夏になると、「土用の丑の日」というフレーズとともに、スーパーの店頭や広告などでうなぎを見掛けることが多いですよね。しかし、土用の丑の日とは実際に何のことなのか、具体的にはいつなのか、そしてどうしてうなぎを食べるのかなど、疑問に思ったことはありませんか?
本記事では土用の丑の日の詳しい意味をご紹介。さらに、由来やうなぎを食べる理由、うなぎ以外に土用の丑の日に食べられているものなども解説します。
土用の丑の日の意味とは? - 2023年は7月30日
土用の丑の日は、「土用」と「丑の日」の組み合わせにより決められる日です。2023年は7月30日が夏の土用の丑の日です。下記にて、意味を詳しく説明していきます。
「土用」の意味
「土用」は「土曜日」とは無関係で、立春、立夏、立秋、立冬前日までの、約18日間の「期間」を表しています。そのため土用は、実は夏だけではなく、春夏秋冬で一年に4回あります。
この土用の由来ですが、古代中国には「陰陽五行説」というものがありました。その思想は世の中のすべてのものを「木・火・土・金・水」の5つに分類するという考えで、これを四季に当てはめたとき、春は木、夏は火、秋は金、冬は水とされました。余った土は、それぞれの季節の変わり目に当てはめられ、「土が盛んに働く、季節の変わり目の準備期間」という意味を持つとされています。
なお立春、立夏、立秋、立冬の日付は、太陽の動きによって決まるので、土用の期間も毎年少しずつ異なります。
「丑の日」の意味
「丑の日」というのは十二支から来ています。十二支というと、今年は寅年、来年は卯年…というように、年が明けるごとに変化していくものだと思う人も多いでしょう。しかし、十二支は一年ずつのみならず、一日ずつ割り当てられているものでもあります。今日は子の日、明日は丑の日…というようになっているのです。
つまり、「土用の丑の日」とは、土用である約18日間の中の、丑の日のことを指しています。なお前述のように、土用は本来は一年に4回あるものですが、一般的には「土用の丑の日」というと、立秋の前日までの、夏の土用における丑の日を指すことが多いようです。
「二の丑」とは
さて土用の期間は約18日なのに、十二支には12の動物しか割り当てられていません。つまり土用の丑の日は、土用の期間に2日ある場合もあるのです。この場合は最初の土用の丑の日を「一の丑」、2回目の土用の丑の日を「二の丑」と呼びます。
今年の土用の丑の日はいつ?
では具体的に、土用の丑の日がいつなのか、その日付を見ていきましょう。ここでは夏の土用の丑の日を中心に記します。
毎年、立秋は大体8月8日ごろで、夏の土用はその前日までの約18日間なので、7月21日ごろ~8月7日ごろにあたります。
2023年の「土用の丑の日」の日付
7月30日(日)
2023年は、夏の土用の丑の日に、二の丑はありません。
なお前述のように、土用は本来は春夏秋冬で一年に4回あるものです。参考までに、2023年の全ての土用の丑の日も紹介します。
冬の土用の丑の日 | 1月19日(木)・1月31日(火) |
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春の土用の丑の日 | 4月25日(火) |
夏の土用の丑の日 | 7月30日(日) |
秋の土用の丑の日 | 10月22日(日)・11月3日(金・祝) |
2024年の「土用の丑の日」の日付
7月24日(水)、8月5日(月)
2025年の「土用の丑の日」の日付
7月19日(土)、7月31日(木)
2022年の「土用の丑の日」の日付
7月23日(土)、8月4日(木)
「土用の丑の日=鰻(うなぎ)」は誰が決めた?
では、夏の土用の丑の日になぜうなぎを食べるようになったのでしょうか。これはいくつかの習慣や出来事が重なり合ったからだと考えられています。
「夏バテ防止にうなぎ」の考えは奈良時代にも
夏は暑くて食欲が落ち、体力も衰え気味の季節です。万葉集の中には既に、「夏には栄養のあるうなぎを食べて精をつけよう」といった趣旨の歌がありました。
「石麻呂(いはまろ)に われ物(もの)申(まを)す 夏痩(や)せに良(よ)しといふ物そ 鰻(むなぎ)取り食(め)せ」
この歌は大伴家持(おおとものやかもち)から、吉田老(おゆ)という友人に送られた歌です。「石麻呂(=吉田老)に私は申し上げたい。夏痩せによいというものである鰻(うなぎ)をぜひ取って召し上がりなさい」という意味の歌になります。
うなぎが定着したのは平賀源内の影響?
前述のように、うなぎが夏バテや夏痩せに効果的な食べ物であるという認識は奈良時代からあったようですが、夏の土用の丑の日と結び付くようになったのは、江戸時代ごろのことではないかとされています。
蘭(らん)学者や発明家など複数の肩書を持ち、日本のレオナルド・ダヴィンチとも呼ばれる江戸の天才、平賀源内(1728年~1779年)。彼が「マーケティング力」で、うなぎを土用の丑の日に売るようにした、という説があります。
元々、うなぎの旬は冬。また、こってりした味付けのうなぎの蒲焼きは、夏にはあまり売れず、うなぎ屋さんは困っていました。そのうちの一人が平賀源内に相談したところ、「本日は土用の丑、鰻(うなぎ)食うべし」というキャッチコピーをかかげて売るようにとアドバイスしました。するとうなぎが飛ぶように売れるようになり、周りのうなぎ屋さんもまねするようになった、ということなのです。
ただしこちらには明確な証拠があるわけではないので、あくまでも一説にすぎません。
しかし1822年の『明和誌』という随筆集には、「土用に入り、丑の日にうなぎを食す。寒暑とも家毎になす。安永・天明のころよりはじまる」という記述があります。これは、「暑中と寒中の土用の丑の日に鰻を食すという慣習が、安永・天明ごろから始まった」という意味です。
安永時代は1772年~1781年、天明時代は1781年~1789年なので、平賀源内が生きた時代にちょうどうなぎを食べる文化が始まったともいえます。もしこの平賀源内の説が本当だとしたら、改めてマーケティングやブランディングというものの力について考えさせられますね。
うなぎ以外で土用の丑の日におすすめの食べ物
夏の土用の丑の日は、体調を崩しやすい、夏真っ盛りの時期です。ですから縁起を担いで、「丑」の「う」が付く食べ物で栄養を取ろうという言い伝えが、うなぎが広がる以前からあったとされています。
その他、しじみやたまごのように、栄養価が高くエネルギーの源になる食べ物が好んで食されてきました。いくつかご紹介します。
うどん
うどんは消化に良く、エネルギーの元となる炭水化物でできているので、夏バテ気味のときや食欲がないときにも重宝する食べ物です。ツルッと喉越しが良くて食べやすく、上に載せる食材によっては炭水化物以外の栄養も摂取しやすいでしょう。
瓜(うり)
特にきゅうり、すいかなどは夏が旬の食べ物ですよね。きゅうりは「胡瓜」、すいかは「西瓜」と書くだけあり、どちらもうり科の植物です。
水分量も多く、体の熱を取る作用を持っているので、夏に食べる食べ物としておすすめです。
梅干し
梅干しは、主に6月に収穫した梅を塩漬けにして作ります。梅雨が明けたら天日に干す、梅の土用干しも有名です。
うどんとも合わせやすく、さっぱりと食べられるでしょう。
土用しじみ
しじみには夏と冬の2回、旬があります。特に産卵期を迎えた夏は身も太って栄養満点で、「土用しじみ」と呼ばれています。
「土用しじみは腹の薬」といわれるくらい、体にいいとされています。
土用餅
土用餅とは、特に北陸や関西で土用の丑の日に食べられている、あんころ餅のことです。
小豆は昔から厄除け(やくよけ)になると考えられおり、「力持ち」を連想させる餅とともに食すことにより無病息災がかなうとして、土用餅の習慣ができたと考えられています。
土用たまご
土用たまごは、土用の時期に産み落とされた卵のことをいいます。
たまごは栄養価が高く、疲労回復や滋養強壮にぴったりのため、暑い夏の土用の時期を乗り切るのに最高の食べ物なのです。
食べ物以外の風習
土用の丑の日には、おいしいものを食べるだけでなく、いろいろな風習もあります。古くからある風習の中でも、現代に残っているものをいくつかご紹介します。
丑湯(うしゆ)
丑湯とは、土用の丑の日に、湯船に薬草を入れて入浴することにより、無病息災を願うことです。 江戸時代には桃の葉がよく使われていたそうです。
現代で再現するとすれば、入浴剤やハーブを入れたお風呂でリラックスするということになりそうですね。しっかりとお湯につかって、疲れを取りましょう。
きゅうり加持(かじ)
きゅうり加持とは、弘法大師が広めたとされる、お寺で行われる風習です。体調を崩しやすい夏を健康に乗り切れますように、という願いを込めて、きゅうりに病苦を閉じ込める祈祷をします。そのきゅうりは土に埋めて供養します。
土用の虫干し
土用の虫干しとは、衣類や本などにわく害虫を、風通しの良い場所で陰干しすることによって追い払うことです。土用干しともいいます。
土用は梅雨明けの時期と重なることが多いので、梅雨の間に干すことができなかったものを干すのにいいタイミングです。乾燥機をあえて使わずに、日に当ててみるのもいいかもしれないですね。
「土用の丑の日にうなぎ」の由来は諸説あり
土用の丑の日は、古くからあるイベントです。だからこそ、まことしやかに囁(ささや)かれているいろいろなエピソードも、実際は本当かどうかわからないものの可能性もあります。
しかし、うなぎが栄養満点の食べ物であることは事実です。うなぎに限らず、「う」の付くさまざまな食べ物や、土用の丑の日にゆかりのある食べ物で夏バテを追い払いましょう!
また、薬草の入った湯につかったり、きゅうりに厄を閉じ込めたりと、ユニークな風習もたくさんあります。ご家族で歴史を体験してみるのも面白そうですね。