熊本大学(熊本大)、東北大学、大阪大学(阪大)の3者は6月30日、電気を流しにくい絶縁体状態にある有機結晶を、ヨウ素の蒸気に曝すことによって電気をよく流す金属状態に変換し、それをまた絶縁体状態へ戻すことに成功したと発表した。

同成果は、熊本大大学院 自然科学教育部の照屋亮太大学院生、同・大学院 先端科学研究部の上田顕准教授、同・松田真生教授、東北大大学院 理学研究科の佐藤鉄大学院生(研究当時)、同・山下正廣名誉教授、阪大大学院 理学研究科の花咲徳亮教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、独国化学会の刊行する公式学術誌の国際版「Angewandte Chemie International Edition」に掲載された。

理論的には電気をよく通す金属状態になるはずが、実際には電気を通しにくい絶縁体状態となる「強相関電子材料」は、通常の絶縁体とは異なる性質を有していることがわかっている。

有機系の強相関電子材料も多く存在するが、化学的なキャリアドープによる、絶縁体から金属への状態変化を達成できた報告はないという。無機材料で行われるキャリアドープの多くは、化合物中の一部の原子をほかの原子に置き換えることで達成されるが、有機材料においては同様の原子置換・分子置換を行うことは難しいことが理由だとされている。

そこで研究チームは今回、有機分子「リチウムフタロシアニン」(LiPc)が、柱を形成するように積み重なって結晶化している有機強相関電子材料に注目し、研究を進めることにしたという。

  • リチウムフタロシアニンの分子構造

    (a)リチウムフタロシアニンの分子構造。(b・c)同物質の結晶構造。(b)と(c)は見る角度を変えたもの (出所:プレスリリースPDF)