアを出している。

Core i5-1240Pでは苦戦したPCMark10のEssentialとProductivityのスコアでもほぼ同等から明らかに上のスコアを出しており、グラフィックス処理のウェイトが高いDigital Content Creationのスコアや、グラフィックス処理能力の高さがモノ言うゲーミングベンチマークテストの3DMark、ファイナルファンタジーXIV:漆黒のヴィランズのスコアではより一層高いスコアをたたき出した。

ただ、ストレージの転送速度を評価するCrystalDiskMark 8.0.4ではRead、Writeともに比較対象のスコアを下回っている。これは、比較対象ノートPCが搭載しているSSD(KXG6AZNV512G)の転送速度(シーケンシャルリードで3100MB/s、シーケンシャルライトで2800MB/s)と比べ、G9/Vで搭載しているSSD(MZVLQ512HBLU)が遅い(シーケンシャルリードで2200MB/s、シーケンシャルライトで1200MB/s)ことが影響している。

CINEBENCHでCore i5-1240Pを下回った?

なお、CINEBENCH R23 Multi Coreスコアが、先日レビューを掲載したdynabook R6/VのCore i5-1240Pより低かった(Core i7-1260Pを搭載するG9/Vのスコアが6980なのに対し、Core i5-1240Pを搭載するR6/Vのスコアが9341)。

この理由についてDynabookの開発担当に尋ねたところ、dynabook Rシリーズとdynabook Gシリーズでは、処理能力と冷却機構のチューニングにおけるコンセプトが違うとの説明があった。

dynabook Rシリーズのチューニングポリシーでは、Intel EVOが定める条件のクリアが最優先とされている。そのため、クーラーユニットはデュアルファン構造として冷却能力を強化したうえで、CPUの駆動電圧を最大にした状況でも長時間稼働することを可能としている。

一方、dynabook Gシリーズでは軽量化を最優先としており、そのため、クーラーユニットはシングルファン構造としている。dynabook Rシリーズと比べて冷却性能に制限があるため、CPU駆動電圧を最大にした状態で稼働できる時間は相対的に短くなるという。

「この開発の優先順位の違い(性能か重さか)によって、最大電力の維持がスコアに直結するようなCINEBENCH R23で影響がでていると考えられます」(Dynabook開発担当者)

軽さと高い処理能力を両立、検討の価値あり

dynabook G9/Vのバッテリー駆動時間はDynabookの公式データにおいてJEITA 2.0の測定条件で約24時間となっている。内蔵するバッテリーの容量はPCMark 10のSystem informationで検出した値で53,130mAhだった。

バッテリー駆動時間を評価するPCMark 10 Battery Life benchmarkで測定したところ、Modern Officeのスコアは11時間12分(Performance 5111)となった(ディスプレイ輝度は10段階の下から6レベル、電源プランはパフォーマンス寄りのバランスにそれぞれ設定)。

G9/Vでも高効率なクーラーユニットをボディに組み込んで高い効率で内部を放熱することになるが、そうなると本体の発熱やクーラーファンの発する音量が気になるところだ。

電源プランをパフォーマンス優先に設定して3DMark NightRaidを実行し、CPU TESTの1分経過時において、Fキー、Jキー、パークレスト左側、パームレスト左側、底面のそれぞれを非接触タイプ温度計で測定した表面温度と、騒音計で測定した音圧の値は次のようになった。

  • ヒンジ奥に排気スリットを設けており、ディスプレイを開いた状態でパネルに沿って排熱されていく

  • 底面には奥側に広範囲に吸気用スリットを設けている。このスリットの奥側にはゴム足が堤防のように仕切ってあり、背面側に滞留しやすい内部排熱を内部に取り込まないようにしている

表面温度(Fキー) 43.7度
表面温度(Jキー) 38.9度
表面温度(パームレスト左側) 31.1度
表面温度(パームレスト右側) 30.9度
表面温度(底面) 44.6度
発生音 46.6dBA(暗騒音35.6dBA)

ホームポジションキートップとパームレストの表面温度では、Fキーで40度を超しておりJキーも体温を上回っている。やはり「うーん、暑い」と感じてしまう温度だ。底面では、スリット中央奥周辺が最も温度の高いところで45度台に迫り、(44度~50度程度でも長時間接触しているとやけどになるとする)日本創傷外科学会が警告する低温やけどのリスクがあるレベルだ。ファンが発する音量も大きく、静かな図書館やカフェなどでは、電源プランをバランスなどに設定してファンの回転数を抑えるのが無難だろう。

本体の重さ875gと軽量で、かつ、第12世代CoreプロセッサでTDP28ワットタイプのCPUを搭載するdynabook G9/Vは、常に高い処理能力を必要とするユーザーにとって一考の価値があるモバイルノートPCといえる。携帯するのに必要なバッテリー駆動時間も実測11時間強と優秀。その評価は“軽さ”重視のチューニングによってピーク時性能を抑制しているとしても変わることはない。

【お詫びと訂正】初出時、ベンチマークスコア表の機種名が「dynabook R6/V」となっていましたが、正しくは「dynabook G9/V」です。お詫びして訂正します。(2022年8月8日 10:25)